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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
72/175

空気の重さは人それぞれ

朝食の席は重い空気に包まれていた。

マヌエル3世の作ったマヌエル翼の豪華なダイニングには、長いテーブルの上座にジョアン、右手にドミニク、その隣にレイリアと並び、左手にルイスとイザベラが座っている。

ドミニクは笑顔を浮かべているが終始無言で、レイリアとルイスにはそれがどういう意味を表すのか良く分かっていた。

イザベラは見るからに眠そうな顔をしており、口を開くのも億劫といった感じで、あまり食欲もなくお茶ばかり飲んでいる。

ジョアンはといえば、空気を読んでかやはり無言だった。


「レ、レイリア今日はいい天気になりそうだね」

ルイスはこの空気に耐えられず、唯一話しても大丈夫なレイリアに話しかける。

「そ、そうね。良かったわ」

「「「‥‥‥」」」

ルイスはレイリアに話しかけてから思った。

『僕のバカ〜!なんで天気?他に話題はなかったのかよ!』

レイリアもルイスに返事をしてから思った。

『私のバカ〜!なんで話を膨らまさなかったのよ!』

2人はお互いに目配せをして、どちらが話題を振るか牽制し合っている。

そんな2人をよそに、突然沈黙が破られた。

ふいにドミニクがジョアンに話しかけたのだ。


「殿下、いつもレイリアを食事にお誘い頂いている様で、ありがとうございます。聞けばわざわざレイリアに合わせて食事をされているとか。お忙しい殿下のお時間を都合させる等、兄として見過ごす訳には参りません。これからはその様な事のない様、レイリアは別に食事をさせますので、殿下はご自身のご都合に合わせて食事をお摂り下さい」

一際にっこりと笑顔を貼り付けたドミニクは、有無を言わさぬ迫力がある。

それでもジョアンは怯まず、ドミニクに言い返した。

「いや、姫君を食事に誘ったのは私だ。私が時間を都合させるのは当然の事で、姫君が気を使う事など一つもない。だから別々に食事をする必要はないのだ」

このやり取りを見たルイスは、レイリアに目配せをした。

『なんとかしてくれレイリア』

レイリアは首をフルフルと振るだけで何も言えない。

するとイザベラがジョアンに言った。


「必死ねジョアン。それはやっぱり私がこの前言った事が原因かしら?でもね、あんまりしつこいと嫌われるわよ」

「な、何を言い出すんだイザベラ!冗談にしてもタチが悪いぞ!」

明らかに動揺するジョアンを尻目に、ドミニクはイザベラに問いかける。

「イザベラ嬢、貴方が殿下に言った事とは何でしょう?差し支えなければ教えてくれないか?」

「ええ、私は特に差し支えないのですけど‥」

「ドミニク殿、やはり先程の貴方の提案は検討する事にしよう。イザベラ、私には差し支える!迂闊に他で話さない様に!さて、あまりゆっくりしていられないので、私は失礼するよ。皆は食事を楽しんでくれ」

