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吊られた男

 早瀬さんと別れ、自宅に帰った僕は妹の遺影に犯人Aが絞首刑になったことを報告した。

 母はヨウコを膝の上にのせ、テレビを見ていた。

 

 僕は夕食を食べた後、風呂に入り、ベッドに横になった。

 疲れた僕はすぐに眠りに落ちた。




 気がつくと僕は錆びたベンチに座っていた。

 空気が蒸し暑い。

 そしてどこか見覚えのある光景だった。

 ブランコに滑り台、シーソーに動物の乗り物が二つあった。

 ああ、そうだ。

 ここは見覚えがあるはずだ。

 妹の葉子とよく遊んだあの児童公園だ。

 どうして、僕はこんなところにいるのだろうか?

 皆目見当がつかない。

 僕はあたりを見回した。

 まわりに人の気配はない。

 いや生き物が一匹いた。

 僕の足元に一匹の猫がいた。

 さすがにこの猫は見覚えがある。

 白猫のヨウコだ。

 ヨウコは僕の横に飛び乗るとシャツの袖口を噛んだ。

 くいくいと引っ張っている。

「なに、どうしたの?」

 僕はヨウコに聞いてみた。

 しかし、まあ、当然であるが彼女が答えることはない。

 ただ、袖を口で噛み、引っ張るだけであった。


 「なに、ヨウコどうしたいの」

 僕は言い、ヨウコの背中をなでた。

 これはなんの合図だろうか。

 ヨウコはなにか伝えたいような気がする。

 と僕が思案しているとなにか呼吸音がする。

 うん、誰かいるのかな。

 ついさっきまでは人の気配などしなかったのに。

 何者かが息をするの聞こえる。

 ふひゅうふひゅうとおかしな息の仕方であった。

 なにかで押さえつけられているような息の仕方であった。

 僕はその息の方を見た。

 はっきりとはわからないが人のような者が立っている。

 そこからふひゅうふひゅうという呼吸音がする。

 その音が聞こえるとヨウコはさらに袖をぐいぐいと引っ張る。

 いったいどうしたというのだろう?

 ヨウコは力をこめて袖口を噛み、引っ張っている。

 不気味な気配に僕は恐怖を覚え、ベンチから立ちあがった。

 ヨウコもベンチから降り、駆け出した。

 僕はヨウコの後を追う。

 何故だかわからないが、ここにこのままいてはいけないような気がした。


 もういいかい……。

 もういいかい……。

 もういいかい……。


 その声はかなり聞き取りにくいものだったが、男の声だった。

 この声、どこかで聞いたことがあるな。

 記憶をたどるが思い出せない。

 思い出せないまま、僕はヨウコを追いかけ、公園を後にした。


 背後ではまだあのふひゅうふひゅうという呼吸音がする。

 公園を出た僕たちはある家にたどり着いた。

 その家はかなりの大きさの家だった。

 それなりに裕福な家庭なのだろう。

 調度品もこったものばかりであった。

 ヨウコはある部屋の前で立ち止まった。

 僕はその部屋のドアノブに手をかける。

 僕は部屋の中を見て驚愕した。

 思わず、うっと声をもらしてしまった。

 部屋の両端の棚には瓶にいれられた体の一部が並べられていた。

 鼻や目玉、唇、指などがよくわからない液体に浸かり、浮かんでいた。

 僕は口に手をあてる。

 吐き気を覚えた。

 ヨウコが棚に飛び乗り、ある瓶の横にすわった。

 その瓶にはちいさな指が泳いでいた。

 僕はその指を知っている。

 葉子の指だ。

 その瓶を抱き締め、僕は泣いた。涙が勝手に頬を流れる。ヨウコがその涙をなめた。


 ふひゅうふひゅうふひゅう。

 またあの呼吸音がする。

 その音を聞き、僕はあわててその部屋を出た。

 ヨウコと一緒にクローゼットに隠れる。

 どうにかやりすごせるだろうか。


 ふひゅうふひゅうふひゅう。

 その呼吸音はだんだん近づいてくる。

 徐々にその息は大きく聞こえる。

 かなり近づいている。

 クローゼットのドアのすぐむこうに奴はいる。

 僕はクローゼットのわずかな隙間から奴の姿を見た。

 紫の顔が見えた。まぶたは腫れ上がり、目玉が半分ちかく飛び出ていた。口からはだらだらとよだれをたらしていた。顔中腫れ上がり、不気味であった。そして首には長いロープが巻き付けられていた。

 かなり変わってはいるが僕はこの男の顔を知っている。

 間違いない、あの男だ。


 妹を拐い、殺した、犯人Aだ。


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