表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
84/175

旅は道連れ

痛い‥‥

お腹と首の後ろが痛いわ‥。

それに、このベッドは狭いし寝心地が悪い。

何だかガタガタと揺れているみたいだし‥‥

レイリアはそんな事を考えてからハッとした。

そうだわ!私はミドラスの男達に捕まったんだわ!

慌てて起き上がろうとしたら、身動きが出来ず、声を上げようとしても口元に布が食い込み、唸る様な声しか出せなかった。

レイリアは手足を縛られ、猿轡をかまされていたのだ。

寝かされていたのは長方形の座席で、どうやら馬車に乗せられているらしい。

「うう‥うー!」

「おや、もうお目覚めですか姫君。もう少しゆっくり寝ていても構いませんよ。先は長いのでね」

レイリアの寝かされている向い側の座席に座ったリカルドが、ニヤリとしながらそう言った。

レイリアはジタバタともがいて、手足を縛っている縄を緩めようとしたがびくともしない。

「抵抗しようとしても無駄ですよ。武術を習っていたならお分かりでしょう?我々と姫君とじゃ実力が違い過ぎる。それに、この娘がどうなっても構わないのですか?」

そう言われてリカルドの横を見たら、青ざめた顔の少女が1人座っていた。

柔らかそうな栗色の髪は乱れ、茶色い瞳には涙が浮かんでいる。

レイリアと同じか少し下くらいの年齢の、目のぱっちりした可愛らしい少女だ。

少女の首にはナイフが押し当てられていた。

「我々だけでは姫君の身の回りのお世話に不都合が生じますからね。王宮からついでに攫って来たんですよ」

リカルドはクスクスと笑いながら、楽しそうに少女に押し当てたナイフを眺めている。


なんて悪趣味な!

人殺しなんて何とも思わない人種なんだわ。

それにしても無関係なのに攫われたなんて‥‥

これも全部私のせいね。

今頃は皆心配しているんじゃないかしら。

ああ、何だかもう、本当に私って浅はかでごめんなさい!


「もう少しで王都を抜けます。そうしたらその猿轡だけ外して差し上げましょう。当分は田舎道を行きますから、叫んでも誰も来ませんよ。残念ですねぇ姫君」

レイリアはリカルドをキッ!と睨んだ。

それを見てまた楽しそうにリカルドは笑う。


この男に抵抗は逆効果だわ。

今は様子を伺うしかないのね。

暫く大人しくしたら、逃げ出す作戦を考えて‥‥


ガタン!と急に激しく車内が揺れて、レイリアの体は浮き上がった。

体のあちこちを打って、また元の位置にドスンと戻る。

「ルイ、運転に気を付けろ!こっちにはご婦人が乗っているんだ」

リカルドが御者席に座るルイを怒鳴り付けた。

「んな事言ってもこんな夜道に見えるかよ!」

「仕方ない、ゆっくり走れ」

「へーへー分かりましたよ。時間かかったって俺のせいじゃネェからな!」

ルイは言われた通りスピードを抑えた様で、馬車はゆっくりと走り出した。

レイリアはさっきの揺れでドキドキしながら、嫌な事に気が付いてしまった。

よりによって、馬車に乗せられているのだ。


どうしよう!

逃げ出すどころか意識さえ保てるかどうか分からないわ。

他の事に集中して、何とかしっかりしなきゃ!


