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運命の日


両親が事故との一報が入ったとき、俺はたまたま帰国中で、すぐに病院まで駆けつける事が出来た。


母は即死で、父は…かろうじて息があり、俺が駆けつけたことに気づくと最後の力を振り絞って言った。


〝結仁、お前は…誰が…なんと言おうと…うちの…長男だ…から…な…〟


力強く俺を見据えて言うその目は、瀕死の状態には見えなかった。


その言葉を残して、父は息を引き取った。


俺は、これはきっと会社の事を言っているんだと思った。長男として跡を継ぎ会社を大きくしてから、本物の長男である直之が成長したら差し上げる。これを託されたんだ。そう思った。


両親が亡くなって、偽りの長男であったとしても奨学金で大学は出れるはずだ。とにかく勉強して、イギリスの大卒というハクをつけて社長に就任する。


俺の生きる目標はただ…それだけだ。





✽✽



叔父と叔母が弟二人の引き取りについて話している。養子の俺は肩身が狭い。嫌われているのは知っている。


俺はあくまで他人なのだから。


聞き耳を立てていると大体話はまとまったようだ。俺は、これでイギリスに帰る。


ホッと胸を撫で下ろす。



「お兄ちゃん…俺達これからどうなるの?」


はっとした。

まだ幼い直之が泣きながら呟く。



〝結仁、お前は誰がなんと言おうと、うちの長男だからな〟


父の最後の言葉が頭の中を流れる。


あぁ、父が仰りたかったことはこれだ。急にストンと腑に落ちた。

京都でも、東京のこの三井の家でもいつも思っていた。

〝ここは俺の本当の居場所じゃない、俺の帰る場所はここではない〟

…叔父と叔母の家にそれぞれ引き取られる弟二人はこれから幾度となくその思いを感じる事になるだろう。



自分が感じてきたこの思いを、弟二人にはさせない。



俺の気持ちが固まった瞬間だった。



✽✽


遺品整理の中で、母の日記をみつけ見る。


そこには、俺が養子に来てからの日々が綴られていて…


〝今日は結ちゃんにハンバーグを作りました。〟

〝中々結ちゃんは笑ってくれないので今度ギャグを覚えよう〟

〝結ちゃんにお母さんと呼ばれたい。結ちゃんのお母さんになりたい。〟

〝結ちゃんに弟なんていらないと言われるかと思ったらお兄ちゃんになってくれるって!嬉しい!〟


「………ッ」


俺は自分が卑屈過ぎて、情けなさ過ぎて…

両親が亡くなってから堪えてきた涙がここにきて溢れて来る。


〝結仁、お前は誰がなんと言おうと、うちの長男だからな〟

〝結ちゃんのお母さんになりたい〟


これまでもずっと、両親は実の子と変わらず俺を思ってくれていたのに…俺は疑ってばっかりだった。

父、母と対外的には呼んでいたが本人達を前にして、一度も呼んだことはなかった。あくまで他人。これが俺のスタンスだった。


両親が亡くなるその最後の日まで、言わなかった。

今になって思う。もっとちゃんと〝お父さん〟〝お母さん〟と呼んであげればよかった…



「……お父さん、お母さん。育てて頂きありがとうございました。お二人の長男として、お二人が残して下さった大事な…弟二人を預からせて頂きます。」



遺骨を前にして、誓った。養子に貰われて14年目の春だった。

〝直くんとももちゃん〟の兄への懺悔のお兄ちゃん視点です(*^^*)

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