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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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喧騒に紛れる

ドミニクはイザベラの手首を掴んで立ち上がらせると、自分の背後に立たせた。

隣に座っていた男性は呆気に取られ、口をポカンと空けている。

レイリアも一瞬驚いて立ち止まったが、キャーという黄色い声で我に返り、またイザベラの元へ走り出した。

ドミニクは男性に向かって笑顔を浮かべている。


あ!お兄様のあの笑顔‥‥!

あれは‥‥ヤバいやつだわ。

とんでもなく怒っているじゃない!

あの男性、生きて帰れないかもしれないわね。

ご愁傷様。


レイリアはスピードを上げてイザベラの元へ辿り着くと、ドミニクの背後で困惑しているイザベラへ駆け寄った。

「レイリア、イザベラ嬢を頼む。君、名前は?」

男性はまだ呆気に取られていたが、ドミニクに名前を聞かれて慌てて答えた。

「わ、私ですか?ファ、ファビオと申します」

「君のその制服、どこの所属の騎士なのかな?」

「第10小隊に所属しております」

「ふーん。第10小隊と言えば‥確か高位貴族の子弟ばかりが集められている所だよね。でも、ここがどういう場所かくらいは教わっている筈だけど。ファビオ君、ここは何をする場所なんだい?」

「く、訓練場であります!日頃鍛錬を行い、実戦に備える場所であります!」

「分かっているじゃないか。ならここは女性を口説く場所じゃないよね。君は何をしに来たんだい?」

「け、見学であります!」

「そう?見学ね。見学だけじゃ勿体無い。ファビオ君、君には特別に模擬戦に参加して貰おうか」

「へっ?模擬戦‥ですか?わ、私が?」

「そう。君も騎士なら断らないよね。もちろん相手はこの僕だ。さあ、一緒に降りて剣を交えよう!」

ドミニクはヒラリと塀を乗り越え、再び訓練場に戻るとファビオが来るのを待つ。

「いいぞー!」という声援や「キャー」という黄色い声が飛び交い、ファビオは断る事が出来なかった。


ここで断ったら騎士の名折れだ。

ましてやこの大歓声、参加しなかったら一生臆病者と後ろ指を指されてしまう。

まあでも、いくらドミニク殿下が強くても、既に2人と試合をした後だ。

それに比べて私は消耗すらしていないし、幾らか腕には自信がある。

もしかしたら勝てるかもしれないな。

そうしたら私がヒーローじゃないか!


ファビオはゴクリと唾を飲み込み、少し服を引っ掛けながら塀を乗り越えドミニクの前へ立った。

通常模擬戦で使うのは刃を潰した剣だ。

ファビオが模擬戦用の剣を取りに向かうと、ドミニクはそれを静止した。

「君はその腰の剣を使うといい。こんな時でもなければ使う事は無いだろうからね」

ファビオは明らかに舐められていると思い、ムッとして眉間に皺を寄せた。


あんまり舐めてかかると、後で痛い目に遭うぞ!

私の剣は良く斬れる。

そのお綺麗な顔に傷を作って、後悔しても知らないからな!


「構え!」

という声と共に、ファビオは剣を抜きドミニクに斬りかかった。

「始め!」という合図を待たずに斬りかかったので、訓練場はブーイングの嵐に包まれる。

しかしドミニクは全く動じず、ファビオの剣先をいとも簡単に払い除けると、隙が出来た腹部と剣を持つ両手、クルリと背後に回り背中を2回、模擬戦用の剣で斬りつけた。

「カハッ‥‥!!」

ファビオは剣を落として膝を着き、激しく咳き込み崩れ落ちた。

腹部と背中を打たれて呼吸がままならないのだろう。

「勝負あり!」

という声と共に、2人の騎士に両脇を抱えられて裏に運ばれて行った。

訓練場は大歓声が沸き起こり、ドミニクは四方に向かって手を振りながらお辞儀をした。


「さすがお兄様!向かう所敵なしだわね!見た!?イザベラ!私のお兄様は世界一なの!」

「‥‥ええ‥そうね。‥‥ごめんなさいレイリア、ここから離れたいわ」

レイリアはアマリアの言っていた"普通レディという物は乱暴な事を好まない"という言葉を思い出し、慌ててイザベラの手を引いて出口へ向かった。

イザベラの手は微かに震えている。

「ごめんねイザベラ。怖かったわよね?」

イザベラは少し潤んだ瞳で微笑みながら、首を振っている。


よっぽど怖かったんだわ!

早く部屋へ連れて行って休ませないといけないわね。


レイリアがまだ興奮覚めやらぬ訓練場を出ると、出口で立ち見をする見学者にぶつかった。

少しよろけた所に手が差し出され、レイリアは何とか転ばずに済んだ。

「大丈夫ですかお嬢さん達?」

見習い騎士の制服を着た、二十代後半くらいの男性2人が、レイリアとイザベラを助け起こしてくれたのだ。

「ありがとう!助かったわ。貴方方も見学に?」

「はい。とても貴重な物が見られると聞きまして。お陰でいい物を見る事が出来ました」

「素晴らしかったでしょ?私のお兄様なのよ!」

「はい。お噂は伺っておりましたが、我々見習いにはとても勉強になりました。姫君の事も伺っておりましたが、この様な場所でお会い出来るとは思ってもみませんでした。とても光栄に思います」

2人のうち1人は無口な様で、笑顔を浮かべて頷くのみだ。

「あら、貴方だって相当鍛錬を積んでいるでしょう?手を見れば分かるわ」

「これは‥‥!姫君の観察眼には感心致しますな。確かに鍛錬は積んでおりますが、まだ見習い止まりですよ。いやはやお見それ致しました」

「私もいくらかは習っているからたまたまだけどね。それじゃあ急ぐからもう行くわ。頑張ってね!」

レイリアはイザベラの手を引いて、ホアキン翼の方角へ歩いて行った。

2人の男性は頭を下げてレイリア達を見送っている。


「ルイ、単なる小娘と侮っていたが、思ったより鋭い目を持っているようだぞ。念の為お前にはだんまりを決め込ませたが、用心した甲斐があったな」

「話すのはリカルド、オメェに任せラァ。俺は無口で通す。しっかしウメェこと潜り込めたな」

「まあ、いわく付きの侯爵の所へ行って、正解だった訳だ。当面は姫君の行動パターンと王宮からの脱出ルートを探ろう」

「了解だ。リカルド傭兵隊長」

2人は獲物を狙う様な鋭い目付きになると、訓練場から戻る人混みに紛れて消えて行った。

読んで頂いてありがとうございます。

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