腑に落ちない
ルイスの部屋へ行ったドミニクは、ルイスからオセアノに着いてからレイリアの身に起こった事全てを聞いていた。
着いて早々のミゲルによる暴挙や、2人の計画(あえて悪だくみとは言わなかった)の話、ジョアンの謝罪‥からのレイリアの回し蹴り、そして市場でのミゲルを捕まえるまでを聞き終わると、ドミニクは深い溜息を吐いた。
「やはり僕は間違っていた様だ。レイリアに武術など教えるんじゃなかった‥。よりによって回し蹴りをジョアン殿下にしたなんて‥‥」
「ごめん、ごめんよドミニク兄さん!僕が側に付いていながら、レイリアを止める事が出来なかった。本当にごめんよ!」
「ルイスが悪い訳じゃない。元はと言えばジョアン殿下が条件など出すからややこしい事になったんだ!だがミゲルという男の解釈も常識の範囲を超えている。そして何より、いくら腹に据え兼ねたとはいえ、回し蹴りを食らわすなど言語道断だ。全く、なんて事をしたんだレイリアは!」
「ええと、一応僕とアマリアでレイリアにはお説教をしました。それで今レディの勉強を頑張っているんですが」
「それはそれで別の話だよ。それに、お前達が要求したバルコスを守る為の兵は全て断った。父上も僕も必要ない事を知っているからね。レイリアにミドラスが手出し出来ない限り、バルコスへ攻め込む事は出来ないのだから」
「どういう意味です?」
「レイリア自身が知らないレイリアの価値を、ミドラスは知っているんだ。もちろんオセアノ側も知っている。なのにジョアン殿下は難色を示して不可解な条件を出して来た。これが僕はどうも腑に落ちない。ルイス、お前には何か心当たりはないのか?今日出かけていたのはジョアン殿下絡みの用事だったのではないか?」
「な、なぜその事を?」
「ちょっとした推理だよ。お前はオセアノ貴族で王の臣下だ。ならばレイリアや僕より王族の指示を優先させるのは当然の事だ。今日僕を見て狼狽えたのは、秘密裏に動く必要があったからなんじゃないか?」
「‥‥‥そこまで読まれるとはね。兄さんにはやっぱり敵わないや。確かに僕は臣下として殿下に力を貸しています。それはオセアノの内情に関係するからなんです。兄さんになら話しても問題ないか‥」
そう言ってルイスはマンソン一族に関係する事柄や、市場で起きた事の裏まで全てを話した。
「‥‥今の話から、はっきり言ってそのマンソン侯爵を失脚させるのは、ミゲルという男だけでは無理だと思うな。一族の一員ならまだしも、追い出されたんだろう?だから薬だって侯爵にはいくらでも言い逃れが出来る。もっと決定的な証拠でもあれば別だが」
「さすが兄さん!目の付け所が違う!で、兄さんどんな証拠があればいいと思いますか?」
「そうだな、侯爵のサインのある物なら言い逃れ出来ないと思うけど。例えば薬を製造する際、自分で製造する訳ではないと思うから、それ専門の人に対する依頼書だとか、受取証書だとか」
「ふんふん、成る程!書いてある物ですね。ジョアン殿下に相談してみます!」
ルイスは尊敬の眼差しでドミニクを見つめる。
だがドミニクは別の事を考えていた、
もしかしたらジョアン殿下は秘密裏にマンソン侯爵を失脚させるつもりなのかもしれないな。
公にするつもりなら、ルイスではなくエンリケ殿を使う筈。
やはりジョアン殿下の行動は腑に落ちない。
エルナン翼‥‥調べれば答が見付かるだろうか?
その後ルイスと別れたドミニクは、用意された部屋で深夜になるのをジッと待った。
そして暗闇に溶け込む様、全身黒づくめの服に着替えて、そっと部屋から抜け出した。
途中警備の兵に会ったが
「環境が変わって眠れないので、中庭へ散歩に行く」
と言うと、特に問題なく送り出してくれた。
実はドミニクの笑顔による効果であったのだが(エンリケ曰く"ポエマー養成大作戦")当の本人は全く気付かない。
逆にこの王宮は警備が甘いなと少し不安を募らせていた。
こうしてドミニクはあまり苦労もせず、エルナン翼の入り口に辿り着いたのだった。
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