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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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心強い味方

「これは美味い!この店の子豚の丸焼きはルイス殿の言う通り絶品だ!」

運ばれて来た料理に舌鼓を打ち、ルイスの勧めたワインでほんのり赤くなったシモンは、喜びの声を上げていた。

「この店のは竃でじっくりと焼いているからね。子豚も生後2週間の物だけを使っているそうだ。どうやら気に入って貰えた様だね」

「もちろんです!それにこの気取りのない雰囲気は、やっぱりいいですね。義兄が追い出されてから私は屋敷に住む様言われて、正直窮屈で仕方がなかったのです」

「今まではどこに住んでいたんだい?財務部秘書官の試験に合格したと聞いたけど?」

「近衛の寮に住んでおりました。ずっと近衛に所属していたかったのですが、義兄が残念な為父から命令されたのです。財務部に入れば一族の為に尽くせるからと。あの残念な義兄のせいで、私の人生は振り回されっぱなしですよ。大体一族の為にって、今まで一族が私に何をしてくれたと言うんですか?二言目には庶子だ庶民だと蔑んで、都合が悪くなると私に押し付ける。あんな一族など滅びればいいのです!」

ほろ酔い加減のシモンは、溜まっていた不満を次々に吐き出し始めた。


口が滑らかになってきた様だね。

もう少し愚痴を聞いて信用を得た方がいいかな。

あまり酒には強くなさそうだから、これ以上勧めるのはやめよう。

肝心な話が出来なくなるし。


「相当辛い思いをしてきた様だね。シモン殿ほど優秀な人材は、今マンソン一族にはいないというのに。僕はシモン殿の言う通り、滅びろとまでは言わないが、一族の結束を崩壊させてしまった方がいいと思うよ」

「崩壊ですか?無理な話です。一族の頂点には侯爵がいて、侯爵には誰も逆らえないのですから。ルイス殿もマンソンの呪いの話は聞き及んでいるのではないですか?侯爵に逆らえば、例え一族の者でも容赦なく殺されますよ。どんな方法を使うかは知りませんが」


その言葉を待ってたよ!

マンソンの呪い!

言ってくれたらこっちのペースだ。


「君が言う通り、確かに僕はマンソンの呪いの噂を知っている。その噂が広まったのは第一王子が亡くなった後だったかな。マンソンにとって邪魔な存在は、例え王族であろうと容赦なく消されるってね。この噂は貴族達に恐怖心を植え付けるには十分役に立った様だ。一族ですら恐れているんだから」

「ええ。ですから崩壊など無理な話なのです。侯爵が頂点にいる限り、いつ寝首をかかれるか分かりませんから」

「君はもうどうすればいいか答えを言っているじゃないか」

「は?答えですか?一体何を言っているんです?」

「今君は"侯爵が頂点にいる限り"と言ったじゃないか。つまり侯爵さえ頂点にいなければ事は簡単に運ぶって事さ」

「いやいや、それこそ無理な話ですよ。あの侯爵を頂点から叩き落とすなんて事は、天地がひっくり返りでもしない限り無理です。まともな人間はそんな事をしようとも思いませんよ」

「では、まともじゃない人間が介入した事により、チャンスが巡って来たとしたらどうする?」

「は?まともじゃない人間なんて滅多にいませんよ」

「それがいるんだな〜。君の最も身近な人物にも一人いるじゃないか」

「‥私の最も身近にいてまともじゃない人物なんて、バカ義兄しかいませんが?‥‥まさか!貴方は義兄について何か知っているのですか?実は今日義兄を探していたのは、侯爵から義兄を連れて来いという命令を受けたからなんです。あの義兄は何か侯爵にとって不利なネタでも掴んだのですか?」

「さすがに君は察しがいいね。ミゲルの身柄は殿下によって隠されている。だから君がどんなに探しても見付ける事は出来ないよ。僕は殿下の足となって動いている所でね。君にこの話をしたのは君が信用に足る人物であると見込んだからなんだ。君には迷惑だったかもしれないけど」

シモンはかなり驚いた顔をしたが、決心した様に口を開いた。


「成る程。最初から貴方は計画的に私に近付いて来たという訳ですね。さっきも話した通り、私はマンソンなど滅んでしまえばいいと思っています。ですから私は、私を信用して下さった事に感謝していますし、癪ですが義兄の掴んだネタには協力を惜しまないつもりです」

「その言葉を待っていたんだ。侯爵に命令された以上、君は家に帰らず王宮に滞在した方がいい。これから一緒に王宮へ行き、殿下の指示に従おう」

「分かりました。私は今からマンソンを捨てます」


ルイスはシモンを連れて馬車に乗り、王宮へ向かった。

馬車の中でシモンは話し始める。

「私の義兄は誰もが認めるバカなんです。だから昔から人とは違う斜め上の発想で行動してきました。その行動は大抵とんでもない失敗をしでかして、周囲に迷惑をかけて来たのですが、今回ばかりは初めて義兄がバカで良かったと思いました」

「シモン殿、君はミゲルが嫌いなのでは?」

「いいえ。残念でバカですが、なぜか憎めないバカなんです。まあ、義兄は正真正銘の小物ですからね。一つ気がかりがあるのですが、ルイス殿、義兄は小物でバカですから、侯爵のネタを掴んだ際に多分何か失敗をしてきたと思うのです。その証拠に侯爵は義兄を連れて来いと私に命令したのですから。つまり、義兄がネタを掴んだ事は侯爵にバレているという事ですが、このまま侯爵から義兄と義兄の掴んだネタは隠しきれますかね?」

「それについても、王宮で殿下と相談しよう。何にせよ、シモン殿が味方に付いてくれたんだ。こんなに心強い味方はいないさ!」

ルイスの言葉に、シモンは少し照れた様だった。

シモンは笑うと少し幼く見える。

きっと不出来な義兄のせいで、精一杯大人になろうと努力して来たのだろう。


ルイスはあんな残念な義兄を持ちながら、嫌いでないと言うシモンに、つくづく良く出来た義弟だなぁと感心していた。

読んで頂いてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミゲルを義兄と表現してるが、異母兄は実兄なので兄と書くべきです。同様に義弟も普通に弟です。この作品に限らずなろうには異母兄弟を義兄、義妹と書く表現が多いが、異母兄弟、異父兄弟は実の肉親…
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