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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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藪からミゲル

レイリアがエディと気持ちを通じ合わせている頃、シモンはミゲルの元へ向かっていた。

合流場所に着くとミゲルの姿が無く、焦ったシモンは馬の見張り役2人に尋ねた。


「ああ、漏らした男なら来たよ。それでズボンの予備は無いか?と聞かれたんで、そんな物あるわけ無いだろ!と言ったんだ。そしたら涙目になって懇願するから、仕方なく近くの川の場所を教えて、そこで洗って来いと言ってやった」

「川ですか?それはどこでしょう?」

「この先を真っ直ぐ行けば3メートル程の川幅の、結構流れの早い川がある。深さはそれ程無いから、溺れる事は無いと思うが?心配なら探しに行ってみたらどうだ?」

「そうですね。洗って来るだけの割には、時間がかかり過ぎますので。ちょっと行ってみます」

そう言って川まで辿り着いたのだが、ミゲルの姿はどこにも無い。


「義兄上!どこにいますか?義兄上!」

声を張り上げミゲルを呼ぶと、近くの繁みから返事が聞こえた。

「シモン!困っているんだ!助けてくれ!」

「困っている?どうしたんですか義兄上?まさか川で足を滑らせて怪我でもしたんですか?」

「いや、そうじゃない。非常事態が発生した」

「非常事態?既に非常事態は過ぎ去りましたよ?何があったのです?」

不審に思い、シモンは声のする繁みに近付いた。

「いやダメだ!!来るなシモン!それ以上近付いたら私の威厳が‥‥!!」

「義兄上より森の狐の方が、よっぽど威厳がありますよ。助けてくれと言っておきながら、近付くなとは矛盾してます。さあ、何があったんです?出て来て下さい」

シモンが繁みを掻き分けようとしたら、ミゲルがひょっこり顔を出した。

ミゲルは今にも泣きそうな顔をして、下半身を隠している。

「なぜズボンを履かずに丸出しなんですか?私相手にそんな笑いは通用しませんよ?義兄上のお尻なんて見たくもありませんからね!何なら第一小隊隊長を連れて来ますが?」

シモンは呆れ顔で冷やかに問いかけた。

「第一小隊隊長はやめてくれ!好きで丸出しなんじゃない!履くズボンが無いのだ!」

「は?なぜ無いのです?洗いに来たんでしょう?」

「そうだ。ちゃんと洗っていた。そうしたら光が柱みたいに伸びて、驚いて手を離した拍子に流されてしまったのだ!それで仕方なくこの繁みに隠れていたのだが、さっきからお尻を蚊に刺されて‥‥痒くて堪らないのだ‥」

