プロローグ
直ももコンビのスピンオフ☆
直くんのお兄ちゃん、三井三兄弟の長男のお話です!
「ふー。」
仕事も切り良く終わり、俺は一息つく。今日はもう帰るだけだ。
パソコンの電源を落とし、誰もいなくなった社内の戸締まりを確認し、電気を消して会社を後にした。
✽
三井結仁 22歳。 家族構成は弟二人、12歳の直之と8歳の貴将。
そして、お手伝いのキヨさん。4人暮らし。
3年前に両親を亡くして、弟達の親代わりをしている。
(遅くなったな。直くんと貴ちゃんにお土産を…)
会社を出て歩いて帰る途中、家で待っているかわいい弟達にとケーキ屋に立ち寄る。ここは開店時間が遅い為、夜遅くても多数の品数があるありがたいお店だ。
先に一人先客がいたため、選びながら待つことにする
(直くんはショートケーキ。貴ちゃんはチョコレートケーキ。キヨさんはチーズケーキ…)
そんな事を考えていたら、隣の先客の女性に話しかけられる。
「あ、ミルフィーユ、買って大丈夫ですか?」
(…ミルフィーユ?)
視線を落とすと残り一つのミルフィーユが目に入る。
これは最後のミルフィーユを買ってもいいかと問うてくれているんだろう。
(優しい気遣いのできる人だな。)
じんわりと暖かい気持ちになる。
「構いませんよ。私は別のものを買う予定ですから。お心遣い、ありがとうございます。」
俺はケーキのショーケースから女性に視線を移し、その通り伝える。
「ありがとうございます。」
そう言い、ふんわりと柔らかく微笑むその先客の女性に目を奪われた。なんとも言えない胸騒ぎと妙な安心感を覚える。
ドキドキと鼓動が速くなっているのを感じる。なぜ?
俺はこの衝動の名前を知らない。
会計を済ませその女性が店員と俺にまで会釈し、店を出る。
(…たまたま会った客同士、もう二度と会うこともないだろうな。)
なんだか寂しい気持ちになったが、俺は家族の喜ぶ顔を想像しながらケーキを買って帰った。
✽✽✽
「お兄ちゃん!おかえりなさい!!」
ようやく家に帰り着くと、下の弟の貴ちゃんが出迎えに玄関まで出て来てくれた。
「貴ちゃん、ただいま。良い子にしてた?」
「うん!」
俺はしゃがんで、弟の目線に合わせる。目を見て微笑み、聞くと、すごくいいお返事が。
「直お兄ちゃんとキヨさんの言う事ちゃんと聞いた?」
「うん!」
「そっか。じゃあ遅くなったからお土産。はい、どうぞ。」
買ってきたケーキを貴ちゃんに渡す。
「やったー!!ケーキ!?ケーキだ!!わーい!!」
貴ちゃんは喜んでケーキを持ってリビングまでかけていく。
「おかえりなさいませ。」
「おかえり。」
お手伝いのキヨさんと上の弟の直くんが出迎える。
「直くん、ただいま。キヨさん、ただいま戻りました。いつもありがとうございます。」
挨拶を返し、ネクタイを緩める。
「いえーい!!俺チョコレート!!お兄ちゃん、もう食べていい?いいよね!?」
貴ちゃんはケーキの箱を開けて、思った通りチョコレートケーキを選ぶ。
「もう夜遅いよ?明日にしたら?」
「明日より今日の方が美味しいよ!!」
「…もう歯磨いたでしょ?」
「大丈夫!」
…何が大丈夫?
結果、与えてしまった。寝る前に。直くんからは白けた目で見られてしまった。…子育ては難しい。