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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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ホワイトアウト

見渡す限り真っ白な何もない空間に、レイリアは座り込んでいた。

何も見ず何も聞かず、身動き一つせず、呼吸すらしているのかどうかも分からず、ただ呆然と座り込むだけ。

無だ。

この真っ白な空間は自分の存在すら必要の無い、レイリアの作った純粋な無の檻なのだ。

ここにいる限りは何もせず、何も考えず何も見ず何も感じずにいられる。

それは即ち死と同じ感覚なのだろう。

喜びも悲しみも、もう何も感じないのだから。


どれくらいそうしていたのか、なぜここにいるのか全てがどうでもいい。

このまま白に飲み込まれて、自分も無の一部となる‥‥そんな風に感じていた。


感じる?

何も感じない筈なのに?


頭の中に声が響いた。

しかもそれは自分の声だ。


ほら、感じないなんて無理よ。

だって聞こえるでしょう?私の声が‥


嫌だ嫌だ嫌だ!!!!

感じたくない、何も見たくない!!


『見るのだ友人よ。其方は見て感じなければならない』


自分の声だった筈なのに、不思議な響きの声が頭に直接語りかけてくる。

その感覚を肯定した途端、目の前に男とも女ともいえない、見た事がない程美しい人の姿が現れた。


「見たくないの!!お願いだから見せないで!貴方が何者なのか‥‥ええ、そうよ‥分かっているわ。偉大なる妖精王!!」


『其方には何が起きているのか知る必要がある。今其方は一度死んだのだ。肉体ではなく、心がな』


「‥‥心‥‥?」


『そう、心だ。バルコスの願いを叶える為には、其方の死が必要なのだ。だがそれは我が一族の望みでは無い。それ故心を死なせる事にしたのだ。愛する者の死という、耐え難い試練を与えてな。其方に思い出させたのは、より強く衝撃を与える為だった』


「それなら‥‥このまま死なせて下さい。その代わり、エディを蘇らせてくれませんか?お願いします!エディを蘇らせて下さい!!」


『‥其方は‥懐かしの我が妹に良く似ている。まあ聞きなさい友人よ。其方の母は其方が腹に宿った時、バルコスの神殿に祈りを捧げた。妖精信仰の強いバルコスに、なぜ月の女神の神殿があるのか、その訳を其方は知っているか?』


「‥‥いいえ、‥‥知りません」


『そう、今では知る者もいなくなった。我が妹は大いなる力と永遠の命を手放して、人として生きる事を選択した。そして人となった妹は、限りある生を終え死を迎えた。その亡骸は夫バルコスがあの場所に埋葬し、後にオセアノから入って来た多神教と交わり、神殿が建てられたのだ。人となった者を神として崇めるには、それが一番都合が良かった。其方の母はオセアノ人であったが故に、今迄特別な儀式以外では誰も訪れなかったあの神殿を、熱心に訪れては祈りを捧げていたのだ。最初の子を宿した時は、オセアノで祈りオセアノで産んだ。その子が健やかであった事から、其方の時も祈る事にしたのだよ。バルコスで産む為には、あの神殿で祈る他無かったから』


「神殿の由来は分かりました。ですがそれが何の意味があるのでしょうか?」


『我が妹は大いなる力を持っていたと言っただろう?それは余りにも強大で、自分で制御する事が出来なかったのだ。その為私は妹の力を封じていた。だから妹は夏至の祭りで気まぐれに訪れた人の世界から、戻る事が出来ずバルコスに助けられた。後は其方達も知っての通り、伝説の中に語られている。人となって尚体内に残る力の破片は、人という器では抑えきれる物では無かった。妹が早逝したのはそういう事だ。力の破片を残したまま埋葬されたその場所は、訪れる者に少なからず影響を与える。何度も訪れた其方の母は、身重であったが故胎児に影響を受けたのだ。そして其方はバルコスの望みを叶える鍵となって産まれて来た。それは産まれる前から分かっていた事。だから私は祝福を授け、干渉する方法を取って来た。つまり其方はバルコスの望みを叶える為に産まれて来た、純粋なるバルコスの子孫なのだよ』


「‥‥私の‥髪と瞳は、なるべくしてなったと‥そういう事なのですね?」


『そういう事だ友人よ。そして其方は我が一族に愛された。だから自然の理に従って其方の生が尽きる時まで、我々は待つと決めたのだよ。其方と妹の眠るバルコスの地は、我々の愛する者で愛する場所である。従って我々は元凶となったミドラスの介入を許さない。其方の心を殺したのは、力を解放させる為だ。お陰で上手くバルコスの金鉱脈を消滅させる事が出来た。ミドラスがバルコスに介入する事は、もう二度と無いだろう。ミドラスは自らが犯した罪を、同族同士で贖う運命となるのだから』


「私の‥危機が去っても、エディが‥エディがいない世界で、エディが犠牲になってまで‥私は生きていたくありません‥‥!!お願いです、私の命と引き換えに、エディを蘇らせて下さい!!お願いします!!」


『其方が印を付けたお陰で、私も容易く介入出来た。其方の目の前で起きた事は、全て私の意図した事だ。目を開けて聞いてみなさい。私はかなり上手くやったのだから』


「‥‥どういう意味なのですか?聞くとは一体‥‥?」


『其方の望みは叶えるまでも無いという事だ。力を解放した其方の中に僅かに残った力の破片は、いずれ生を終える時、全てを帰す事になる。それまで私は二度と姿を見せる事は無いだろう。やがて来るその時まで、お別れだ友人よ。良い人生を送ってくれ。我々は其方の側にいる』


「待って!待って下さい!!」


レイリアが叫び引き留めようとしても、妖精王は美しく微笑んで光の粒となって消えていった。

真っ白な世界は段々と色を帯び、少しずつ形を変えていく。


「‥‥ア!!目を開けて!!リア!!」

暖かい手の感触と、聞き覚えのある声が聞こえる。

これは私の願望なのだろうか?

この声でこの呼び方は1人しかいないのだから。


「リア!!お願いだ!目を開けてくれないか?」


そう言われてレイリアはゆっくりと目を開ける。

夢でも願望でもいい。

エディの顔が見たかったから。


「ああリア!!良かった!!やっと目を開けてくれた!本当に良かった!!」

目の前には心配そうなエディの顔がある。

レイリアが口を開こうとした時、ギュッとエディに抱きしめられた。


やっぱり夢なのよね?

私の願望が夢を見せているのだわ。

そ、それにしても、グエッ!

く、苦しいわ!!


ギュッと抱きしめた腕の力は強く、レイリアは苦しくて思わず叫んだ。


「く、苦しい!!力の入れ過ぎだわ!!息が出来ない!」

「ああ、ごめんねリア。君が目を開けてくれた事が嬉しくて、つい力を入れてしまった!」


パッと手を離して、エディが背中を摩っている。

夢にしてはやけにリアルなこの感触に、レイリアは戸惑いキョロキョロと周囲を見回した。

ちょいと多忙で若干更新スピードが遅くなりそうです。

それでも根気よく読んで下さる皆様方には、感謝感謝でございます。ペコッ!


読んで頂いてありがとうございます。

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