「ブッ!ハッハッハ!義兄上、それは笑えます。いやはや、なんとも義兄上らしい!」

「笑い事じゃない!とにかく何とかしてくれ!この中はヤブ蚊が多いのだ!あちこち痒くて敵わない!」

シモンは腹を抱えてヒーヒー言いながら笑っている。

ミゲルは寄って来る蚊をペチンと叩いては、眉間に皺を寄せていた。

「仕方がない、姫君達が着ていた男物の服を借りて来ましょう。それまでここを動かないで下さい。いいですね?」

「分かった。丸出しではどこにも行けない」

シモンはもう一度ミゲルを見て吹き出し、笑いながら小屋へ向かった。


レイリアがエディと唇を重ねていると、隣の部屋から物音が聞こえて来た。

慌てて離れて物音がした方を見ると、頰を赤らめたシモンが立っていた。

「‥‥エドゥアルド殿下、姫君、お邪魔をして申し訳ございません!決して覗きとかそういうのではありませんので、どうかお許し下さい!」

「あー‥‥いや、謝る必要は無いよ。何か用事があったのだろう?」

エディは平然と答えたが、レイリアは恥ずかしくて顔を上げられない。

「はい。あの、姫君達が着ていた服をお借り出来ないかと。義兄の着替えが必要になりましたので」

「服?ああ、これの事だね。これで全部だが着れるといいね」

恥ずかしがっているレイリアの代わりに、エディはイネスの着ていた分も合わせてシモンに渡した。

「はい、ありがとうございます!それでは急ぎ義兄に届けますので、出立の準備が整うまでごゆっくりお過ごし下さい」

「あ、ああ、気を使わせて‥悪かったね」

「いえ、こちらこそお取り込み中の所、邪魔をして申し訳ございません!では、失礼致します」

シモンは気まずさからその場を足早に立ち去った。

レイリアはホッと息を吐き、顔を上げてエディに言った。


「どうしよう!凄く恥ずかしい所を見られたわ!」

「大丈夫だよ。彼は良識ある立派な若者だ。言いふらす様な愚かな行いはしない。それに、私は誰に見られても平気だよ。これから父上に君との事を話すつもりだし」

「ハッ!そうよ!国王陛下!どうして陛下はこんな所に?」

「実はね、君を救出に向かう時、父上へ早馬を送ったんだ。私とジョアン、それからドミニク殿の書いた手紙を届けて貰う為に」

「手紙?」

「うん。父上が王都近くまで来ていたのは分かっていたからね。今回君が攫われた事や、マンソンを退ける策について、父上に報告する必要があった。父上はそれで街道を急ぎ走らせていたんだが、偶然にも君の放った光の柱を見かけて、この森に来てくれたんだよ。リア、私はね、一旦第一王子として名乗りを上げ、ジョアンの盾になるつもりなんだ」

「盾って‥‥何をするつもりなの?それに、ルイスが言った『陛下は宣言なさった』というのはどういう事?」

「ジョアンにとってマンソンは国王の跡を継ぐ上で、目の上のたんこぶと同じ存在なんだ。亡くなったジョアンの母上の件を持ち出されれば、ジョアンも無視する事は出来ないからね。そこでジョアンはルイス殿の協力を仰ぎ、マンソンを排除しようと画策していたんだよ。君が飲まされそうになった、マンソンの秘薬が手に入ったからね。しかしそれだけでは、あのマンソンを排除する事は出来ない。ではマンソンにとって、最も都合の悪い人物が王位継承権を盾に出て来たらどうなる?という事で、父上に私の存在を公表して貰う様、手紙に書いて送ったんだ。また君が攫われた事から、君に理不尽な条件を出したジョアンの立場は更に悪くなった。この事が国内外に知られる前に、一旦第一王子が盾になるべきだと、私も父上も考えたんだ」

「‥私が攫われたせいで‥大変な事になったのね」

「君は何も悪くないよ。悪いのは私だ。君を1人にするべきではなかった‥‥。私の存在が公表されたからには、私は二度と君から離れないと誓うよ。やっと胸を張って君の側にいる事が叶うんだからね」

「‥‥ねえエディ、盾というのは具体的にどうするの?」

「事態が終息するまでの間、私が仮の王太子を務める事になるだろう。全てが終わったらジョアンに国王の座を譲って、私は公爵位を賜わろうと思っている。そして地質学者として、ジョアンの進めている品種改良に協力したいんだ。土壌についてなら、私でも役に立つだろう?」

「地質学者は貴方にぴったりだわ!前に言っていたものね。金緑石が好きだと」

「うん、やっぱり君は気付いてくれなかったか。あれは君の事を言ったんだよ」

「え?」

「君の瞳‥光の加減で色を変えて、まるで金緑石の様だという意味でそう言ったんだけどね。まあ、これからは態度で示していくつもりだから、分かって貰えると思うんだけど」

「えっ?ええっ!?うわっ!急に恥ずかしくなったわ!」

レイリアが狼狽えると、それを見てエディはクスクスと笑う。

エディが生きて動いて、そして笑っている。

レイリアはこのひと時を、とても幸せだと感じていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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