ローレの森
「仕方ないわ。状況が状況なだけに貴方を信用するしかないらしいわ。そのかわり、今私達がいる場所を正確に教えなさい」
「も、もちろんですよ姫君。この私に任せて下さい!私なら正確にこの場所を割り出してみせますよ!ところで何故居場所が知りたいんです?助けを呼べる訳でもないのに?」
「それが呼べるのよ。私には妖精を呼び出す能力があるの。農場までは妖精に頼んで言伝を届けて貰ったんだけど、ここまでの道のりは気絶していて無理だったわ。まあ、オセアノ人の貴方には信じられないでしょうけど」
「へっ!?妖精?プッククク‥姫君、冗談を言っている場合ではありませんよ。いやいや姫君も夢見がちですな」
「あの男を呼ぼうかしら?貴方を殴ったあの男、確かリカルドって言ったわね?」
「な、なんと!姫君には妖精を呼び出す能力があったとは!お見それしました!さすが姫君です!」
「貴方の変わり身の早さもさすがね。イネス、悪いけど覚えている限り、ここへ来るまでに見た景色を、そこの胡散臭い男に説明してくれる?」
「はい。でもこの人は誰なのですか?先程レイリア様は殺そうとしたと仰いましたが?」
「誤解なんですよ可愛らしいお嬢さん!私は睡眠薬だと思って姫君に飲ませようとしただけなんです。まさか毒薬だったなど、露ほども思いませんでした」
「睡眠薬でも十分悪い事だけどね!イネス、後で説明するから今はこの男に話してくれる?」
「分かりました」
事態は急を要するという事をイネスは良く分かっている様で、すぐにミゲルに分かり易く説明を始めた。
ベッドに寝かされた時なのかは分からないが、いつの間にか手足の縄を外されていたレイリアは、ベッドから降りると、この部屋に一つだけあった窓辺へ向かって、妖精を呼ぶ準備に入った。
「ふうむ、フィーゴ農場から北西に進んで二つの丘を越えた先の森ですか。いや、可愛らしいお嬢さん、貴女は可愛らしいだけでなく、洞察力も優れている。手にキスしても?」
「お断りします!そんな事よりここが何処なのか早く教えて下さい!」
イネスがきっぱりと突き放すと、ミゲルは残念そうにハァーと息を吐いた。
「早く答えてミゲル!早くしないと真っ先に殺されるのは貴方よ!」
レイリアに急かされミゲルも自分の置かれた状況に気付いたのか、急に焦り始める。
「い、言います言います!ここは間違いなくローレの森でしょう!2、3度通った事がありますから、間違いないです!」
「ローレの森ね。すぐに伝えるわ!」
レイリアはいつもの様に妖精を呼び出すと、ローレの森、隠れ家、5人の刺客、3人という言伝を頼んだ。
お願いよ。
どうか一刻も早く救出が来てくれます様に!
私は早く戻って、伝えなければいけない事があるの。
「ところで可愛らしいお嬢さん、貴女はどうして方角まで分かったのかな?」
「あまり呼ばれたくないですけど、私にはイネスという名前があります。可愛らしいお嬢さんと呼ばれるのはかなり気持ちが悪いので、名前で呼んで貰えますか?」
「ほう。イネス嬢ですか。名前で呼んでとは、なんと可愛らしい事を言ってくれる!」
気持ちが悪いと言われても、全くメゲないミゲルを見て、レイリアは
(さすがにミゲルね。ある意味尊敬するわ)
と思った。
しかしミゲルの言う事も一理ある。
どうしてイネスには方角が分かったのだろう?
「私も聞きたいわ。どうして方角が分かったの?」
イネスはレイリアにはにっこりと笑って、説明を始めた。
「農場で窓を開けた時、太陽が昇ったばかりでした。ですからすぐに東がどちらか分かりましたし、その直線上よりやや右上りに走っていたので、北西だと分かったのです」
「「ほ〜!!しっかりしている(わ)!!」」
レイリアだけでなく、ミゲルまでイネスには感心している。
イネスとの出会いは、レイリアにとって幸運だった。
見た目に反してかなりしっかりしているし、とても冷静に物事を判断できる。
「イネス、こんな状況だけど、貴女と出会えて私はとても助かっているわ。無事に戻れたら、私達お友達になりましょう!」
「はい!」
イネスが照れながら微笑んだのを見て、レイリアは強く決心した。
何が何でもイネスと2人で、絶対に無事に戻ってやるわ!
あ、そういえばミゲルもいたんだった。
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