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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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碑文

夕方イザベラに呼ばれたドミニクは、一緒にエドゥアルドの元へ向かっていた。

「今日はこの時間が一番いいのです。警備兵もいませんし、ジョアンも来る事はないので」

「知らせてくれてありがとう。しかしイザベラ嬢、貴女はどこからそれを知るんだい?」

「ウフフ内緒ですわ。情報収集は私の得意とするところですから」

「貴女は頼もしいね。王太子の許嫁に選ばれただけある。でもあんまり無茶はしないで欲しい。心配だから」

「だ、大丈夫です。それより急ぎましょう」


そうよ大丈夫!私は大丈夫よ。

この方の言葉にいちいち反応してはダメ。

特に深い意味は無いのだから。

イザベラは必死にトキメキを抑えつつ、足早に抜け道へと進んだ。

ホアキン翼からエルナン翼への抜け道は、隠し扉に近い場所に繋がっている。

どの宮よりも一番行き来し易い事から、イザベラは滞在先にホアキン翼を選んだのである。

扉を開けるとエドゥアルドが昨夜より更に血色のいい顔色で出迎えてくれた。


「2人とも昨夜は遅くまで付き合わせてしまったが、支障は無かっただろうか?」

「僕は問題ありません。でもイザベラ嬢には朝から無理をさせてしまいました。僕がもう少し早く切り上げていれば良かったのですが」

「いえ、私は仮眠を取りましたから大丈夫ですわ。ドミニク様、どうか私にはお気遣い無く!」

きっぱりと言い切るイザベラに、ドミニクは困った顔をしている。

エドゥアルドは軽く咳払いをしてから、2人に向かって話しかけた。

「本棚ばかりで碌に座る場所は無いが、腰を下ろして話そうじゃないか。どれでも好きな椅子を使ってくれ」

エドゥアルドはベッドに座り、 ドミニクとイザベラはベッド脇の椅子に座った。

ベッド脇には椅子が3個並んでおり、わさわざ真ん中を開けるのも不自然な気がして、イザベラはドミニクの横に並んで座る事を選択した。

だが、その距離の近さにすぐ後悔する事になった。

エドゥアルドはイザベラの様子をからかう様な目で見ている。

イザベラはキッと睨みつけたが、エドゥアルドは涼しい顔をしてドミニクに言った。


「早速だがドミニク殿、昨夜の続きを話して貰えないだろうか?」

「そうですね。レイリアのもう一つの秘密を話しましょう。レイリアと金鉱脈は深い繋がりがあるのです」

「‥‥やはりか。ミドラスが攻め込めないという事は、金鉱脈に関係しているとは思っていたが‥」

「ええ。実はレイリアには金鉱脈を消滅させる事が出来るのです」

「「なんだって(ですって)!!」」

「それならなぜこの様な騒ぎになる前にそうしなかったのだと思われるでしょうね。単に金が惜しかったとか、そういう理由ではありません。最初からその方法を知っていたのは父だけでした。そして父であるが故に、レイリアに方法も何もかも教えなかったのです。なぜならその方法とは、レイリアの命と引き換えだったから‥」

「レイリアの命だって?どういう事なんだドミニク殿?」

「始祖バルコスから、国を継ぐ者にだけ伝わって来た碑文があります。それにはこう書いてあるのです。"全てを受け継ぐ者には、全てを返す力がある。その時が来たら全ての輝きと共に、今度こそ私は全てを返そう"」

「その碑文の意味を教えてくれないか?」

「まず全てを受け継ぐ者とは、レイリアの髪と瞳の様に両方を持った者の事だと言われてきました。そして返すという事こそ、消滅させるという意味なのです。最後に、全ての輝きと共にという意味は、瞳と髪の輝きを失う事‥つまり、死を意味するのです」

「待ってくれドミニク殿、死だって?その時が来たらとはどういう意味なんだ?」

「その時という意味は正確には分かりません。ただ、死を迎えた時の事だろうと言われて来ました。だからレイリアがなんらかの形で命を落とせば、あの金鉱脈は消滅すると父は考えました。そして、もしレイリアがその事を知り、ミドラスが攻めて来たら、その時レイリアはどうするかも考えたのです」

「‥‥大公は‥レイリアなら自分の命を捧げて、バルコスを守るだろうと思ったのだな‥。私も‥レイリアならそうするだろうと思う」

「その通りです。そして父は僕の性格も良く分かっていました。僕が知ればレイリアを連れて逃げるだろうと思い、僕にも秘密でミドラスやオセアノと交渉したのです。尤も、最初からミドラスには何も与えてやるつもりはありませんでしたが。父はレイリアにとって一番いい選択をするつもりだった様ですが、計算外だったのはジョアン殿下の出した条件でした」

「私、今日調べましたの。十項目という酷い条件の事を。思わずジョアンの首を締めてやろうかと思いましたわ!エドゥアルド、貴方も知ったらジョアンを殺したくなる筈よ。早く聞いてみるといいわ」

「レイリアの為に怒ってくれるんだね。ありがとうイザベラ嬢」

「と、当然の事ですわ!私はすっかりジョアンを見損ないましたもの」

「イザベラがそこまで言うとなると、相当な事をしでかしたのだろう。ドミニク殿、弟が迷惑をかけて申し訳ない」

「エドゥアルド殿が謝る必要はありません。ですがエドゥアルド殿には頼みがあります。ジョアン殿下は何を目的として、条件を出したのかを聞き出して欲しいのです」

「それは私も気になっていた所だよ。ジョアンから何とか聞き出そう」

「お願いします。レイリアは何か知っている様なのですが、絶対に言わないのです」

「‥‥レイリアが知っている?それはつまり、レイリアにだけジョアンは話したという事か‥‥」

エドゥアルドは焦りの様な、妬みの様な感情が湧いてくる自分に気が付き、複雑な表情を浮かべていた‥‥

読んで頂いてありがとうございます。

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