貰って嬉しいお土産
ホアキン翼に戻ったレイリアは、イザベラをソファへ座らせ自分もその隣に座ると、女官を呼んでお茶を淹れて貰った。
イザベラは訓練場からずっと黙ったままだったが、お茶を飲んで落ち着いた様でようやく口を開いた。
「ごめんなさいねレイリア。私の我儘で戻って来てしまって。貴女はまだ見ていたかったでしょうに」
「ううん、お兄様の試合は見れたし、もう十分堪能したわ。どちらかというと、見るより試合に出たかったかも。血が騒いでウズウズしてきちゃった。あ、アマリアには内緒よ!」
「まあ!エドゥアルドが聞いたら血相を変えて全力で止めに入る様なセリフね。内緒にしておくけどね。ウフフ」
「エ、エディって‥‥えっ!?ダメなの?私結構強いのよ?」
「レイリアが怪我でもしないか心配して止めるって事よ。それに、他の男性と試合するくらいなら、自分が相手になるって言うでしょうね」
「ダメよ!エディとは本気で戦えないもの‥‥。あ!そういえばイザベラに頼みがあったんだわ!」
「頼み?何かしら?」
「あのね、市場でお土産買った時にね、実はエディのお土産も買ったの。だから‥‥イザベラに渡して貰いたいなと思って」
モジモジしながら話すレイリアが可愛くて、イザベラはギュッと抱きしめた。
「ふわっ!イザベラ、突然ね」
「ん〜可愛いわぁ。レイリア、せっかく貴女が買った物なのだから、貴女が渡さなくてはいけないわ。もうすぐ夕方だから、一緒に行きましょう。大丈夫!どんな物でも貴女が選んだ物なら大喜びよ!」
「そうかしら?それにしてもイザベラ、胸が大きいのね。パフパフだわ」
「キャッ!レイリア何を‥‥」
「あーコホン!レイリア、何をしているんだい?」
レイリアがイザベラの胸に顔を埋めていると、突然ルイスに声をかけられた。
ルイスの横には残念そうな顔をしたアマリアと、赤面して横を向くドミニクが立っている。
「何って‥パフパフよ。イザベラの胸は大きいし、柔らかくて気持ちがいいからパフパフしてるの」
「ちょ、ちょっとレイリア、そんな私の胸の説明をしなくても‥」
「そうだぞレイリア!レディの胸を説明するなんて失礼だ!それに、パフパフなんて羨ましい!ねえ兄さん?」
ルイスは真顔でドミニクに振る。
「‥‥そうだな」
ドミニクは赤面したままパフパフ中のレイリアをチラリと見ると、また横を向いてしまった。
「申し訳ありませんイザベラ様!姫様はこういう残念な所があるんです。姫様、もうパフパフはやめて下さい。男性2人の前ですよ。それともよっぽどパフパフが気に入ったんですか?」
レイリアはパフパフしながら頷いた。
「それなら私のパフパフで我慢して下さい。さあどうぞ!」
「そうだぞレイリア!アマリアで我慢しなよ!イザベラ嬢でパフパフなんて羨ましい!ねえ兄さん?」
「‥‥そうだな」
ドミニクは今度は真顔で答えた。
「「「「えっ!?」」」」
全員の視線が一斉にドミニクに向けられる。
「何というか‥あー‥‥レイリア、もうやめなさい。イザベラ嬢が困っているだろ?それに‥イザベラ嬢にパフパフは禁止だ」
「えー気持ちいいのに!」
「とにかく禁止だ。決して羨ましいからじゃないぞ。なあルイス?」
「いえ、僕は素直に羨ましいですよ。男の夢ですからね」
シレッと言うルイスに、ドミニクは複雑な顔をしている。
レイリアは渋々パフパフをやめて、ソファに座り直した。
パフパフで乱れた髪をイザベラが手櫛で整えていると、レイリアはあっ!と言ってルイスに尋ねた。
「ルイスあれ、何て言ったっけ?勝者にはってやつ」
「そう!それを貰いに兄さんを連れて来たんだ。勝者には美女の祝福が付き物だからね」