ジョアンは立ち上がると、忙しそうに扉へ向かった。

扉を開ける間際に立ち止まるとルイスの方を向いて

「すまないがルイス殿、後で私の執務室へ来てくれないか?頼みたい事があるのだ」

と言った。

「分かりました。後で伺います」

ルイスの返事を聞き頷くと、今度こそジョアンはダイニングを後にした。


ジョアンが出て行って、ようやく重い空気から解放されたルイスとレイリアは、お互いにフゥーと安堵の溜息を漏らす。

するとドミニクは笑顔を崩さずレイリアに言った。

「レイリア、お前の今日の予定は午後だけにした。午前中は僕と話をしよう」

「お兄様と過ごせるのは嬉しいけど、一体何のお話?」

「話さなければいけない大事な話もあるが、まずは森番小屋でお前が殿下にした事だね」

にっこり笑いながらドミニクが言うと、ルイスは目を泳がせて明後日の方向を向く。

「お、お兄様、ええと、はい。分かりました‥」

レイリアは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

「イザベラ嬢、貴女は少し仮眠を取った方がいい。昨夜は遅かったのだからね」

「そうですわね。お言葉に甘えてそうさせて頂きますわ。とりあえず2人だけで食事というのは回避出来ましたし。では私もお先に失礼致します」

イザベラもサッと席を立ち、ダイニングを後にした。


イザベラが去ると、ルイスは少し顔を赤くして、モジモジしながらドミニクに問いかける。

「あの、兄さん‥昨夜イザベラ嬢が遅かったって言いましたけど、どうして知ってるんですか?」

「やっぱりルイスも気になった?私も気になったのよ!」

レイリアは興味津々といった感じで目を輝かせてドミニクを見た。

「ルイス、何か勘違いしている様だが、お前の想像する様な事は何も無い。昨夜寝付けなかったから王宮内を散歩していたんだ。そこで偶然にもイザベラ嬢と出会い、ついでに昼間の続きを案内して貰ったんだ。変な想像はイザベラ嬢に失礼だぞ」

「す、すいません兄さん。でも兄さんはともかく、イザベラ嬢はなぜ夜部屋から出ていたのですか?」

「ご実家の用事で外出していたそうだ。とにかく、イザベラ嬢の評判を落とす様な想像はやめなさい」

「はい」

ルイスは素直に返事をしたが、やけにイザベラを庇うドミニクが気になった。

でも会ったばかりでどうにかなるほどドミニクは迂闊ではないので、それ以上何かを言うのはやめた。

「さて、我々も戻ろうか。ルイスは殿下の所へ行くのだろう?僕はレイリアの部屋へ行って話をするとしよう。後でまた話を聞かせてくれ」

「はい。それじゃあ兄さんまた後で。レイリア、とりあえずお達者で!」

ルイスは憐れみを込めてレイリアを見ると、足早に去って行った。


マヌエル翼から場所を移したドミニクとレイリアは、向かい合ってソファへ座りアマリアの淹れたお茶に口を付けていた。

レイリアは笑顔を引きつらせながら、ドミニクが口を開くのを待っている。

ドミニクはニコニコと貼り付けた笑顔を浮かべてレイリアを見ている。

レイリアにとって拷問にも近いこのドミニクの無言の笑顔は、とてもじゃないが長い時間耐えられる物では無かった。

「お兄様ごめんなさい!私はレディにあるまじき行為をしたばかりか、よりによって殿下を回し蹴りしてしまいました!本っっっ当〜に反省しています!」

「レイリア、僕が武術を教えたのは、そういう事をする為じゃない事くらいは分かっているよね?」

「はい。護身術として教えて頂きました」

「なら怒りに任せてというのは使い方が間違っているね。唯一の救いはジョアン殿下が怒らなかった事だ」

「はい。殿下は私の蹴りを誉めてくれました」

「そこなんだが、散々難癖付けた相手を簡単に許すというのがどうも解せない。殿下は他に何か言っていなかったのかい?」

「と、特に何も。殿下もやり過ぎたと反省したのだと思うわ」

「ふーん‥相変わらずレイリアは隠し事が下手だね。僕に隠そうとしてもすぐ分かるよ」

「う‥だとしても私は何も言わないわ。例えお兄様でも絶対に言えないの。お願いお兄様、もう許して!」

ドミニクは小さな溜息を漏らし、レイリアを真っ直ぐ見つめた。

「お前は約束を守る子だ。これ以上問い詰めても言わないだろうね。‥‥そうだ、約束と言えば‥お前は無くした記憶を取り戻したいと思うかい?」

「えっ?何で急にその話を?」

「お前にとってその記憶が必要だからだよ。ただ、記憶を取り戻すと同時に、酷いショックも受けるだろう」

「お兄様は何か知っているの?」

「知っている。僕はねレイリア、父上からお前の持つ力を教える様言われて来たんだ。それとついでに殿下の行動も探りにね。昨夜早速探ってみたら、思わぬ秘密に辿り着いたよ。もう既にお前も知っている人物についての秘密だ」

レイリアは思わず両手を口に当てて驚きの声を抑えた。

ドミニクはレイリアの反応を見ながら続けて名前を口にした。

「お前も会ったのだってね。亡くなった筈のエドゥアルド殿下に」


レイリアは頭が真っ白になり、その場から動けなくなった。

読んで頂いてありがとうございます。

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