非常事態
「あ、あの‥私‥‥」
「リア、せっかく来てくれたのにごめんよ。後で私から会いに行く。一度イザベラと戻って、待っていてくれないか?」
「え!?でもエディ貴方は‥‥」
「大丈夫。私はもう隠し事はしないと決めたんだ。イザベラ、リアをホアキン翼へ連れて行ってくれ。それから、ドミニク殿を連れて来てくれないか?」
イザベラは戸惑いながらも無言で頷き、レイリアの手をギュッと握って扉へ向かう。
レイリアはイザベラに手を引かれて扉を潜る前に、ジョアンとエドゥアルドをチラリと見た。
ジョアンは唇をギュッと噛み締め、真剣な表情でエドゥアルドを見つめている。
エドゥアルドは微笑みを浮かべて一度頷きながらレイリアを見ていた。
ホアキン翼へ戻ると、イザベラが女官を呼んでドミニクへ使いを頼んだ。
イザベラは溜息を吐きながらレイリアを自室へ連れて行くと、ソファへ座らせてその横へ自分も腰を下ろした。
「ごめんなさいレイリア。私のせいで何だかおかしな方向へ話が進んでしまったわ」
レイリアはフルフルと首を振り、さっきエドゥアルドの口から出た言葉を尋ねた。
「エディはドミニク殿を連れて来てくれって言ったわ。イザベラ、何でエディがお兄様を知っているの?」
「知っているというより、知られたと言った方が正しいわね。ドミニク様は着いて早々にエドゥアルドの存在を突き止めたの。貴女といいドミニク様といい、こうも簡単にエドゥアルドを探し出してしまうのなら、いずれ隠しておく事など出来なくなったでしょうね」
「お兄様が突き止めた?でも何も話してくれなかったわ。それにエディは会いに来るって、隠し事はしないと決めたって‥」
「エドゥアルドが後で自分から会いに来ると言ったのは、自分で話したいという事でしょう。ごめんなさいレイリア。私はポンバルの者として、エドゥアルドの意思に従うしかないの。だからこれ以上何も言えないわ」
「‥‥自分から来るなんて‥そんな危険を冒して欲しくないのに‥‥」
「大丈夫!私が何とかするから、レイリアはここで待っていて。私はドミニク様を連れてエドゥアルドの所へ行って来るわね。アマリアには連絡しておくから心配いらないわ」
「でも‥‥」
「大丈夫よ。それじゃあ私は行くわね」
イザベラはそう言って自室から出て行った。
1人残されたレイリアは「どうしたらいいの」と呟きながら部屋をウロウロするしかなかった。
イザベラがホアキン翼からドミニクの元へ向かっていると、途中でドミニクに会う事が出来た。
連絡を貰ったドミニクが、すぐに駆け付けてくれたからだ。
「イザベラ嬢、どうしたんだい?大至急会いたいと連絡を貰ったんだが?」
ドミニクは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうにそう言った。
うっ‥‥
非常事態にも関わらず、眩しい笑顔にクラっと来たわ!
ダメダメ!息を整えて。
なぜか上機嫌なドミニク様には悪いけど、頭の痛い話をしなければならないのだから。
イザベラは深呼吸してからドミニクに言った。
「非常事態ですので歩きながら話しますね。実は私がレイリアを連れてエドゥアルドに会いに行ったら、ジョアンと鉢合わせしてしまったんです」
「ジョアン殿下と?それは‥‥予想外の話だね。僕はてっきり‥‥いや、それでどうなったんだい?」
「エドゥアルドはジョアンにレイリアを"私の隠し事だ"と言いました。そしてドミニク様を連れて来る様にと、私に言ったのです。エドゥアルドはどうやら覚悟を決めた様なのです。もう隠し事はしないと決めたと言っていましたから」
「‥‥そうか。エドゥアルド殿は決断したのだね。それなら僕も力を貸さねばならないな。イザベラ嬢、少し急ぐから貴女を抱き上げるよ」
「えっ?ドミニク様何を‥‥キャアッ!!」
ドミニクはイザベラを横抱きにして走り出した。
「ド、ドミニク様、やめて下さい!誰かに見られでもしたら、貴方の評判に傷が付きます!」
「誰に見られたって僕は気にしない。それに、非常事態なんだからこの方が早いだろ?しっかり捕まってくれ」
イザベラがギュッと抱きつくと、ドミニクは嬉しそうに微笑んだ。
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