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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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三兄弟

「まずはバルコスの建国神話から話しましょう」

ドミニクがそう言うとエドゥアルドとイザベラは不思議そうな顔をした。

それを見てドミニクは想定内と言わんばかりにクスッと笑う。

「なぜいきなり建国神話を話すのかと、そうお思いでしょう?ですがバルコスの王族のルーツを語らない事には、理解し難い事が多いのです。レイリアの能力は、我々にも未だ全て理解しているとは言えませんからね」

エドゥアルドとイザベラは黙って頷き、ドミニクが話し出すのを待った。

ドミニクは2人を見てから静かに語り始める。


バルコス建国神話

昔、まだ国という認識が曖昧であった頃、西に力の強い豪族がいた。

豪族の族長には3人の息子がいて、それぞれがお互いにはない特徴を持ち合わせていた。

長男は短気で好戦的な性格。

次男は策略家で要領のいい性格。

三男は純真でお人好しな騙され易い性格。

3人はお互いに自分に無い部分を補って、それなりに上手くやっていた。


息子達が適齢期を迎えると族長は言った。

「お前達の内、誰か1人に跡を継がせようと思う。私が一番と認める嫁を連れて来た者に、この部族と領地を譲ろう」

それを聞いた息子達は、嫁探しに旅立った。

短気な長男は隣の領地を治める族長の元へ。

要領のいい次男は豊かで広大な土地が広がる東の方角へ。

お人好しの三男は長男に勧められるまま谷あいの南へ下って行った。


三男は途中で悲しみに暮れる1人の美しい女性に出会った。

何がそんなに悲しいのか?と聞くと、帰り方が分からないと女性は答えた。

お人好しの三男は嫁探しを止め、女性の力になると約束した。

すぐ女性が人ならざる者である事に気付いた三男は、どうやって元いた世界からやって来たのか詳しく聞いた。

昼の最も長い夜、宴の終わりに気付かなかったと女性は答えた。

昼の最も長い夜とは夏至の事で、夏至の夜の宴とは妖精達の宴の事だ。

更に詳しく話を聞くと、自分は妖精王の妹だと言う。

三男は夏至の夜まで待つ事にし、谷間を開墾し集落を作り、女性が住み易い環境を整えた。

そうやって時が経ち夏至の夜が近付いたある日、女性はまた泣き出した。

どうしたのかと尋ねると、離れたくないからだと女性は言う。

三男も同じ気持ちだったので、ならば妻として共に暮らそうと、夏至の夜妖精王に許可を得て、晴れて夫婦として暮らす事にした。


谷間は少しずつ開墾され、豊かではないが幸せな暮らしを始めた。

そこで三男は父親に正式に跡継ぎの権利を放棄する事を伝える為、妻を連れて会いに行った。

すると父親の口から思わぬ言葉が飛び出した。

次男は東でもっと大きな部族の娘と婚姻を結び帰って来ない。

長男は隣の部族の族長の娘を娶ったが、特に優れた娘ではなかった。

最も優れた嫁を連れて来たのは三男で、全ての権利は三男に渡すと。

三男は辞退すると申し出たが、父親は言い出したら聞かない性格だった。

これを聞いて腹を立てた長男は、三男を呼び出すと密かに斬り殺して遺体を捨てた。


出かけてから中々帰って来ない夫を探しに行った三男の妻は、森の奥で変わり果てた夫を見付けた。

嘆き悲しんだ三男の妻は、遺体を持ち帰り谷間の氷穴に入れて夏至の夜を待った。

夏至の夜、三男の妻は妖精王に頼み込んだ。

自分はどうなってもいいから夫を生き返らせてくれと。

妖精王は三男の人柄や心の美しさを気に入っていたので、妹の願いを叶える事にした。

お前の持つ妖精としての力を三男に使おう。

その代わりお前は人として限りある生を生きる事になり、生き返らせた三男も寿命が来ればやがて死ぬ。

それでもお前は構わないか?

