【話題作】24時間以内に社長の不倫相手を特定しないと網走転勤!
庶務課の谷口真美か広報の白川伶。あやしいのはこの2人だ。
ともかく社長との接点が多くて、かなり頻繁に話す姿を見かける。
一緒に会議室へこもっていることだってある。
谷口真美は26才。丸顔で笑顔が愛らしく、いつもニコニコしている姿は仕事に疲れた男性社員達の憩いになっている。俺もよく出張精算を頼むのだが、嫌な顔一つせずに笑顔で受け答えする姿には、心底癒される。
一方の白川玲は24才。細すぎる体形に透き通るような白い肌。
外見上は線が細い印象だが、仕事ぶりは真逆でかなりテキパキと動き回る。
きりっとした眉に引き締まった口元。横顔にも品があって彼女のファンも多い。
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「うちの人、絶対浮気してるわ!秘書のあなたなら何か知ってるんでしょう!」
社長夫人に呼び出されたのは昨日の午後7時。元々の高音ボイスをさらに1オクターブ上昇させた金切り声で、俺は責められる。
「何も存じておりませんし、社長に限ってそのような事実は無いと思います。」
そんな通り一辺倒の言い訳で社長夫人が納得するわけがない。蛇のような目で俺を嘗め回した後、こう言い放つ。
「明日の午後7時までにその泥棒女を見つけてきなさい。それが出来なかったら、あなたは来月から網走に転勤です!」
社長夫人の肩書は会長だ。経営者としての才能は皆無だが、創業者の娘というだけで社長よりも大きくて傲慢な権力を持っている。社長は娘婿、いわゆるマスオさんでしかない。
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「はあっ」俺は深いため息をつくと、2人を観察し始める。
谷口真美は可愛らしく、白川玲は美人タイプか。社長はどっちが好みなんだろう。
2人とも独身だが、浮いた噂は聞いたことがない。
ふと見ると年配の男が一人、谷口真美に話しかけている。
設備担当の熊田だ。人の弱みに付け込むのが好きな嫌な奴だ。
熊田は領収書の束を手に持っているから、精算を頼んでいるんだろうけど、やけに馴れ馴れしい。
椅子に座ったままの谷口真美の肩に手を置いたかと思ったら肩をもみ始めた。
しかもその手がだんだん下がってきて、彼女の胸元を探り始める。
谷口真美は困った顔で身をよじるが、熊田は手を放さない。
その時である。突然、社長が現れて厳しい口調で熊田に声を掛ける。
「熊田くん、ちょっと会議室に来てくれ!」
緊張した面持ちの熊田を引き連れて会議室に消えていく社長。
数分後、会議室から出てきた熊田の顔面は蒼白ですごすごと部屋から出ていく。
愛人にちょっかいを出されて頭に来たのか?不倫相手は谷口真美で決まりか?
社長と谷口真美が連れ立って廊下へ出ていくのを見て、俺は密かに後をつける。
2人がヒソヒソ声で話すのが聞こえる。
「熊田君には厳しく言っておいたから、もう心配いらないよ。」
「助かります社長。それから後任の件も、急なお願いにも関わらず対応して頂いて、、、」
「そんなこと心配しなくていいから。それよりも元気な赤ちゃんを産んだら、また戻ってきてくれよ。」
「ありがとうございます。順番は逆になっちゃうけど結婚式もやりたいので、改めてご連絡いたします。」
どうやら谷口真美が不倫相手という線は消えたようだ。となると白川玲か!
不倫するタイプには見えなかったんだけど、女って分からないもんだなあ。
白川玲を目で探すと、彼女は青ざめた顔で受話器を握りしめていた。
「申し訳ありません、ご希望の納期を勘違いしておりました。申し訳ありません。」
いつもはクールで気丈な彼女だが、今は目にいっぱいの涙を浮かべて受話器に向かって何度も謝っている。何か大きなミスでもしたのか?
彼女にしては珍しいくらい動揺していて、ちょっと心配だ。
と思った矢先、突然に崩れ落ちる。
「危ない!」
彼女の体を受け止めたのは社長だった。社長は片手で彼女を支えながら、もう一方の手で受話器を優しく取り上げ、会話を引き取る。
「この度は大変ご迷惑をお掛け致しました。お約束の品は可能な限り早急に納めさせて頂きます。お詫びと言ってはなんですが、〇〇社が限定発売しました新商品を無償で提供させて頂きます。ノベルティもセットでお付けていたします。」
結局、商談は上手くまとまったようだ。さすがは社長。
白川玲は社長に抱きかかえられながら、安堵と感謝の表情を浮かべている。
こう見るとお似合いのカップルだな。社長の相手は白川玲だったか。
白川玲が軽くウインクする。社長も隅に置けないな、と思ったのだが、別の男がそれに答えるのが見える。
あいつは確か広報部の牧田。この2人付き合っていたのか!
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俺は社長夫人と対峙している。
不倫相手と思っていた2人は全くの見当違いだったようで、もはや開き直るしかない。
「確かに疑わしい女子社員が数名おりました。ただ厳正なる調査の結果、全員が無実であることが判明いたしました。奥様が想像されるような事実は無かったと思われます。」
「じゃあ商売女なんじゃないの!最近はいつも終電帰りで、絶対あやしいわ。」
社長夫人はまだ食い下がる。
「社長は只今、〇〇商事との提携案件を抱えておられ大変お忙しい状況です。
今週は毎日終電まで社で残業されておりました。自分もずっと一緒でしたので間違いありません。」
いまだに不満そうな表情を浮かべていたものの、社長夫人も最終的には納得したようだった。
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俺は会社に戻って残りの仕事を片付けている。
金曜の深夜なのでもう誰もいない。
社長夫人には本当に参った。おかげで丸々1日分の仕事が手つかずで残ってしまった。
「バタン」遠くで扉が開く音が聞こえた。
コツコツと廊下を歩く靴音が近づいてくる。
背後に人の気配を感じたと思ったら、誰かが俺の肩に手を置く。
「こんなに遅くまで残業かね。」それは社長の声だった。
「女房から話しは聞いたよ。面倒を掛けてしまって本当にすまなかった。」
そう言うと社長は優しく俺のことを抱きしめる。
「そんな言い方しないで下さい。社長のお役に立てるだけで自分は嬉しいのですから、、、、」
そのセリフを言い終える前に、社長の唇がおれの唇をふさぐ。
俺たちはお互いを求めて強く抱きしめ合う。
そう、社長の愛人は俺だ。
小娘に社長を取られたと思った時にはこの世の終わりかと思ったが、それは間違いだった。
やはり俺は社長に愛されていた。
社長の手が俺の下半身に優しく触れる。体中に戦慄が走る。
念のため言っておくが、これは不倫ではない。俺たちは男女の仲ではないのだから。