馬鹿な男の後悔
俺は後悔している。
いっそ死にたいくらいに後悔している。
昔はそれなりにモテた。
可愛い子や、気の合う子。
中学生から二十歳を過ぎるくらいまで。
色々な出会いがあったものだ。
そんな中、一人の女性に出会った。
今の妻だ。
一目惚れだった。
コスプレイベントの会場で出会った彼女は、とても可愛かった。
何よりも、その声はまさに天使そのものだった。
そこから猛アタックして半年後に付き合うことになり、四年程付き合って結婚した。
当時は正社員じゃなかったから仕事を探して、お金を貯めるのにそれくらいかかった。
今は結婚三年目だ。
そんな妻だが、出会った当初は大人しい性格だと思った。
だけどそれは間違いだった。
ものすごく遠慮してるだけで、実際の性格は我儘で自己中心的で、卑屈で、攻撃的。
自分は好きに出来ないと怒るのに、俺には言う通りにしろと言ってくる。
妻が俺に言ったことを時間が経ってからそのまま言うと、
「そんなこと言うなんてひどい!」
なんて言ってくる。
酷いのはお前だよ。
付き合ってる頃から色々あった。
何かあるとすぐ怒るし拗ねる。
ちょっと謝ったくらいじゃ機嫌は直らない。
「もういい! 別れる!」
なんて、何かあるとすぐに言いだすものだから、そうなったらひたすら謝り続けるしかない。
どっちが悪いかなんて話にはならない。
俺が悪いのだ。
惚れた弱みってやつだな。
そんなこんながあったせいで、結婚三年目にして既に後悔してしまっていた。
出来る事ならやり直したい。
小学生からやり直せば、もっと幸せな人生を送れる気がする。
今までの人生経験を活かせば大体の人と仲良くなれるだろうし、仕事だってもっと上手く出来る。
なによりも、もっと素敵な人と結婚出来る。
人間見た目じゃない。
可愛くはないけど、正確も趣味も俺と完全に一致して親友レベルになってたあの子なら、きっと幸せな家庭が築ける筈だ。
恋愛対象として見てなかった昔の俺をぶん殴ってやりたいね。
あの子はあんなにアプローチしてくれたっていうのに。
あっさり初めて会ったどストライクな妻にまっしぐらしてしまった。
マジぶん殴ってやりたい。
「おらぁ――!!」
殴ってみた。
「――ごぐっ!?」
思い切り殴り過ぎてしまった。
駄目だ、バランスがとれな――!?
ゴッ。
鈍い音がして視界が暗くなる。
頭が強烈に痛い。
倒れた拍子にテーブルの角にでもぶつけたか?
駄目だ、意識が保て――。
「――はっ!?」
飛び起きた。
頭は痛くない。
だけどなんだこの違和感は。
ここは、実家?
懐かしい。
実家の俺の部屋だ。
どうしてこんなところで寝てたんだ?
辺りを見回してみると、布団の中から白い猫が出てきた。
迷惑そうな顔をしている。
「にゃー」
綺麗な声にモフモフの毛皮。
こいつは、シロだ。
あれ、シロは十年前に死んだ筈じゃ……。
昔懐かしい二つ折りのケータイを見てみる。
マジか。
そこには十四年前の日付が書いてあった。
マジかよ。
夢じゃないよな。
俺、中学生の頃に戻ってる!?
夢じゃないよな!?
試しにほっぺたを抓ってみる。
痛い。
間違いなさそうだ。
本当に過去に戻れたんだ。
やった。
人生をやり直せる。
何もかもを、やり直せる。
結婚を、やり直せる!!
やったー!!
新しい人生を、存分に楽しむぞ!!
それから、十二年の時が過ぎた。
「ちょっとあなた、洗濯物くらい畳んでよ!」
「はいはい、今やるって」
「今度のお休みは家でゆっくりしましょ」
「あ、はい」
「そうだ、来月の13日は実家に帰るね」
「分かった」
結局俺は、またこの妻と結婚した。
それまでに出会ってた女の子とも、特に関係を発展させることはなかった。
変わったことと言えば、前の人生で最終的に就いていた仕事に特化した学校へ通ったこと。
そして、きちんと貯金をしていたことか。
そのお陰で結婚するタイミングが二年程早まった。
うん、早まった。
俺は、せっかく人生をやり直すチャンスを得たっていうのに、棒に振ってしまった。
なんでだろう。
妻は、性格はあまり好ましいとは思えない。
確かに気はある程度遣ってくれるし、世話も焼いてくれる。
でもそれは、妻はそうあるべき、とか、結婚したらこのくらいはしないといけない、みたいな謎の世界観を持ってるだけでしかない。
だから俺個人の希望や要望は無視されることが多い。
どうして結婚してしまったんだろうか。
もう一度、人生をやり直したい。
あの時の再現をすれば、やり直せるだろうか。
でも、そんな保障はどこにもない。
次は普通に死ぬかもしれない。
ああ、奇跡が起こってくれないだろうか。
神様お願いします。
どうか俺の人生をやり直させてください。