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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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さらけ出す

「いつから‥‥だ?兄上はいつから‥‥‥?」

ジョアンは動揺を抑えてエドゥアルドに問いかけた。

「いつからとは、リアといつから会っていたのかという事か?」

「リア‥‥ね。フフッ‥‥アハハハ‥」

「ジョアン?」

「滑稽だな私は‥‥。結局、何をやっても上手くいかない。兄上だってそんな私に愛想を尽かして、隠し事をしていたのだから」

「私はお前に愛想を尽かしてなどいないよ。ジョアン、聞いてくれ。リアに会ったのは偶然だったのだ」

「ここから出られない病持ちの兄上が、どうやって偶然会えると言うんだ!!嘘ならもっとマシな嘘を吐けばいい!いつまでもレイリアに会わせない私を見限ったのだろう兄上?」

ジョアンはそう言ってから、ハッとしてエドゥアルドの方を見た。

エドゥアルドが悲しげに微笑みながらジョアンの前に立ち、ジョアンの頰にそっと手を添えたからだ。

「本当なら、とうの昔に見限られてもおかしくなかったのは私の方だ。お前が言った通り、病持ちの囚われ人なのだから。それなのにお前は、諦めず私に尽くしてくれた。私に対する不満はいくらでもあるだろう?だから‥‥全部吐き出してくれないか?」


エドゥアルドの手の感触は、子供の頃の記憶を思い出させる。

『兄が出来てなぜお前は何も出来ないのだ!』

母親からの説教は、決まってこのセリフだった。

そんな時必ずエドゥアルドは、頰に手を添え"全て吐き出してくれないか?"と言ってはジョアンの不満の捌け口になってくれた。

でもジョアンは全てを吐き出してはいない。

兄が好きだったから、嫌われる言葉は言いたくなかったのだ。


「私が吐き出したら、兄上は私を軽蔑するだろう。だから私は言いたくなかった。いや、そうする事で私は自分が優位に立った様な気になっていたのだろうな‥‥。兄上、私は兄上の為だと言いながら、何をやっても敵わなかった兄上が、私に頼らざるを得ないこの状況を、どこか心の底の黒い部分では喜んでいたのだ」

「うん‥‥」

「レイリアが兄上の探していた娘だというのは、調査の結果偶然知る事になった。でも彼女が記憶を無くしているのを言い訳にして、兄上に報せる事をしなかった。兄上に‥‥‥会わせたくなかったからだ。卑怯な私は、どうせ兄上には何も出来ないのだと、高を括っていたから‥‥」

「うん‥‥。ジョアン‥‥お前もレイリアが好きなのだね‥‥?」

「‥‥だとしたらどうすれば良いのですか兄上?私は‥兄上が大切だ!今だってやはり私の持つ物は全て兄上に返すべきだと思っている。その為にバカな事をしてレイリアを苦しめた‥‥。なのに‥‥今更どの面下げて好きだなどと言えるのですか?だから天罰が下ったんでしょう。兄上は私の知らない所でレイリアに会い、兄上の力になってくれる仲間を作っていたのだから。私など必要なかったと、これではっきり分かりました‥‥」

ジョアンが言い終わると、エドゥアルドはジョアンを抱きしめた。

「すまなかったジョアン‥‥。私はお前に頼りっぱなしで自分が情けなかったのだよ。レイリアは妖精に導かれてここへやって来たと言っていた。そしてドミニク殿には探り当てられたのだ。偶然巡って来たこの出会いで、私にも何か出来る事をしたかったんだ。お前が必要でないなどという事は無い、私が必要とされたかったのだ。お前には兄として少しはカッコイイ所を見せたくてね」

「兄上は‥‥いつだってカッコイイんだ‥。私の大切な兄上なのだから‥‥」

ジョアンはエドゥアルドにしがみついて、嗚咽を漏らしながら思い切り泣いた。

その間エドゥアルドはジョアンの背中を摩って、落ち着くまでずっと抱きしめていた。


「男同士が抱き合う図など見ても、あまり面白くは無いな」

ドミニクの声が聞こえて、2人は慌てて離れた。

いつの間にか扉の前には真っ赤になったイザベラを抱き上げた、ドミニクの姿があった。

「急に呼んですまないドミニク殿。少々取り込んでいてね、入って来た事に気付けなかった。しかし、なぜイザベラを抱き上げているのだ?」

エドゥアルドに顔を見られるのが恥ずかしかったイザベラは、ドミニクの首元へ顔を埋め必死に隠している。

その仕草を見たドミニクは、これ以上ないほど極上の笑みを浮かべた。

「緊急だと聞いたので、一番早く来れる方法をとったまでです」

そう言いながらドミニクはまた微笑む。

ジョアンはその笑顔を見て、思わず目を細めた。


眩しい‥‥!!

最近エンリケがブツブツ呟いていたのはこのせいか?

ドミニク殿がどうとかポエマーがどうとかは、この笑顔を見れば納得だ。

根暗な私に一筋の光が差し込んだ。

心の奥底に根付く根暗の種を、全て枯らし尽くした今日は、根暗全快記念日としよう‥‥

はっ!

これがポエム効果か!?

やはり根暗なポエムを作ってしまった。

成る程、ドミニク殿の笑顔は危険だ。

しかしさすがは兄上!

何の影響も受けていない。


「うん。さすがに貴方は頭がいい。合理的かつドサクサに紛れるという事を、即実行出来るのだからね。でもイザベラには刺激が強過ぎた様だ。降ろしてやってくれないか?」

エドゥアルドにそう言われて、ドミニクは渋々イザベラを降ろした。

やっと解放されてホッとしたイザベラは、頰に手を当て赤い顔を冷やしている。

「ドミニク殿、貴方がジョアンをあまり良く思っていないのは知っている。でもジョアンにも理由があったのだと思うのだ。そしてその理由は既にレイリアも知っているのだろう。それぞれに思う所はあるかもしれないが、我々が今やるべき事は、協力するという事なのだと思う。腹の底の探り合いでは無く、全てさらけ出そうではないか。まずはジョアン、話してくれないか?十項目とやらを作った理由を」

ジョアンは頷き真剣な表情でドミニクを見ると、静かに話し始めた。

読んで頂いてありがとうございます。

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