アーシェスVSトリエスティ①
バトルが始まった。
アーシェスはカウントが0になると同時に走りだす。
今アーシェスがいるのは廃ビルの中だ。
辺りは経年劣化により錆びた鉄骨や割れたガラスなどが散らばっている。
(すぐここから移動しよう)
遠距離型戦闘職マジックアーチャーとの戦いは初めてではない。
だからこそ何をやってくるのかも大体予測がつく。
(なんらかの索敵スキルと隠遁スキルを持っているはず)
トリエスティの持っているスキルは不明だ。しかし、それが当然なのだ。
アーシェスのようにあえて一部のスキルを公開しているプレイヤーは稀だ。
有名になり、使用しているスキルが周囲に知られ対策されるという事はある。
それゆえ、それに備えて上位ランクのプレイヤーは常に新しいスキルを求めている。
そして観戦しているプレイヤーたちにも……
対戦相手にも……
どんなスキルなのか、何の能力なのかを悟らせないように備える。
そのため、ランキング上位のプレイヤーが持っているスキルはスキル名以外能力はほとんど知られていない。
アーシェスですら、そのシーズンのバトルは一部のスキルを隠匿している。
そのため、皆がバトルを観戦し、研究し、相手のスキルを暴き、攻略し、戦うのだ。
(リドリーはまっすぐなプレイヤーだ。
そのため、スキルの情報戦がまだ向いていない。
でもトリエスティは違う。
日本サーバーの今シーズンにおいてランク21位。
そして、この男は持っているだろう)
――――ユニークスキルを
ユニークスキル。
一人のプレイヤーだけが持っているスキルの呼称だ。
もっともこのゲームにおいてユニークスキルは珍しいものではない。
なぜなら、スキル生産者が作ったスキルはユニークスキルになるからだ。
もちろん、販売され配布されればユニークではなくなる。
さらに既に似たような能力のスキルが登録されていた場合、
運営のAIによってはじかれる。
例えば、テイク。
彼は仮に似たような能力だとしても彼が作るエフェクトによってAIに別のスキルと認定され
ユニークスキルへと昇華されている。
(彼の対戦動画は何度も見た。
どのような能力のスキルなのかある程度は予想がつく)
アーシェスはビルから飛び出し、そのまま勢いを殺さずに出口のすぐ正面にあったコンクリートの壁を蹴りそのビルの屋上へ上った。
そしてスキルによって察知した自身の後方へ剣を振るった。
ギィィイイン!!!!
目の前に迫る矢を剣で叩き落とす。
無数の火花が散り、アーシェスに迫ったものを叩き落した。
その勢いのまま、ビルの屋上をすべるように走る。
(思ったより早く捕捉されたな。でも何だ今の違和感は……?)
疑問は多い。
索敵スキルの場合2種類が考えられる。
一つは精度を捨てて索敵距離を伸ばしているスキル【鷹の目】。
もう一つは索敵距離自体はそれほどでもないが、敵を捉える精度が非常に高いスキル【心眼】。
どれも最初期のプレイヤーが作り広めたスキルであり
ほとんどのプレイヤーにとっては必須に近いスキルだ。
スキル領域は1とコストも非常に良い。
アーシェスは屋上から隣のビルの窓へ飛び、部屋の中に侵入した。
そして一旦静止する。
停止するためブレーキを掛けた自分のブーツから僅かな土煙が舞い上がる。
割れたガラスから日光が差し込み舞い上がっている埃に乱反射していた。
(追撃がこないな。射撃から方向を補足されるのを避けたのか?)
どうするべきか。
先ほど屋上で周囲のフィールドを見た際、特にそれらしい気配はなかった。
アーシェスは今回マジックアーチャーと闘うために、心眼スキルをセットしている。
可能であれば鷹の目の方が敵の大まかな方向だけでもわかるため一番良いのだが、
ホーリーセイバーである自分にはそのスキルは装着できない。
職業ごとに装着できるスキルは決まっている。
例えば近距離型戦闘職であるアーシェスのホーリーセイバーは剣、盾、鎧などといった基本的な近接装備は可能だが、スキルの場合、剣スキル、防御スキル、光属性の魔法スキルがセットできるのだ。
全職業がセットできるノーマルスキルも存在するが(心眼など)、
大体はその職業に沿ったスキルをセットしているのだ。
(トリエスティのマジックアーチャーは属性は火だったな)
使用する魔弓によって属性が変化するが、
以前見た動画で彼は火属性の魔弓を使用していた。
(だが、それとは別に魔弓のスキルに気をつけなければ―――っ!)
誰もいないはずの窓からの狙撃。
空気を裂き、獣の咆哮のような矢がアーシェスに迫る。
ギィィイイン!!!!
剣で捌きすぐに矢が射られた方向を見る。
(――誰もいない!!)
そこにはすぐ隣のビルの壁があった。
窓からビルの壁までの距離は約2m程度。
見えない位置からではどうやっても矢を射ることなど不可能なはず…………
「…………くっくっくっく」
誰もいないビルの一室で、
アーシェスは久々に闘う強者とのバトルに笑っていた。