別れの朝
翌朝ドミニクは洗顔をした後、長い髪を襟足までバッサリ切って、切った髪の一房を三つ編みにした。
すっかり準備を整えて階下の食堂へ向かうと、レイリアとルイスは既に席に座っていた。
「おはようレイリア、ルイス」
「「えっ!!」」
二人は口を開けてポカンとしている。
ドミニクはニッコリ笑い、二人の間の空いた席に座った。
ハッとしたようにルイスはドミニクに話しかける。
「兄さん、どうしたんですか?バッサリと‥いえ、短くても似合いますが」
「レイリアに許可を貰ったからね。首がスースーするよ。どうかなレイリア?」
「お兄様‥‥長いのは王子様みたいで素敵だったけど、短いのは凛々しくて騎士様みたいで素敵!!お兄様ならどんな髪型でも似合うわ〜」
レイリアはウットリと兄を見つめている。
「えーと兄さんに見惚れるのは分かるが、レイリア、兄さんはみたいじゃなくて、本物の王子様なんだが?殿下だぞ」
「分かってるわよそんな事!物語の王子様みたいだって言ってるの!そんな所でいちいち突っ込まなくてもいいじゃない」
ルイスは反論しようとしたが、昨日反省したのを思い出して言いたい事をぐっと堪えた。
ドミニクは苦笑し、ルイスなりに努力しているのだなと、小さい子供にする様にルイスの頭を撫でた。
「お兄様、なんでルイスばっかり?」
「ルイスはきちんと反省しているからだよ。レイリアはあんまり努力が感じられないね」
「は、反省します!」
ドミニクはクスッと笑ってレイリアの頭を撫でた。
レイリアは嬉しそうに目を閉じて、ドミニクの手の温もりを感じている。
別れの時間が迫っているのを、レイリアも分かっているからだろう。
朝食を済ませると、外に出て馬の準備に取り掛かった。
アマリアは既に馬車の前で待機しており、従者達にあれこれと指示している。
食事の席にいなかったので、レイリアがどうしたのかと訪ねると「使用人は主人と一緒の席に着かない物です」と言っていた。
まだ何か言いたそうなアマリアだったが、お説教が始まると感じたレイリアは、ドミニクの元へ逃げた。
「レイリアこれを」
ドミニクは三つ編みにした髪をレイリアに渡した。
レイリアは受け取り、宝物の様に大事に鞄にしまう。
レイリアの目には涙が浮かんでいる。
ドミニクはレイリアを引き寄せ、優しく抱きしめて、額と頰にキスをした。
「必ず迎えに行く。それまでにレイリアは立派なレディになってくれ。出来るかい?」
「お兄様が迎えに来てくれるなら、私は努力するわ。必ずよ、必ず迎えに来てね」
レイリアはドミニクをギュッと抱きしめて、頰にキスをした。
こうしてレイリアは、大好きな兄や父、大好きな故郷に別れを告げた。
これから始まる異国での暮らしは、決して明るい物ではない。
果たしてレイリアにとって、凶と出るのか吉と出るのか‥‥
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