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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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新たなる約束

レイリアが戸惑っていると、エディは続けて願いを口にした。

「私は君がバルコスに戻って、安全な場所にいてくれる事を願うよ。だからリア、一度バルコスへ戻ってくれないか?」

暫く考えたレイリアは、今の自分の正直な気持ちを話そうと思った。

「‥‥バルコスへ戻れる様になった事は、素直に嬉しいわ。元々オセアノへ来たくて来た訳じゃないし、全て解決出来たら戻りたいと思っていたから‥‥。でもそれはエディと会って思い出す前までの事で、せっかくこうして気持ちが通じ合えたのに、私が戻りたいと言うと思う?私はエディと離れたくない!だからバルコスへは戻らない!」

きっぱりと言い切ったレイリアに、エディは少し困った顔をしたが、黙って首を横に振った。

そして暫くの沈黙の後、溜息を吐いて口を開いた。


「だからこそだよリア。これ以上君を巻き込んでしまったら、私は必ず後悔するだろう。危険だと分かっている所に、大切な人をわざわざ連れて行く様な、愚かな真似をする男がどこにいる?」

「だって‥‥私は‥大人しく待ってなんていられないもの‥。バルコスに戻ったってエディの事が心配で、きっと食事も喉を通らないわ!」

「そんな嬉しい言葉を言われたら、君を離したくなくなるね。でも私もこればかりは譲れない。他のワガママならいくらでも聞くが、これだけは聞き入れられない」

「それじゃあ"願い"じゃなくて"強制"じゃないの!そんな事を言うエディは嫌いだわ!」

「それでもいいよ。君が私を嫌いでも、私は君を愛しているからね」

「うっ‥‥!」

「リア、聞き分けてくれ。これで君に嫌われても、私は絶対曲げないよ。悔しいが私には、今君を守り切る力は無い。多分ドミニク殿やブラガンサ殿も、同じ事を言うと思う」

「‥だって‥‥また離れてしまったら‥会えなくなってしまうかもしれないって‥‥」

レイリアの目には涙が沢山溜まって、今にも溢れ落ちそうだった。

それを見たエディはレイリアを膝に乗せてギュッと抱きしめると、頭を撫でながら囁いた。

「ああ、そうか。私が君を不安にさせているんだね。どんな理由があったにせよ、私はあの時約束を守れなかった‥‥」


レイリアはエディの腕の中で、フルフルと首を振った。

「ちが‥違う‥!エディだけのせいじゃない!私だって約束を守れなかった‥。だから不安なの。また‥会えなくなるんじゃないかって‥」

「リア、私があげた片方だけのピアスをまだ持っているかい?」

「ええ。これだけは記憶が無くても、肌身離さず持っていたわ。ほら、これよ!」

そう言って首からペンダントを外すと、加工したサファイアを見せた。

「ずっと持っていてくれたんだね。ありがとう。これはねリア、私の母の形見なんだよ。もっとも私が生まれてすぐ亡くなったから、私には思い出も何も無いのだけど」

「えっ!?そんな大事な物を‥」

「母の分も君を幸せにしたいと思った。だから君に渡したんだよ。当時の私は一人で何でも解決しようとする、結構生意気な子供だったからね。君も最初に僕を怒っただろう?"ありがとう"と言えと」

「そういえば‥生意気な男の子だと思ったわ」

「うん。君のそういう正直な所に、一番惹かれたんだけどね。そして一人で解決しようとした結果、あの時一緒に連れて来た一番信頼していた従者に毒を盛られたんだ。その後一命を取り留めて、反省するには十分な時間があったよ。だから今度は決して一人で突っ走らない。父上もジョアンもいるし、ブラガンサ殿やシモンもいる。皆んなに協力を仰いで、必ず問題を解決してみせる。リア、改めてそのサファイアを約束の証として持っていて。問題が解決したら、必ず君を迎えに行くから」

「‥‥そんな風に言われたら、貴方の願いを叶えない訳にはいかないわね‥‥。分かったわ‥‥。バルコスへ戻って貴方を待ってる」

「ありがとうリア。本当はね、私だって君と離れたくなんかないんだよ。でも君に母と同じ運命を辿らせる訳にはいかない。そして何より、今ある問題は、オセアノ王家が解決しなければいけない問題なんだ」

「‥‥毎日妖精に手紙を頼むわ。約束よ、必ず迎えに来てね」

「うん、約束するよ。今度こそ君との約束を必ず守る」

そう言ってエディはレイリアを抱きしめる腕に力を込めた。


一方で2人のいる隣の部屋には、声をかけるタイミングを見計らう、真っ赤になったルイスとイネスの姿があった。

2人は永遠に続くとも思える人様のラブシーンに、酷く気まずい思いをしていた。


読んで頂いてありがとうございます。

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