「そうそれ!お兄様、イザベラに連れて行って貰った市場で、お兄様にお土産を買ったのよ。私とルイスが選んだ物は却下されたから、イザベラに選んで貰ったんだけど」
「うん。ルイスに聞いたよ。まあ、お前達の選ぶ物は個性的だからね。イザベラ嬢が選んでくれて、少しホッとしている。それで、イザベラ嬢‥貰えるだろうか?」
「あ、私ったら気が利かずにごめんなさい。これですわ」
イザベラは立ち上がってドミニクの前へ進むと、綺麗にラッピングされた包みを渡した。
「あの、ドミニク様、先程はご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません。でも、本物の剣を使わせるなんて、そんな危険な事はやめて下さい。私なんかのせいで何かあったらと思うと、いたたまれないですわ。本当に私にはお気遣いなく‥」
「貴女はレイリアの大切な友達だからね。気遣うなと言われても、聞き入れるつもりはないよ。まあ、僕も頭に血が上って少々大人気ない振る舞いをしたが。‥‥ところでこれ、開けてみても?」
「ええ、どうぞ」
ドミニクが包みを開けると、ベルトに通すタイプの黒い革製の小物入れが入っていた。
「うん!これは移動する時や馬上でちょっとした物を入れるのに便利だね。ありがとうイザベラ嬢!お土産を貰って嬉しいと思ったのは久しぶりだよ」
「オセアノ王都は昔から革製品の職人が多いのです。ですから上質な革製品が手に入りやすい環境なのですよ。それも多分20年は使えると、太鼓判を押されました」
「そうか、革製品ね。うん、イザベラ嬢はセンスがいいね」
「ドミニク様はっきり言ってやって下さいよ。姫様とルイス様にお土産選びのセンスが無いって!」
アマリアはウンザリした顔でルイスとレイリアを見た。
「えー僕等だっていい線いってると思うよ。最初に殿下に選んだお土産は、喜んで貰えたし!ねえレイリア?」
「そうよ!殿下に渡したら喜んで飾るって言ってくれたもの」
「いつの間に?姫様いつの間に?なんで買う前に相談しなかったんですか?ああ、殿下も気の毒に‥。いいですか姫様、どこかへ出かけても決して私にお土産は買って来ないで下さいね」
「アマリア、自分だけ免れようとするのは感心しないな。父上だって全部受け取っているじゃないか。しかし殿下も開けてみて驚いただろうな‥。その顔を見てみたい気がするが‥」
ドミニクは想像して思わず笑ってしまった。
レイリア達がジョアンに買ったお土産は、ジョアンの執務室の机の上に飾られていた。
いつもの様にエンリケが書類を置こうとしたら、それを目にしてギョッとした。
「ジョアン、これは何だ?」
「筆立てだ。見て分からぬか?」
「分からん!インパクトが強すぎて用途不明だ。いつこんなシュールな物を買ったのだ?」
「買ったのではない、貰ったのだ。姫君の土産だ」
「ふむ。姫君から貰った物なら仕方がない。そうだな、これは"ドキッ!マッチョでギュッ!"というネーミングが相応しい」
「そのままじゃないか。とにかくこれは気にするな。私もなるべく目にしない様にしている」
「気にするなと言われても気になるのは仕方がない。姫君も中々のセンスの持ち主だな」
エンリケの視線の先には、陶器製のムキムキのマッチョが腕で輪を作るポーズを取り、その輪の中に筆記用具を入れる仕様の筆立てがあった。
マッチョはパンツ一丁で、テカテカに光る様丁寧な色塗りが施されている。
暫くの間執務室へ入る度にエンリケが顔をしかめていた事を、レイリアとルイスは知らなかった。
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