妖精王はそう言うと、三男の妻は迷いなく答えた。

それこそ私の望む全てです。夫と共にいられれば、他に望む事はない。

妖精王は頷くと、妹の体から力を抜き出し、氷穴へ向けて投げ込んだ。

眩い光に包まれた氷穴は金色に輝き、その光を受けた三男の髪は薄い桃色に染まった。

氷穴の側でその様子を見ていた三男の妻は、光を直視した為瞳に変化が起きた。

息を吹き返した三男は、今迄以上に妻を慈しみ、小さな国を建国した。

国の名前は三男の名前を取ってバルコスと名付けられた。


ドミニクは建国神話を語り終わると、エドゥアルドとイザベラに微笑んだ。

「駆け足で語りましたが、何か質問はありますか?」

「ええ、あります。長男と次男はどうなったのですか?」

「長男は父親の跡を継いで国を作った。次男もまた東に国を作った。長男の名はミドラスと言い、次男の名はオセアノと言う。これは最近古い文献を解読して分かった建国神話の続きです」

イザベラは成る程と呟いた。


「‥‥今の話からすると、バルコスの王族には妖精の血が流れているという事になる。それがドミニク殿の言うルーツなのか?」

「正確には妖精であった者の血という事になります。一応人に変わったのですから。とはいえ人ならざる者が人の形を保つには、それなりの力が必要です。妖精王は人として存在出来るだけの力を残して、妹から力を抜き出したのです」

「という事はバルコスの王族は、妖精の力が使えるという事なのかドミニク殿?」

「いえ、使えるのはたまに現れる祝福の瞳を持つ者だけです。その力は酷く不安定で、受け継いだ者に悪影響を与える事もありました。その為妖精王はバルコスに沢山の妖精を住まわせ、守らせる事にしたのです。バルコスの妖精信仰はそこから生まれました」

「祝福の瞳を持つ者‥‥リ‥レイリアは力を受け継いでいるのか‥‥」

「レイリアは瞳だけではありません、髪色まで受け継いでいます。三男が氷穴で受けた光は凄まじい力で、生命を再生させる効果がありました。ですがその力は他にも影響を与えたのです」

「「他にも?」」

「氷穴を金鉱脈に変えたのです。三男は妻の力の証である金鉱脈を固く閉じて、人の目に触れない様にしました。いずれ自分の命が尽きる頃、妻に力を返すつもりだったのでしょう。ところが妻は先に亡くなり、後を追うように三男も亡くなりました。そうして忘れ去られた金鉱脈は、氷から流れ出る水と一緒に、バルコスの小川へ注ぎ砂金となったのです。長年小川の水を飲んで暮して来たバルコスの民は、時々妖精を見る能力を持つ者が現れました。この事は王位を継承する者だけに伝えられて来た話です」

「それと髪色はどんな関係が?」

エドゥアルドが問うとイザベラもうんうんと頷く。


「溶け込んだ水を飲んで影響を受ける程の力です。直接光を浴びて髪色まで変化させた人間に、何の影響もない筈がありません。三男は髪に生命を再生させる力を持ち、荒地を蘇らせました。その為バルコスは緑豊かな谷となったのです。つまり、ピンク色の髪には生命を蘇らせる力があるのです。バルコスでは今迄三男と同じ髪色の者は誰一人生まれませんでした。その為あの力は三男だけの物だと思われてきました。ところが三男が亡くなって以来初めて、髪色を受け継ぐ者が生まれました。それがレイリアです」

「‥‥では、レイリアはその力を使って私を蘇らせたと?」

「そうです。そしてその力には限りがありま

す。生命を再生させる力を持つ三男が、なぜ妻を蘇らせなかったのか分かりますか?」

「ええと‥もしかして一度しか使えないのではなくて?」

「正解だよイザベラ嬢。三男‥バルコスは荒地に口付けて大地を蘇らせました。レイリアがエドゥアルド殿にやったのと同じ、横に一本、縦に一本線を引く様に口付けたのです。この話はバルコスでは絵本にもなっていて、レイリアはよく真似をして気に入った人に妖精の加護を与えていました。ですがそれは最後顎に口付けるといった物で、エドゥアルド殿の様に唇にはしませんでした。唇にするという事は、直接力を流し込み、力を与えるという事です。それだけエドゥアルド殿を特別な相手だと思ったのでしょう。一度しか使えない力を与えたのですから」

「リ‥レイリア‥‥」

「ただ、一つ問題が起こりました。レイリアは記

憶を無くしたのです。貴方方が既にご存知の通り、不幸な事故が直接の原因です。ですが他にも原因がありました」

「「原因とは?」」

「エドゥアルド殿、貴方に力を与えた事です」

ドミニクはそう言うと、一度深呼吸をして目を閉じた。

読んで頂いてありがとうございます。

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