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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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隠し事

ジョアンはエルナン翼へ向かっていた。

アントニオ博士から解毒剤が完成して、既にエドゥアルドへ届けたという連絡が来たからだ。

数日前から試作品を服用し、それによりかなり症状の改善が見られたエドゥアルドは、今回完成した解毒剤を服用すれば全快するだろうとアントニオ博士は説明してくれた。

はやる気持ちを抑え隠し扉を潜りその先の扉を開けると、そこにはエドゥアルドの姿が見えた。


「エド!体はどうなんだい?博士から聞いて慌てて来たんだ」

「落ち着きなさいジョアン。まずは座って話そう。時間は大丈夫なのか?」

「時間なんて、エドの為ならいくらでも都合するよ。それより体の調子を聞かせてくれ。どうなんだエド?」

ジョアンは焦って捲し立てはしたが、きちんとエドゥアルドの言う事を守って椅子に座った。

「体調はいいよジョアン。この10年苦しんだのが嘘の様にね。多分、私は全快するだろう」

エドゥアルドの言葉にジョアンは俯き、ギュッと拳を握り締めた。

「どうしたジョアン?喜んでくれないのかい?ジョアン‥‥‥‥‥‥お前‥‥」

ジョアンの拳の上に、ポツポツと小さな雫が落ちている。

喜びに震えながら、泣いていたのだ。

エドゥアルドはジョアンの頭を優しく撫でて、背中をポンポンと軽く叩いた。


「兄‥上‥‥が、兄上が‥全快するなら‥こんな嬉しい‥事はない‥‥」

涙を堪えてやっと言葉を絞り出すジョアンに、エドゥアルドはドミニクから頼まれた事を聞かなければならないと思った。

「私の為に泣いてくれるのだね。お前は昔から優しい子だった。でもその優しさ故に、余計な事を考えていないか?ジョアン、私はお前が何か隠し事をしている事に気付いているんだ」

「兄上‥‥何を‥!兄上に隠し事なんて‥‥」

「違うと言い切れるのかい?ジョアン、話してくれないか?私はお前にとってそんなにも頼りない兄なのか?」

「違う!兄上は私の一番大事な人だ!!でも、今正直に話した所で‥多分兄上は反対するだろうから、私は‥‥話せないんだ」

エドゥアルドにはジョアンが頑なになる時は、全て自分に関わる事であるという事が分かっている。

と、なると簡単には言わないだろう。

ならばやはり、自分の決断を話すべきなのだ。

「ジョアン私はね、お前が父上の跡を継いで立派な国王になってくれればそれでいいと、そう思っていた。でも私は‥‥出会ってしまった。自分の運命に」

「‥‥兄上?」

「ただ生ける屍の如く、辛うじて生きているだけの私には、未来に何の希望も見出せなかったのだよ。心の支えはお前に話した娘だけで、その娘にだって二度と会う事はないだろうと、全てを諦めていたんだ。それなのに‥‥私の元へ突然舞い降りて来たんだ。私の運命の乙女が‥‥」

「兄上‥‥‥!」

「私もお前に隠し事をしていた。それはやはり、体が良くなる事はないと諦めていたからだ。出会った事さえ無かった事にしようと、お前に話さず胸にしまっておくつもりだった。でも、やはりお前に隠し事をしたくない。それに私の体調も状況が変わった。だから私の隠し事を聞いてくれ」

ジョアンは頷き、握り締めていた拳を開いて両手の指を絡めた。

すると、突然扉が開いて女性が2人部屋へ入って来た。


「エドゥアルド!体調はどうかしら?今日は貴方が喜ぶ顔を見ようと思って、ステキな人を連れて‥‥!!」

イザベラは驚きのあまり口を噤んだ。

ジョアンはイザベラの後ろにいる女性を見て、思わず立ち上がった。

「イザベラ‥‥連れて来たって‥そう言ったか?そして、なぜ貴女が‥‥?」

エドゥアルドは溜息を吐きながら、立ち上がってイザベラの方へ歩いて行く。

「イザベラ、タイミングが悪すぎるぞ。全く、これからジョアンに話そうとしていた所だったのに‥。しかしちょうどいい機会だ。リア、おいで!」

エドゥアルドはイザベラの後ろで困った顔をして小さくなっていたレイリアの手を引いて、自分の前に立たせると、両手をレイリアの肩に添え、ジョアンの方を向かせた。


「ジョアン、私の隠し事だ。そして私の運命であり、私の希望なんだ。でも残念な事に、思い出しては貰えないのだがね」

ジョアンはエドゥアルドとレイリアを交互に見つめ、苦悩の表情を浮かべた。

レイリアは偶然にもジョアンと鉢合わせしてしまった事に気まずさを覚えて、エドゥアルドを不安げに見上げたが、エドゥアルドは微笑むだけで何を考えているのか分からなかった。

読んで頂いてありがとうございます。

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