表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
94/175

異変

のんびりとしたバルコスの谷間では、いつもの様に畑仕事をする人々や羊飼いの姿が所々に見えていた。

しかしその異変は突然起こった。

バルコスのあらゆる場所から光の玉が集まり、一方向へ向かって飛んで行ったのだ。

見える者達はその異変に一早く気付き、何事だろうと後を追う。

光の玉はバルコスにいる妖精達だったから。


異変の報せを受けて、侍従が大公の執務室へ飛び込んで来た。

「大公様、大変です!おかしな事が起きています!」

「お菓子な事?はて?きょうのおやつに何か問題でも?」

「そんなベタなボケはいりません!とにかく大変な事が起きているんです!妖精を見る事が出来る者達が、こぞって妖精に異変が起きていると言っているんです!」

「妖精に異変?それは一体どんな異変なのだ?はよーせー(妖精)なんつって」

「ハァーめんどくさっ!面倒臭いです大公様!彼等が言うには、妖精が一斉に集まって谷に向かっているとの事です。大きな光の玉に見えるとも言っていました」

「ドミニクもレイリアもいなくて寂しいから、構って欲しいのだ。ちょっとくらい付き合ってくれてもいいだろ?で、谷だと?谷のどの辺りに向かっているのだ?」

「分かりません。今見える者達が追っている所ですが」

「バルコスは妖精信仰の国だ。その妖精に異変が起きているとなると、これは一大事だぞ!私も谷へ向かわねばならんな。すぐに支度をしてくれ」

「はい!」


侍従は支度に取り掛かり、お供に妖精を見る事が出来る兵を3人用意した。

大公は久しぶりに馬に跨り、谷へと向かって走らせた。

途中で見える者達と合流すると、皆同じ方向を指差してその場所を口にしている。

「大公様、光の玉はあそこへ入って行きました。例の崩落で見付かった、金鉱脈のある洞窟です」

「金鉱脈だと!?なぜそんな所に?」

「分かりません。我々は姫さんみたいに話したり呼んだりは出来ませんので」

「フム。確かにそんな事が出来るのはレイリアだけではあるが。しかしなぜ突然こんな事が起こったのだろう‥?誰か洞窟まで行って確認して来てくれないか?」

「それでは私が行って参りましょう。大公様はこちらでお待ち下さい」

見える兵の内1人が名乗り出た。

「足場が悪いので、俺が案内しますよ。俺なら谷の事は知り尽くしてるんで。なぁに、大公様心配いりませんって。きっとお祭りみたいな物でしょう」

そう言って同行してくれる事になったのは、金鉱脈の発見者で石工のベルナルドだった。

バルコスの谷は岩だらけで、石工は材料を切り出す為日々足を運んでいる。

その為ベルナルドはここにいる誰よりも、谷の事を良く知っているのだ。

「すまんな。頼まれてくれるか?何もなければそれで良いのだが‥‥」

「心配いりませんって。待ってて下さい」

ベルナルドは明るく言って兵と共に向かったが、大公は妙な胸騒ぎがして落ち着かなかった。


暫く待っていると見える者達が急に騒ぎ始めて、皆が色々な方向を指差しては叫び出した。

「あ、あっちにも!」

「あそこもだ!」

「えっ?どういう事だ?今までこんな消え方無かったぞ!」

大公には見えないので、見える者達に何が起こっているのか尋ねてみた。

「おかしいんです。妖精達が洞窟から散らばって、粉々になるみたいに消えてしまうんです!」

「粉々?すまんが詳しく話してくれないか?残念ながら私には妖精が見えんからの」

「あのですね、いつもだったら光の玉がパッと現れてパッと消えるんです。ところが今は光の玉が粉みたいにバラバラに散らばって、消えていくんです。こんなの見たのは初めてですよ。なんだかおかしいですよこれは!」

大公はそれを聞いて考え込んだが、その間にも次々と光は粉になって消えていくと言う。

ついに光が洞窟から現れなくなると、皆落ち着かずザワザワと騒ぎ始める。

「まあ、皆悪い方へ考えず、彼等の帰りを待とうではないか。どうなっているのか聞かない事には、判断のしようが無いからの」

大公にそう言われて、全員は不安な顔で兵とベルナルドを待っていた。


全ての光が消えて暫く後、ベルナルド達は足早に戻って来た。

歩き慣れているベルナルドは、兵より一足早く大公の元へ到着した。

「大公様、落ち着いて聞いて下さいよ。信じられない事が起こりました!」

「いや、私ほど冷静な人間はいないぞ。何を聞いても動じぬから話してくれ」

「本当ですか?それじゃあ話しますね。洞窟の金鉱脈が消えたんです。綺麗さっぱり無くなってしまいました!」

「な、なんだって!!ほ、本当なのか?」

「今動じないって言ったばっかじゃないですか。嘘じゃありませんよ!なんてったって俺は石の専門家ですからね。鉱脈なんか見りゃ分かります。ただの氷穴になってしまいました」

「こ、これが動じずにいられるものか!そんな‥!!それじゃあレイリアが‥‥!!とにかく、私は戻らねばならぬ!皆も一旦戻ってくれ!!」

そう言うと大公は大慌てで戻って行く。

何も知らない民達は大公の慌てぶりにポカンとしていたが、彼等は金が無くなった事よりも、妖精がいなくなった事の方が重大だと思っていた。


城に戻った大公は、大急ぎで手紙を書くと、ブラガンサ領に使者を向かわせた。

ブラガンサの鳥を使って、オセアノ王宮へ手紙を送る為だ。


金鉱脈が無くなったという事は、考えたくないがレイリアが‥レイリアが死を迎えたという事ではないのか‥‥?

私の娘の身に‥一体何が起きたというのだ‥‥


大公は青ざめながらレイリアの身を案じて、ウロウロと執務室を歩いていた。

読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