脳裏に浮かぶ女性
あれから3年、直之は高校1年生に、貴将は小学6年生になった。
通帳を見て落ち込む。
食費、水道光熱費、学費…全然足りない。アルバイトを増やしても諸刃の剣だ。貯金を切り崩す日々。
…両親が残してくれた俺名義の貯金。
自分一人で出来ることなど何もないと実感する。両親が亡くなった後も、こうして両親の世話になる。
(俺にはここまでしてもらえる価値はないというのに…)
これまで幾度となく権力に負けてきた。
いつも悔しい思いをしてきた。
けれども、こうして俺を救ってくれるのはお金という権威を残してくれた、両親のおかげだ。
…自分の力がほしい。
自分だけの…力が――
駄目だ。ネガティブモードから抜け出せない。がむしゃらになれてない証拠だ。
また脳裏にフワっとあの時の女性の笑顔が浮かぶ。
…一度言葉を交し、その次の日歩く姿を見て以来、会うこともない。
しかし、なぜかこうして三年経った今日も忘れられずにいる…
✽
「…坊っちゃん…あの、お米が…」
弟達が寝静まってからキヨさんに告げられた。
(あー、お米が尽きたか…)
つい貯金の残高が頭に浮かぶ。
だけど仕方ない。弟二人にひもじい思いはさせられない。
「それと、その…」
キヨさんは他にも何か抱えているようだ。迷惑をかけてばかりだ。昔も今も。
「直之坊っちゃんが心配をされています。〝無理をしているのではないか〟と…」
直之は優しい。なんとなくうちの状態に気づいているんだろう。
子供に心配される…頼りない保護者だ。
この状態を何とかしないと…。
何とか…。
――はっとした。日々の忙しさに感けて俺の本来の役割を忘れていた。
俺は三井の会社を守る為にこの家に入ったんだった。
両親に誓った、弟二人を大学まで卒業させる。
その事で頭がいっぱいで会長との約束を蔑ろにしていたことに気づく。
(叔父さんから会長とお父さんの会社を返して貰わないと…)
その日から俺は会社の経営状況を調べ続けた。
暴落した株価に株を手放したい人間が多く、俺はほぼ博打で全財産を出して株を買い取り、筆頭株主となった。
この事実を叔父はまだ知らない。
そこに会長の次期社長を明記する遺言書。これはこの会社に置いて何よりも効力がある。
亡くなろうとも会社に威厳を持ち続ける会長。
――恐ろしい存在だと思う。
直くんとももちゃんがお友達になったくらいの時の話ですね(〃艸〃)