アナザースフィア
アーシェス side
対戦フィールドから参加が使用するロビーに転送された。
ここでは装備の変更、スキルセットなどの調整が可能になっている。
僕は仮面を外しながら目の前の宙に浮いているカメラに向かって話した。
「さて、みんな。
今日のバトルはこれで以上になるよ。
たくさんの応援本当にありがとう。
カラーチャットのお礼はまた今日の夜に枠を作る予定なのでぜひまた参加して下さい。
あ、今回の感想とか、新しいスキルの話とかもするからね!
それじゃ!ここまでです。
みなさんの貴重な時間を割いてくれて、本当にありがとう。
じゃあね!」
そうしてカメラのライブを切断した。
「ふぅ、疲れたけど楽しかったなぁ」
装備をインベトリに収納しラフな格好になってから近くの椅子に腰を掛けた。
「ん? メッセージだ、誰かな」
空中にウィンドを立ち上げメッセージを確認する。
先ほど戦っていたリドリーからだった。
彼女とは何度か対戦しているが、お互い見た目が対照という事もあり彼女との戦いはとても盛り上がるので色々と助かっている。
「やあ、リドリー。さっきは対戦ありがとう」
『ええ、対戦ありがとう。
あなたとの戦いは盛り上がるからやってて楽しいわ」
「フフ」
彼女も同じ事を考えていたようで少し笑いが零れてしまった。
『なに笑っているのよ。
言っておくけど次は負けないわよ?』
「いや、失礼。
僕も同じく君との戦いは楽しいと思っていたところだったから、思わずね。
それにさっきのバトルは本当に危なかったからなぁ」
『そうよ! スキルについて聞きたかったの!! あのスキルは何!?』
「ははは。派手だったろう」
『違うわよ。
最後のスキルもすごかったけど、聖なるオーラの方よ!
エフェクトが途中で変化するなんて見たことないわ!
どうやって作ったの!?』
あの聖なるオーラⅢの事か。
スキルのエフェクトの変化についてやはり気になるのだろう。
普通一度発動したスキルのエフェクトは変わらない。
アニメや漫画などでは使用者の気合などで技の出力は変化するがこれはゲームなのだ。
決められたプログラムにそってスキルを発動しその演出としてエフェクトが発生する。
「いいだろう? 熱いバトルが演出できるから盛り上がるしさ」
『分かってるなら、作り方教えて頂戴!』
「教えるわけがないだろう」
『じゃあ、作った人を紹介してよ! 前にアーシェスのスキルは外部発注って言ってたわよね?』
「それこそだめだよ。彼は僕の専属なんだ」
『ケチ!!!』
ははは。
バルトの時はクールな女性なのに裏で話すと思ったより感情が豊かなだな。
まぁでも諦めてもらうしかないだろう。リドリーの通話を切りログアウトした。
「ふぅ、シャワー浴びたいな。でも僕の予想通りだね」
アナザースフィア専用の掲示板でも僕とリドリー戦の板が作られているようだ。
そこで僕の使ったスキルについても盛り上がっている。
ツブッターでも同様でトレンドにも乗っていた。
「やはり早いところ彼を僕の所に専属契約した方がいいな」
元々素晴らしいエフェクトを作っている彼だったが、
今回のエフェクト変則型のスキルと最後の決め技用のスキルはどれも見ごたえがある。
さて、さっそくお礼の電話でもしようかな。
大吾 side
「お、春斗さん勝ったか」
俺は手元の端末から動画を見ていた。
今日のバトルは学校の課題に追われどうしても見れなかったのだ。
くそ、俺もVRの会場で見たかったぜ。
せっかく春斗さん事アーシェスから特別席貰ってたのになぁ。
でも俺が作ったスキルはうまく出来たようでホッとした。
対戦型VRアクションゲーム アナザースフィア。
俺が今はまっているゲームだ。
MMOが流行っている中、あえて対戦をメインに特化したこのゲームは今世界中でブームになっている。
圧倒的なグラフィックもさることながら、
プレイヤーに委ねられた自由度が他のゲームと圧倒的に違った。
自分でデザインをした装備を身につけ、さらに自分で考えたオリジナルのスキルを使う事が出来るのだ。
もちろん、制限もある。
武器や防具などの装備であれば、デカイ剣なのに軽いなんて事は出来ないし、
透明な剣などを作ろうとすれば、耐久力が低くなっていたりなどだ。
自分の都合の良い装備を何の制限もなく作れてしまったら、
ゲームバランスが崩壊してしまうからね
装備に必要な素材はアナザースフィア内の都市で売買されている。
例えば、石材や金属などはもちろん、ファンタジーでおなじみのミスリルやオリハルコン、アダマンタイトなども売っている。
もちろん、購入するためにはプレイヤーのランクを上げる必要はあるのだが……
スキルなども同様だ。
自分でどのようなエフェクトが発生するスキルなのかを作る事が出来る。
例えば、身体能力が上がるスキルを作る際に身体が発光したりなどだ。
ただしこれは装備以上に制限が掛かることがある。
なぜなら、一撃死可能なスキルなど乱発したら何も面白くない。
