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あの頃の妹

 妹の背中を見つけた僕は急いで駆け出した。

 だが、思ったよりもスピードがでない。

 僕は自分の足元を見た。

 小さい足だ。

 手も見る。

 手のひらも小さかった。

 それは子供のものだった。

 そうか、僕は夢食みジャックの力で昔にもどったが、過去の自分に精神だけがもどったもので六歳の子供なのだ。

 思うように動かない体に無茶をしながら、僕は全速力で駆けた。

 心臓がバクバクと鼓動し、肺が痛い。

 けどそんなことは言ってられない。

 今あの小さくなっていく妹を見失う訳にはいかない。

 せっかく夢食みジャックの力でやりなおせるのだ。決して諦めるわけにはいかいない。

 僕は両腕を思いっきりふり、全力で妹の背中を追う。

 ぜえぜえと息が荒くなり、心臓が痛いがそんなのはおかまいなしだ。


 どうやら妹を連れているのでその大人もそれほど速く歩けないのが幸いした。

 僕はついに追い付き、妹の手をつかみ、その大人の手を振り払った。

「だめだ、葉子。そいつについていってはいけない」

 僕は汗を流し、肩で息をしながら言った。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 葉子はきょとんとした顔で言った。


 葉子の手を握っていた男が驚愕の表情で僕をみる。

 僕はその男の顔を見た。

 やはりあいつだ。

 若い時の犯人Aだ。

 彼は高級スーツに身を包み、髪も整髪料できっちりと整えていてみるからにエリートビジネスマンの印象であった。右手の腕時計も海外のブランドものであった。清潔感あふれるこの男が実は少年少女を食い物にする犯罪者だとは誰も思わないだろう。だが、間違いない。奴は妹を手にかけた犯罪者だ。


「どうして、葉子をつれていくんだ」

 僕は妹とその犯罪者Aの間に入って、言った。

「どうしてってかい。それは妹さんが迷子になっていたからだよ」

 犯罪者Aはいけしゃあしゃあと言った。

「嘘だ。おまえは葉子を殺すつもりだろう。他にもいっぱい殺しているくせに」

 僕はやつを目の前にして、思わずいってしまった。

 二十年もの恨みがそうさせてしまった。

 黙って妹だけを連れ帰ったほうがきっとよかっただろうに。


 僕の言葉を聞いた後、犯人Aは柔和な笑みを浮かべていたその顔が変化した。人を見下す冷酷な殺人者の暗い瞳になった。

「君、大人にそんなことを言ってはいけないな」

 そう言い、僕の首に手をかけようとする。


「どうかしましたか?」

 別の男の人の声が聞こえた。

 僕はその声の方を見る。

 自転車に乗った警察官の姿が見えた。

 僕はその姿に見覚えがある。

 制帽の下に丸眼鏡の優しげな顔があった。

 若き日の早瀬さんだ。

 そうか、早瀬さんは若い日にこの辺りを管轄にしていたのか。それでこの事件にあれほどの執着があったのか。彼は自分の持ち場で起こった凶悪事件に忸怩たる思いがあったのだろう。


「ちょうどいいところに来られましたね。どうやらこの子たちは迷子のようでね。家まで送り届けてあげようと思っていたのですよ」

 にこやかに犯人Aは言った。

 どこからどう見ても優しい好青年だ。

 皆、この外見にだまされるのだ。

「違う。こいつは妹を連れ去ろうとしていたんだ。こいつは他にも子供を連れ去っては殺しているんだ」

 僕は喉が痛くなるほど叫んだ。

 そう、こいつは人殺しだ。

 どうにかして早瀬さんに捕まえてもらわないと。

 

「君、大人をからかってはいけないな」

 犯人Aは言った。


 早瀬さんは交互に僕と犯人Aを見た。

「君、親切なこの人にこんなことを言ってはいけないな」

 と言った。

 そう今の段階では目の前の犯罪者はまだ善良な一市民にすぎない。

 なんの理由もなく警官は逮捕できない。

 それが法律を守るものの宿命だ。

 早瀬さんをどうにか動かさないといけない。

 警官の早瀬さんを動かすにはそれなりの理由がいる。

 

 どうにかしなければ。

 このままでは僕は頭のおかしい少年にしかすぎない。

 そして自由になった犯人Aはまた妹をはじめとした子供たちを毒牙にかけるのにちがいない。


「こいつはアフターケアだよ。ちょいと力を貸してやろう」

 頭の中に酒焼けした声が聞こえた。

 それはあの夢食みジャックの声だった。

 その声が聞こえた後、体に爆発的な力が溢れだした。それはあの妖魔の力にちがいない。


 僕は地面を蹴って、犯人Aの持つビジネスバックに手をかけた。

「なにをする汚いガキめ」

 それはあの吊られた男となる人間の本性がかいまみえた瞬間だった。

 しかし、妖魔の力のやどった僕のほうがはるかに強い。

 ビジネスバックを奪った僕はその鞄を逆さにし、中身を地面にぶちまけた。

 書類や携帯電話、財布に混じってタオルにつつまれた何かが転がった。

 それはタオルがはがれ、地面を転がる。

 一本の鉈のようなナイフであった。


 それを見た早瀬さんの顔つきが一瞬にして変化した。

 その顔はまさに狩猟犬そのものだった。

 僕に手を伸ばそうとしていた犯人Aの手首を強く握った。

 あまりの強さのため、犯人Aの端正な顔が醜く歪む。

「署まで来てもらいましょうか」

 と早瀬さんは言った。


お話はついにクライマックスです。良かったら評価、ブクマ、感想などお願いします。

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