無意識のうちにリカルドの横の少女を見ると、茶色い瞳と目が合った。

少女は不安げにレイリアを見つめている。

レイリアも真っ直ぐ少女を見つめ、時折瞬きをしては馬車から意識を逸らした。

それでも暫くするとガタガタと揺れる座席の振動で、段々気が遠くなって来る。

少女はレイリアの様子に気付いた様で、隣のリカルドに話しかけた。

「あの、まだ猿轡を取れないのですか?この方が苦しそうなんですが‥‥。それに、何だかさっきよりグッタリしているみたいです。一度止めては頂けませんか?」

「確かに、呼吸が荒い様だな。一応王都は抜けたし、猿轡は外してみるか。姫君、弱った振りをしても無駄ですからね」

リカルドは渋々レイリアの猿轡を外した。

やっと言葉を発する事が出来る様になったレイリアは、リカルドに向かって弱々しく囁いた。

「‥お願い‥‥馬車を‥止めて‥‥」

尋常じゃないレイリアの様子を見て、リカルドはチッ!と舌打ちをした。

「おいルイ!周りに気を付けて一旦止めろ!」

「あー‥周りね。何にもネェよ麦畑の真ん中だ。止めて遅れても俺のせいじゃネェからな」

「仕方がない。姫君に死なれちゃ元も子もない。姫君、少しだけですよ。間違っても逃げようなどと考えない事だ。貴女が逃げればこの娘が命を落とす事になる」

レイリアは返事をする代わりに目を閉じながら頷いた。


馬車が止まるとリカルドはレイリアに念を押して一旦外へ出ると、ルイの所へ向かった。

御者席からはボソボソと話し声が聞こえる。

少女はリカルドが出て行くと、すぐレイリアの頭の下に手を入れて抱き起こしてくれた。

「大丈夫ですか?バルコスの姫君ですよね?」

「‥‥ありがとう。私‥馬車が苦手なの。私の事を知っているのね。貴女は巻き込まれてしまったみたいだけど、私のせいだわごめんなさい‥」

「いいえ、私が彼等と偶然出くわしてしまったのです。実は王宮には行儀見習いで昨日到着したばかりでして、まだ日が浅い為迷ってしまって。申し遅れましたが、私はカストロ子爵の娘イネスと申します」

「イネス‥貴女にぴったりな可愛い名前だわ。ねえイネス、少し窓を開けてくれる?あのリカルドって男が戻る前に、やっておきたい事があるの」

イネスは頷き、言われた通りすぐに窓を開けた。

レイリアは開いた窓に向かって話し始める。

「お願い出て来て。言伝を頼みたいの」

小さな光の玉が窓の外から車内に入って来た。

イネスには見えないらしく、キョトンとした顔でレイリアを見つめている。


やっぱり少ないわね。

オセアノには妖精があまりいないのだわ。


レイリアはオセアノに入ってから何度となく妖精を呼んでみた。

ところがオセアノでは屋外の緑が多い場所以外では、呼んでも妖精は現れないのだ。

王宮では中庭以外で妖精に出会える事はなかった。

「王都の外、麦畑、馬車に乗せられている。4人、男2人。私の頭の中の人に届けて」

レイリアは王宮とドミニクを思い浮かべた。

すると光の玉は、レイリアの周りを一周してからパッと消えた。

「ありがとうイネス。多分この先も馬車で進むと思うけど、私が気絶しそうになっても気にしないで。そのかわり、うんと大騒ぎして馬車を止めて、今みたいに窓を開けて欲しいの。助けを呼ぶ為だから、私を信じてやってくれる?」

「はい。姫君を信じます」

「私の事はレイリアと。頼んだわイネス。私が何かやっても疑われるだけだから、貴女がいてくれて助かったわ」

イネスは少し照れながら笑顔を見せた。


うわぁ‥可愛いわイネスって。

何だか小動物みたいな可愛いさがあるわね。

それに、しっかりしていて頼りになる。

こうやって時間を稼いで助けを待つしか、今は方法がないのだから。

どうかお兄様が気付いてくれますように!


レイリアが心の中で祈っていると、リカルドが戻って来た。

「さて、休憩は終わりです。出発しますよ姫君。先は長いですからね。ルイ、さっき言った通り農園ルートで行くぞ!時間はかかるが仕方がない」

「分かったよ。後で交代してくれよな!俺だって少しは休みテェ」

「ああ。農園に着いたら交代だ」

リカルドがそう言い終わると、また馬車は走り出した。


レイリアは男達の会話をしっかり聞いて、自分達の居場所を報せるヒントを聞き逃さない様集中した。

読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