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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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予期せぬ事態


ジョアンが執務室へ戻って暫くすると、予想外の人物が訪ねて来た。

それも面会を断るより早く、図々しくも執務室へ乗り込んで来たのだ。

来られてしまっては追い出す訳にもいかず、仕方なく執務室へ入れたのだが、ジョアンにとって最も会いたくない人物である事に変わりはない。


「で、何の用だ?マンソン侯爵。たいした用事でなければ日を改めてくれ。ご覧の通り私は忙しいのだ」

ジョアンはわざと書類を捲る手を早め、忙しさをアピールした。

「殿下、目の前の仕事よりご自身の足元をよく見るべきですよ。私は後見人として力を貸しに参ったのです」

フン!

図々しい狸ジジイめ!

「何が言いたい?それに、侯爵は母上の後見人であって、私の後見人ではない筈だが?」

侯爵はクックックと笑って、いかにもバカらしいといった顔をした。


「殿下、何を仰るのかと思えば!分かっていらっしゃらない様ですから改めて言いますが、殿下の生まれた時から私は後見人として、お守りしておりますよ。それを今更後見人ではないと仰るとは考え違いもいい所。現に私の手元には亡き王妃様と交わした誓約書がありますからな」

「‥‥私を脅しに来たのか?」

「殿下を脅すなど、滅相も無い!最初に言った通り、私は力を貸しに来ました。殿下をお守りするのが私の仕事でもあるのですから」

「何を言っているのか良く分からんな。私がなぜ力を借りねばならんのだ?」

「私は足元と言ったのですよ。殿下は今、バルコスの姫君に大分翻弄されておられる。まず姫君に出した条件により、ご自身が批判を受けている事はご存知でしょう。それから姫君が素顔を見せて以来、手の平を返した様に夢中になられたと噂が立っている事はご存知ですか?」

「噂はあくまでも噂だ。姫君には悪い事をしたから、つぐないをしているだけだ」

「ですから力をお貸しするというのです。殿下は今お立場が揺らぎ始めております。私が正式に後盾となって、後はご執心の姫君を妻に迎えれば、誰も文句は言えますまい。殿下には国王の座とバルコスの金を手に入れて頂きたいのですよ」

「‥‥決めるのは陛下とドミニク殿下だ。私に選択権はない。侯爵、悪いが今日は帰って貰えるか?これ以上この話をする気は無いのだ」

侯爵は片眉を上げて驚いた顔をした。

「ドミニク殿下ですか?あの非の打ち所がないと評判の。相当な切れ者だという噂ですな。成る程、一筋縄ではいかなそうだ。成る程成る程」

侯爵は一人納得して、戸口に向かった。

「まあ殿下、私に任せれば間違いありませんよ。後盾の話、前向きに検討しておいて下さい。今日の所は帰りますが」

そう言うと、侯爵は執務室から出て行った。

ダン!!と、音が響き渡るほどの強い力でジョアンは机を拳で殴った。


マンソンめ!

私に恩を売って操ろうという魂胆だな!

大方バルコスの金に目が眩んだのだろう。

バルコスから誰が来たのかを探りに来たな。

無理矢理にでも姫君との縁談を推し進め、バルコスにも介入する気だという意図が見え見えだ。

だがこちらにもミゲルという切り札がある。

せいぜい今の内に好きな事を言うが良い!

私とマンソンは共倒れするのが一番いいのだ。

ジョアンはミゲルのいる農園の守りを固める為、新たに書類を作成し始めた。


執務室を後にした侯爵は、急いで屋敷に戻ると書斎に入って考え事をしていた。

ドミニク殿下が出て来るとなると、私の意見が通らなくなる可能性がある。

それに金を手に入れるのに、一番邪魔になるのはドミニク殿下だ。

ならばいっそ‥オセアノにいる間に、薬を使えば良いのではないか?

バルコスに戻ってから亡くなったとて、誰もそんな事には気付きはしないだろう。

姫君も王妃になった後、同じ様に亡くなって頂こう。

やはり王妃の座はマンソンの人間でなくてはならんからな。

その頃までには殿下を手懐けて、私の操り人形となって貰おう。


侯爵は机の仕掛けを動かすと、絵の裏に隠した箱を取り出した。

その時箱を見た侯爵は、ある事に気付いて取り乱した。

「無い!!糸が無い!!」

侯爵は念の為箱の間に細い糸を挟んでおいたのだ。

蓋を開ければ糸は落ち、開けたかどうかが一目で分かる。

慌てて薬の数を数えてみた。

全部で25個あった筈だ。

1つ、2つ‥‥‥‥‥23個!2つ足りない!

もう一度数えてみても、結果は同じだった。


侯爵は怒りでブルブルと震え、再び箱を隠すと執事を呼んだ。

「最近誰か書斎に入らなかったか?」

「いいえ。いつも通り旦那様の許可した者達以外は清掃をしておりませんし、近寄る事も許しておりません」

「他に誰か訪ねて来たりはしなかったか?」

「訪ねて来はしましたが、ご指示通り追い返しました」

「追い返したとは誰をだ?」

「マンソン一族から追放された、ミゲルさんです。牢に入れてやると脅したら諦めて帰りましたが」

「ミゲル‥だと?何で今更やって来たんだ?」

「さあ?騒ぐだけ騒ぐとやけに素直に帰って行きましたが。あの方は浅はかですからね。どうせ大した目的も無く来たのでしょう」

侯爵は考えた。

大した目的も無く、わざわざ来る程ミゲルは行動力のある男ではない。

やけに素直にというのも、往生際の悪いミゲルにしてはおかしい。

ひょっとして‥‥まさか‥!

「至急シモンにミゲルを連れて来る様に連絡しろ!」

「は、はい!分かりました」

執事は侯爵の只ならぬ様子に、慌てて書斎を後にした。

侯爵は怒りで真っ赤になりながら

「もしミゲルが犯人だったら、どう殺してやろうか‥‥」

と呟いていた。

いつもありがとうございます。

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