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 ボクは口が塞がると、念の為辺りに魔力探知を使ってみる。

 やはり魔族の魔力反応はない。

 しかし、すぐに風魔法でフォーカスが氷を切り裂いてしまう。


 お母さんも開いた口が塞がらない状態になってしまった。


「ちょ! 何するのよ? どうして殺すのよ?」

「え、知らないのですか? 魔族は人類を仲間にしてしまう力を持っているのですよ?」


 ついボクは顎を前に出す。

 しばらくして、もう一度聞き直した。


「ゴメン、もう一度言ってくれる? ボクの耳がおかしくなったみたいなの」


 フォーカスはボクの耳を引っ張る。

 溜め息をつきながらフォーカスは叫んだ。


「人類を! 魔族にしてしまうの!」

「本当に言っているの?」


 フォーカスが頷く。

 ボクはそんな情報を聞いていない。

 なので、信憑性がない話だと思った。


「何を根拠に言っているんだよ? 実際にボクは何人の魔族を殺してきたけど、何の影響もないよ」

「確かな情報だよ。だって、モルモットで魔族を捕虜して実験してみたら魔族みたいな魔力反応になっちゃったんだもん」


 耳を疑うような情報。

 信じられなかったが、仲間に裏切られたことを思い出す。


 じゃあ、アイツらはもう魔族の仲間になっていたのか?

 でも、そんな魔力にはなっていなかったはずだ。


 フォーカスが続けてはっきりと言った。


「もしかしたら“ライジング”を持っている私たちには効かないんじゃないの? だって、アレオは私より長生きしたんでしょう。まぁ、私が死んだ後はどうなったか知らないけど……」


 仲間たちのことを思い出し、ボクは目を逸らす。

 その時、フォーカスがボクとお母さんの手を握る。


「そういう訳だから早くこの場所から離れましょう!」


 しばらく歩いていると、ボクとお母さんは俯いていた。


 どうして人類が魔族になるんだよ?

 ボクが殺した魔族も人間がいたっていうことになるよな。


 人を殺めた恐怖と後悔でボクは手が震え始めた。

 首を振って気持ちを切り替えようとする。

 しかし、頭の中では分かっていてもできなかった。


「アレオ、人を殺したって思っているの?」


 フォーカスはボクの心を読んだかのように訊いてきた。

 ボクは彼女の手を振り払って頭を抱える。


「はぁ~。暴走した人間は殺すしかない。私はそう思っているわ」


 ボクはフォーカスが何を言っているのか理解できなかった。

 なので、頭を何度も振り自分の心の内を明かした。


「ボクは! 魔族が敵だから殺してきた! だけど……!」


 フォーカスがボクの頬を叩いた。

 子供になった所為か、もしくはフォーカスの方が大人びている所為かは分からなかった。


「アレオ、私たちには大きな使命があるでしょう? 魔族の長であるルークを倒すことでしょう? アイツも元は人間なのかもしれないのよ。それなのに、こんなことで躓いてどうするの?」


 ボクは殺した魔族のことを思い出し、手を見てしまう。


 ボクの手は汚れている?

 いやでも、正当防衛が働くかもしれない。

 だけど、それは相手も同じ。


 手の震えが止まらずたまらず、フォーカスにすがりついた。


「魔族になった人間を元に戻す方法はあるのか?」


 フォーカスは首を振る。

 お母さんも、首を振って後悔している様子であった。


「あなた達は何をしに来たの? 世界を救うためじゃないの?」


 ボクは平常心を保つことができず、気を失ってしまう。


                    □■□


 目を覚ますと、ボクとお母さんは見覚えのある部屋の中にいた。

 そこは、シーフ様の部屋であった。


「少年、目が覚めたかい?」


 シーフ様は椅子に座って業務をしていた。

 首を振ってボクは徐々にフォーカスが言っていたことを思い出す。


「少年、罪悪感を覚えることはいいことだ」

「何を言っているのですか! ボクは人を殺めたのですよ? それのどこがいいことなんですか?」


 珍しくボクは声を荒あげて叫んだ。

 シーフ様は手を止めて事実を言った。


「其方はまだ更生できるということさ。何せ、余は数えきれないほど魔族を……」


 ここでボクは我に返る。


 シーフ様はフーゴさんの時代より生きている。

 つまり魔族もとい大勢の人間も殺していることにもなっている。


 ボクは事実を受け止めて謝った。


「シーフ様のことを考えず、すいませんでした」

「謝る必要はない。余も其方の気持ちは痛いほどわかる。何せ、魔族になってしまった妻をこの手で殺めたのだからな」


 シーフ様は動揺しているのか、目を泳いでいる。

 その話は聞いたことがなかったので、ボクはつい思ったことを口に出してしまった。


「え? その話、フォーカスは知っているのですか?」


 一呼吸おいてシーフ様は答えた。


「無論、知っている。フォーカスは余のことを憎んだはずだ。それなのに、余に優しく接してくれた」


 ボクは、フォーカスがあの時、強い言葉を言ってくれた理由がやっと分かった気がする。

 だけど、どうして彼女はそんなに強くいられるのだろうか、疑問に思ってしまった。


「シーフ様、無礼を承知で聞いてもよろしいでしょうか?」

「よい、言ってみろ」

「フォーカスはどうしてそんなに強いのですか? お母さまが魔族になったのに……」

「それは逆に問おう。少年はどうしてだと思う?」


 ボクは分からなかったので首を振る。

 シーフ様は一回息を吐くと、業務を始めながら告げた。


「今の其方では魔族を殺せまい。もし、答えが出たら部屋を出てもよい。よいな?」


 ボクは、しばらく考えることに専念することにしようとしたが、お母さんがどこにもいないことに気付く。

 魔力探知を使ってみると、フォーカスと牢に見張りをしているのか一緒にいた。


「シーフ様。お母さんは答えが出たのですか?」

「ああ、アヤツは簡単に答えが出たぞ。其方はまだ出ないのか?」


 シーフ様が何かを気にしているかのように急かしてきた。

 過去でボクが戦っていた理由を思い出す。


 お母さんとお父さんの仇が取りたくてボクは今まで戦ってきた。

 ボクと同じように、魔族もなんらかの意志があり何かをやり遂げようとしているのか?

 いや、それはあり得ないな。


 ボクは首を捻る。

 疑問を抱いて、いかに復讐のことを考えていなかったことを痛感した。


 気を失う前にフォーカスの言っていたこと言葉を思い出し、ボクはある結論にたどり着いた。

 なので、ボクはシーフ様のことを見ながら考えた結果を言おうとした。


「シーフ様」

「答えが出たか?」


 ボクは首を縦に振る。


「はい、どうしてフォーカスがシーフ様を優しくした理由は分かりました。それは、誰かが殺らないと、魔族の仲間を増やすことを止められなかったからです」

「では、今其方がやることは解っているな?」


 ボクは立ち上がり、シーフ様に頭を下げられながら告げた。


「魔族を止めることです」


 魔族を止めること、今度こそ仲間を救うことを胸にボクは二人の元に走った。

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