夢幻の世界での戦い
弾き飛ばされたナイフは地面に転がった。
夢食みジャックは夢刈りと呼んだ大鎌を肩にかついだ。
「くそ、僕は選ばれた人間なんだ。こんなところでやられるわけにはいかないのだ」
そう言い、吊られた男はロープを手繰り寄せるとまたぶるんぶるんと振り回しはじめた。ナイフは弧をえがき、空中を舞い、風を切り裂く。
「そうだ。お前のアルカナを奪ってやる。そうすれば俺は四枚揃いだ」
ふひゅうふひゅうとまたあの呼吸音を発しながら、吊られた男は言った。
「やれるもんならやってみな」
対する夢食みジャックは余裕の表情だった。
それだけ生きているのではないかと思われるほどの動きでロープにくくりつけられたナイフが夢食みジャックの顔めがけて飛来する。
ナイフは風を切り裂き、最後には夢食みジャックの顔面を切り裂くべく襲いかかる。
もし当たれば、夢食みジャックの愛嬌のある顔はザクロの実がわれるようにまっぷたつに裂けるだろう。
夢食みジャックは赤い唇をにやりとさせると、ふたたびランタンに息をふきかけた。
紅蓮の炎が周囲に舞う。
その真っ赤な炎は大鎌にまとわりつく。
大鎌こと夢刈りに炎で燃え盛る。
夢食みジャックは大鎌を軽々と振るうと地面を蹴った。
ナイフがもと夢食みジャックの顔があった場所を通過する。
ナイフの攻撃をかわした夢食みジャックは一気に距離をつめる。
吊られた男はまたナイフをひきよせる。
今度はそれを手に持った。
距離をつめる夢食みジャックに対してナイフをかまえると今度は彼女のボリュームたっぷりの胸めがけて突き立てた。
そのままではナイフは夢食みジャックの心臓に突き刺さるだろう。
だが、彼女は人間離れした身体能力を見せつけた。
これこそ彼女が人間ではない証明になるのかもしれない。
夢食みジャックは大きく背をのけぞらした。
頭にのったつば広帽が地面につくほどだ。
ナイフはまたもや空気だけを切り裂く。
夢食みジャックはすぐにもとの体勢にもどると驚愕の表情を浮かべる吊られた男の右肩めがけて大鎌を突きつけた。
炎に包まれた夢刈りは吊られた男の右腕を切り裂いた。
大量の血液を流しながら、吊られた男の右腕がぼとりと地面に落ちた。
「ぐぎゃあああ」
醜い悲鳴をあげ、不様に地面をのたうち舞う。
僕はその光景を見て正直いい気味だと思った。
やつのせいで何人もの罪のない少年少女が殺されたのだ。
一度死んだぐらいではその罪は決してきえないだろう。
やつはもう一度死んでもらわないといけない。
やれるなら僕の手でやりたかったが、どうやらこの夢食みジャックという謎の女がやってくれそうだ。
僕は心から彼女に感謝した。
腕の中のヨウコもこの戦いをじっと見ている。
妹と同じ名をもつ彼女もこの戦いを見届ける権利があるのだ。
地面を転がる吊られた男に夢刈ジャックは大鎌の切っ先を突きつける。
その刃は地獄の業火のように燃えていた。
「ひいいっっ。ゆ、許してくれ。許してくれよ」
情けなくこの吊られた男は泣き叫び、命乞いをしている。
「なんだいさっきまでの威勢はどこにいったんだい。アタシはもっと楽しみたかったのにねえ」
夢食みジャックは器用にランタンを持ちながら、スキットルからぐびりぐびりと中身を飲んだ。
「駄目だね。おまえはそうやって助けをこう子供たちを自分の欲望の慰みにしたのだろう。今度はお前の番だよ」
冷たく夢食みジャックは言った。
大きく夢刈りを振りかぶると彼女は一気に振り下ろした。
「や、や、止めてくれ」
吊られた男はそう叫ぶが夢刈りは動きをとめない。
夢刈りの切っ先が吊られた男の首筋に突き刺さる。
そのまま夢刈りは吊られた男の首をはねてしまった。
「アルカナ所有者でもあっけないもんだね」
落胆した声で夢食みジャックは言った。
夢食みジャックは地面に転がるバラバラになった吊られた男の死体にスキットルの飲み口を向けた。不思議なことにその飲み口に向かって吊られた男の流れ出す血液だけが吸いとられた。あっという間に地面には干からびたバラバラ死体だけがのこった。その死体から吊られた男のカードを取り出すと深い胸の谷間にしまった。
「どうやら四枚揃いになったのはアタシのようだね」
ケケケと下品な笑いを夢食みジャックは浮かべた。