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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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気まずい表情

イザベラに案内されて王宮を歩く内に、ドミニクの頭の中には王宮の図面が出来上がっていった。

オセアノ王宮はとにかく広く、イザベラも歴史や建築様式まで説明してくれるので、分かりやすいがとにかく時間がかかっている。

気付けばいつの間にか外は暗くなっていた。

イザベラは隠し通路や抜け道の存在まで教えてくれた。

これらは万が一に備えて、王宮の外へ脱出可能である事を物語っていた。


「イザベラ嬢、これだけ広いと警備が手薄になる部分も出て来るのではないかな?」

「それが、今回私はレイリアの話し相手として久しぶりに王宮へ参ったものですから、そういった事は分からないのです。近衛の隊長でしたら把握しているかと思いますが」

「ああ、そうだったのか。わざわざ妹の為にすまないね。しかし貴女は大分王宮に詳しいが、行儀見習いにでも来ていたのかい?」

「いえ、私は‥‥以前は亡きエドゥアルド殿下の許嫁でしたから、子供の頃に王宮の間取りは頭に入れてあるのです」

「それは‥辛い事を思い出させてしまったな。すまない。僕はどうもそういう気遣いに欠けている様だ」

「そんな、許嫁といっても子供の頃の事ですし、親が決めただけの話でしたから、エドゥアルド殿下は単に従兄で兄の様な存在でしかありませんでした。どうかお気になさらず!気遣いに欠けるなどとんでもない!ドミニク様は気遣いの出来る心優しい方です!」

「優しいのは貴女だイザベラ嬢。大抵の女性は僕を嫌ってすぐ逃げてしまうのに、こうして貴女は根気よく付き合ってくれている。助かるよ。ありがとう」

そう言って優しく微笑むドミニクに、イザベラの胸はトキめいた。


嘘でしょう!?

ドミニク様って天然なの?

通る度に向けられる、女性達の熱い視線に気付かないなんて!

それにしてもこのトキメキは‥‥胸キュン!?

はっ!私とした事が、なぜかポエムを作りそうになってしまったわ!


「どうしたんだいイザベラ嬢?」

「い、いえなんでもありませんわ。それよりドミニク様はどちらの宮へ滞在なさるのですか?」

「ルイスと同じアフォンソ翼だよ。確か執務室や議事室に隣接していると聞いているが、ここから遠いかな?」

「ああ!それでしたらすぐ行ける近道をお教えしますわ。こちらです」

イザベラが鏡張りの回廊の一枚を押すと、扉が回転して細い通路に繋がり、中庭のある渡り廊下の脇に出た。

ドミニクが感心していると、渡り廊下の向こう側から良く知る人物が姿を現わす。


あれは‥ルイス!

出かけていたのではなかったのか?

ルイスはドミニクに気付かず、真っ直ぐこちらへ歩いて来る。

ドミニクは立ち止まり、正面からルイスをジッと見つめた。

5メートル程手前まで歩いて来ると、ドミニクに気付いたルイスは驚いて一瞬狼狽えた。

ドミニクはニッコリと笑顔を浮かべ、落ち着いた声でルイスに話しかける。

「やあルイス!久しぶりだね」

「ド、ドミニク兄さん!えっ!?なんで?いつここへ?」

「思ったより早く着いたんだよ。ルイスはどこかへ出かけていた様だね。今はイザベラ嬢に王宮を案内して貰っている所なんだ」

「え?イザベラ嬢に?え?なんで?」

「たまたま私が一番都合が良くて、その場にいたからですわ。ルイス様、貴方どちらへお出かけでしたの?」

イザベラの問いかけに、ルイスは益々狼狽える。

「ゆ、友人と約束があって、ちょっと出ていたんだ。それより兄さん、長旅で疲れていませんか?」

「僕は体力には自信があるから大丈夫だ。ああそうだ!イザベラ嬢、随分と付き合わせてしまったね。そろそろ解放してあげないといけないな。ホアキン翼まで送ろう」

「そんな、私なら大丈夫ですわ。近道も知っていますし。ドミニク様はどうぞルイス様とお話しなさって下さい。では、私はこれで失礼します」

なんとなく席を外した方がいいという雰囲気を読み取ったイザベラは、そそくさとその場から離れて行く。

「イザベラ嬢!今日はありがとう!」

ドミニクの声にイザベラは軽くお辞儀をして去って行った。


2人きりになってルイスを見ると、ルイスは少し気まずい表情をしていた。

「どうしたんだいルイス?僕とは会いたくなかったのか?」

「そ、そんな事ないですよ!ドミニク兄さんに会えて、嬉しくない筈ないじゃないですか」

「ではタイミングが悪かったのかな?今は会いたくなかったという顔をしている」

「に、兄さん‥なんでそんな事を?」

「分かるんだよルイス。僕にはね」

ドミニクは知っていた。

ルイスはドミニクに嘘をつき通せないのだ。

おかげで今までドミニクは、レイリアとルイスの悪だくみの餌食になった事がない。

「僕は‥‥‥ああダメだ!兄さんには隠し通せない!ごめん兄さん!僕は友人と会っていた訳じゃないんだ。もう全部話すから、その笑顔をやめて下さい!」

「ルイス、僕は別に責めている訳じゃない。何かを隠していると思っただけだよ。僕に話してくれるなら、こんな嬉しい事はない」

「‥‥ずるいなぁドミニク兄さんは。本当にカッコいいんだから。だから兄さんには敵わないんだ。とりあえず、僕の部屋まで来て貰えますか?」

ドミニクは頷き、ルイスと一緒に歩き始めた。


「ところでルイス、あの建物はまだ新しい様だが、何ていう名前の宮なんだい?イザベラ嬢からあそこの説明を聞いていなかったんだ」

「あれは‥‥エルナン翼ですよ。あそこは決められた人以外立入禁止だから、それでイザベラ嬢も説明しなかったんだと思います」

「エルナンと言えば、国王陛下のお名前じゃないか。ということは、陛下が作った宮という事になる。なぜ立入禁止なんだい?」

「さあ?僕には分かりません。ただ殿下がその様に決めて、厳しく管理されていると聞きました」

「ジョアン殿下が?‥‥‥という事は、陛下もご存知であるという事だな‥‥」

「兄さん?」

「いや、そういえばもう夕食の時間だったなと思ってね」

「そういえば僕も忘れていました。僕は食べて来たので、ドミニク兄さんの分を用意して貰いましょう」

ドミニクは微笑みながら頷いた。

視界の端にはエルナン翼が映り込む。


立入禁止のエルナン翼か。

ジョアン殿下の指示だったな。

という事はそれだけ重要な"何か"があるという事か。

どうも気になる。

レイリアの為にも不審な点は調べておくべきだろう。

深夜に忍んで来てみるか。

読んで頂いてありがとうございます。

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