お兄ちゃんの秘密
――19歳の春、俺は両親を亡くした。
俺はこの三井という家で一族が経営する会社の社長となるべく育てられた。
〝会社をもっと大きくすること〟これが俺の使命であり、この家にいる理由だ。
察しのいい人はここで気づくかも知れない。弟二人は知らない。
俺はこの家の本当の子供ではない。
亡き祖父、会長が中々子供が出来ない娘夫婦に対して〝会社を守るため〟だけに養子に迎えてもらった。
……俺の生家は京都の歴史ある旧家。その家の三男だった。父である旦那様の顔はもうあまり覚えていない。母と位置する俺を産んだ人とは会った事がない。
なぜか?
それは…その関係が不倫関係だったからだろう。
旦那様には勿論、正妻がいて、子供もいた。
留守がちな旦那様を除くと、家には正妻、その子供の男児二人、旦那様の母である大奥様、その他使用人が住まう。
まぁ、俗に言う虐待の毎日だった。旧家の家には池があり、よくそこに突き落とされ沈められた。
…我ながら悪運が強い。よく生きていたと思う。
それは助けてくれる人がいたからで。
どんな時も穏やかで優しい…兄。旦那様と正妻の第一子、跡取りのご長男様だった…。
まさか自分が弟を持つことになるとは思わなかったが…
兄、というのはどういったものなのか。それを考えた時、京都の穏やかな兄の姿を思い出した。
お兄さんのような兄になろう。と試行錯誤の毎日だけど。
養子に上がらせて頂いた時、会長は余命半年だった。自分が生きているうちに後継者を見届けたかったのだろう。
形式上は〝祖父と孫〟だが、内情は違う。明らかに〝会長と跡継ぎ〟だ。
両親も良くは思わないだろう。会長は少々ワンマンな所があった。
ある日突然俺を連れて来て、〝これが次だ。お前達の養子として置いておけ〟と何も知らない両親に言い放った。
俺としてはどうでも良かった。
池に沈められ、食事も満足に与えられず、何度も死にかけた命だ。ここでどんな扱いを受けて、その結果が死であったとしても、特になんの感情も浮かばない。
死ぬ場所が京都から東京に変わっただけだ。
なんにも、変わらない。
それは俺が5歳の時の出来事で当時、三井の父は35歳、母は23歳だった。俺が言うのもなんだけど、まだまだ若い。子供が出来る可能性は大いにある。
それでも養子にもらったのは祖父の余命宣告と両親の不仲が原因だろう。
正確には不仲、ではないけれど…
結局、死に場所が東京になっただけと思っていた俺はこの年まで生き続けることになる。