強いスキルにはそれ相応に制限を掛けなくてはいけないのだ。
即死系の攻撃なら発動までの条件、外した際のデメリット、正確確率などを設定し、運営に提出する。
そこで許可を貰えたスキルを正式に使用できるのだ。
もちろん、何万人もプレイしているゲームで一斉にスキル申請を出したら
サーバー止まらないか?とも思ったが、心配無用との事だ。
どうやら高性能なAIが申請されるスキルを自動で判別し、
過去に同じスキルはないか検索を掛ける。
似たような効果がある場合、発現するエフェクトをチェックし、
サーバーにどの程度負荷を掛けるかを確認。
その後、問題ないと判断された場合はスキルとして製作者の元に届けられる。
作ったスキルは装備と同様に売りに出すことが出来るため、
スキルの生産職も多く存在しているのだ。
ちなみに、装備やスキルなどはそれを売りに出すことが出来るため、
それで生計を立てている人もいるらしい。
「ん?春斗さんからだ」
動画を見ていた端末からちょうど先ほどバルトしていた春斗さんから着信が着ていた。
「こんにちわ。配信で見てましたよ。おめでとう御座います」
『招待した席にいなかったら少し心配していたんだが、見てくれてたんだね、ありがとう。
課題の方は終わらなかったのかな?』
「勉強苦手なんですよ」
実際今やっている英語の課題など全然分からずまったく進んでいない。
文法とかマジで分からん。
『ははは。
でも大吾君が作ってくれたスキルは本当によかったよ。
コメントとかも見直してるけど、好評のようだしさ。
さっきリドリーからもスキルの事を聞かれたんだよ?』
「おぉー。それは良かったです」
『それでなんだけどさ。前から誘ってる件、そろそろ真剣に考えてくれないかな?』
ん、その件か。
実は以前より春斗さんから春斗さんの事務所で専属契約しないかと誘われていたのだ。
正直俺が作ったスキルを喜んでくれるのは本当にうれしいしのだが、どうしても買いかぶり過ぎている様な気がしてならず、中々返事をしてない。
「んー、やっぱり自信ないですよ。
好き勝手に作ってるだけなので、期待に答えられるかどうか…」
『おいおい、あれだけのスキルを作っておいて
なんでそんなに自信ないかなぁ……
実際、僕もよく他のプレイヤーのバトルを見るけど、
君の作っているスキルのエフェクトはダントツだと思ってるよ』
そう褒められえると鼻が伸びてしまいそうだ。
『それに去年作ってくれた君の通常攻撃の斬撃系エフェクトなんて未だに問い合わせくるからね』
あぁ、前に作ったやつか。
アーシェスの大剣による攻撃には剣の軌跡にあわせて光りが走る発光エフェクトが仕組まれている。
スキルでもない通常攻撃がなぜエフェクトが発生しているのか当時は話題になったのだ。
「いや、あれを使いこなしている春斗さんがおかしいんですよ」
あれは通常攻撃をスキルとして申請したのだ。
アーシェスが使う攻撃の攻撃パターンをすべて覚え、スキルとして登録し、
その際に、処理が重くならない程度のエフェクトを作った。
スキルの能力は通常攻撃となんら変わらないため、
スキルのクールタイムもほぼなく、攻撃力も変わらない。
正直見た目の演出でしかないのだ。
それどころか、普通に攻撃するのではなく、常に攻撃する際にスキルを発動しなければならないため、常にスキルを使用して闘っているのだ。
あんな面倒な事を涼しい顔でやっている(仮面をつけているから見えないが)
春斗さんの技量がおかしいだけだ。
だれもあれがスキルだなんて思っていない。
武器に秘密があると以前アーシェスがインタビューで答えたため、
みんなそっちに意識を持っていかれているのだ。
確かに発光する武器なんかも作れるからなぁ。
『それに事務所にも問い合わせして学生でも問題ないって許可貰っておいたからさどうかな?』
「え?本当ですか? それなら……」
ありがたい。
以前は学校を辞めて専属契約してほしいといわれていた。
さすがに今は流行っているがこれからずっと同じゲームが流行っているとは俺も思っていない。
そのときこのゲームでどれだけ稼げてもその先はどうなるか分からないのだ。
せめて両親が入れてくれた学校くらいは卒業したかった。
『お、良かった。いい反応だね。
それで、まず話だけでも聞いてほしいから週末こっちに来れないかな?』
「……………分かりました。では一度お邪魔させていただきます」
『良かった!!
さすがにこれで断られたらどうしようかと思ったんだ!
じゃあ、具体的な時間とかはメールで送るから確認してね。
あ、夜配信するから良かったら見に来てよね、それじゃ、課題がんばって』
ふぅ。
まぁ、遅かれ早かれこうなっていたかもだしなぁ。
今も俺が作ったスキルは春斗さんが買い取ってくれている。
正直アルバイトよりも稼ぎがいいから助かっていたし、
結構お世話になっている人だし、いっちょがんばりますかー!
そうして俺は目の前の課題に取り掛かったのだった。