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かくれんぼの終わり

 誰かが肩を強く揺さぶるので、僕は目を覚ました。

「お兄ちゃん、休みだからって寝過ぎよ」

 僕の顔をのぞきこむ可愛らしい女性の顔があった。

 それは成長した葉子の姿であった。

 僕はその姿を見て、勝手に涙が流れるのを覚えた。

 それを見た葉子が不思議そうに首をかしげた。

 ちょっと気味悪そうな顔をしている。

「お兄ちゃん、ちょっと変よ。すごい寝汗だし。早くシャワー浴びてご飯たべちゃってよね。お昼から映画観にいく約束でしょう」

 そう言い、葉子は部屋を出ていった。

 僕はパジャマの袖で涙をぬぐった。


 あれは夢ではなかったのだ。どこから夢でどこまで現実かはわからないが僕は過去を変え、未来を変えたのだ。


 ためしにスマホであのときの事件を検索してみた。

 若きエリートビジネスマンの狂気の犯罪が週刊紙や新聞の記事になっていた。

 巡回中の警察官が職務質問中に偶然凶器を発見し、逮捕にいたったということであった。

 逮捕時にすでに四人もの少年少女が犠牲になっていたという。

 葉子はその次の犠牲者になるかもしれなかったのだ。

 あの夢食みジャックとの出会いが過去を変えるきっかけとなったのだ。



 僕がリビングに降りていくと新聞を広げている父がいた。

 葉子が死なずにすんだので当然、父も事故死することがなくなったのだ。

 僕はまた涙が流れそうになるのを我慢した。

 父からしたらあの悲惨な未来をもちろんしらないのだ。

 こんなところで一人泣いていたらおかしな人間になってしまう。


 僕はシャワーを浴び、たっぷりとかいた汗をながした。

 ふとした瞬間に夢食みジャックの酒焼けした声が頭の中で再生される。

 やはりあれは現実だったのだ。

 あの記憶はたしかに存在するものであった。


 服を着替え、僕はキッチンに向かった。

 そこにはエプロン姿の母が朝食を作っていた。

「こんなに遅いのは珍しいわね」

 にこやかに母はテーブルに僕用の朝食を並べてくれた。

 そこには元気な母の姿があった。

 あの精神を病んでいた母の姿ではない。

 同じように年をとっているが元気で明るい母の姿であった。


 昼になり、僕はとあるショッピングモールに併設されるシネコンにいった。

 妹はポップコーンとドリンクを二つ買ってきた。

 妹は右の薬指と親指で器用にポップコーンをつかんで食べていた。

 どうしてそんな食べ方をするのかと聞くと、妹は今日のお兄ちゃん変だねといった。

 二十年前から急に人差し指が動かなくなったと答えた。

 その指はあの事件で犯人Aに切り取られた部分だ。

 過去にもどるのに夢食みジャックに代償としてさしだしたものだ。

 だから生き残った葉子の指が動かなくなっているのだ。


 映画を見終わった僕たちはショッピングモールで買い物をすませた後、帰宅した。

 その帰り道である。

「お母さん、今日の晩御飯カレーだってさ」

 スマホの画面を見ながら、言った。

 妹の声を聞きながら、僕は見馴れた白猫をみつけた。

 どこかの家の壁の上に白い猫が眠っていた。

「あ、ヨウコ……」

 思わず僕は白猫のヨウコを呼んでしまった。

 白猫は僕の顔を見ると、親しげにニャーと鳴くとどこかに走りさってしまった。

「うん、お兄ちゃん呼んだ?」

 葉子が僕の顔をのぞきこんだ。

「あ、ごめん。なんでもないよ……」

 僕は言った。

「変なお兄ちゃん」

 ふふっと妹の葉子は微笑んだ。


 さよなら、ヨウコ。ありがとう、元気でな。

 僕は心の中で白猫のヨウコに別れを告げた。



 

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