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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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眩さは時に我を忘れる

ブクマ&評価ありがとうございます!

一晩明けて次の日の昼過ぎ、王宮内はザワついていた。

女官も侍女も口々に、ある人物について噂をしている。

「貴女もう見た?あの美しいプラチナブロンド!」

「あら、それしか目に入らなかったの?私はキリッとした目元に、優しそうな水色の瞳もしっかり目に焼き付けて来たわよ!」

「ああ!本当にステキだったわ!まるで物語に出て来る王子様みたいだった!殿下もステキだと思っていたけど、あの方はそれ以上だわ!」

「本当よ!もう私なんかあの方に夢中よ!」

王宮中の女性達が夢中になって噂をしている渦中の人物は、誰あろうドミニクの事だった。

馬を飛ばして先を急いだドミニクは、つい先程オセアノ王宮へ到着したのだ。

侍従に案内されて謁見の間へ向かう際、ドミニクを見た女官達から噂は王宮中に広まった。


そんな噂など露ほども知らないドミニクは、謁見の間で膝をつきながら、貼り付けた様な笑顔を見せている。

「ドミニク殿、遠い所をわざわざお越し頂き感謝する。まずは旅の疲れを癒されよ」

ジョアンは国王代理として王座に座りながら、酷く居心地の悪い思いをしていた。

それというのも、笑顔を浮かべたドミニクから、痛いほどの殺気が伝わってくるからだ。

しかしそれはドミニクがわざわざやって来た理由を考えれば、当たり前の事だろう。

ドミニクから溢れ出す殺気、そして笑顔を浮かべるドミニクは、一見そうとは見えないが、これ以上ない程怒っているのだ。


「ジョアン殿下もご機嫌麗しく、お健やかなご様子ですね。先だっては妹を丁重にもてなしてくれたそうで、感謝致しております」

ドミニクは更にニッコリと貼り付けた笑顔を浮かべる。

その笑顔がジョアンには、睨まれるよりキツかった。

「丁重にもてなして‥」という言葉は、遠回しに非難するドミニクの意思の現れだ。

「ああ、それともう一つジョアン殿下には感謝しないといけない事がありますね。妹を守る為に十項目とやらを作って、隔離しようとしてくれたんですから」

たじろぐジョアンを見て、エンリケはすかさず話題を変えた。

「お初にお目にかかります。ジョアン殿下の側近のエンリケ・ヴェローゾと申します。この度は遠い所をご足労頂き、ありがとうございます。ドミニク殿下におかれましては、お噂通り眩い方で気後れしている次第です」

「よろしくエンリケ殿。堅苦しい挨拶は必要ないよ。君には妹が大分世話になっているそうだね?ルイスが色々知らせてくれて、お礼を言いたいと思っていたんだ」

ドミニクはジョアンに向けたのとは違う、心からの笑顔をエンリケに向けた。


ま、眩しい!!

なんという眩しい笑顔なんだ!?

それにこのトキメキは‥‥恋?

はっ!私とした事がネーミングならともかく、思わずポエムを作ってしまうとは!

それにしても何と眩い方なんだ!!

王宮中の女性達が騒がしい訳がよく分かった。

私も危うく新しい扉を開きそうになる所だったぞ。

誓って言うが、私にはそっちの趣味は無い。

つまりそれほどに惹きつけられる方だという事だ。


「感謝など勿体ない!私は当たり前の事をしたまでです。姫君は最近レディ教育に励んでおられますよ。特にダンスの腕前は上達され、先日達人と言われる殿下と踊っても差異は無かったと伺っております」

エンリケは言ってからしまった!と思った。

ドミニクの笑顔はまた貼り付けた物に変わり、殺気が漂い始めたからだ。

「ほう?ジョアン殿下がわざわざダンスの練習に付き合ったと?十項目第四、会話や接触をしない事と決めた方がですか?ジョアン殿下は大分気まぐれな方の様だ」

さすがにジョアンも黙ってはいられなくなった。

「ドミニク殿、今更と思うかもしれないが、私は貴方に謝罪をしたい。姫君に対して私は余りに傲慢であった。既に十項目は撤回し、今は姫君が心安らかに過ごせる様努力している所なのだ。貴方は納得いかないと思うが、つぐないをさせて欲しい」

ドミニクは笑顔を引っ込め真剣な表情で言った。

「ジョアン殿下、貴方と妹の事は国王陛下と話し合った上で決めます。今貴方が何をしようと、やった事は消せません。妹の価値を知らない訳ではないというのに、貴方の本心はどこにあるのでしょう?まあ、今尋ねたところで言う筈がないとは思いますが」

ジョアンはまたたじろいだ。

切れ者とは聞いていたが、私が焦ってやった事や、その裏にある本来の目的の存在までも見透かされている。

黙り込むジョアンにドミニクは続けた。

「僕は貴方と妹の話をする気はありませんから、この話はこれで終わりにしましょう。はっきり言いますが妹と貴方の事について、貴方はもう何の口出しも出来ないのです。陛下と僕の取り決めを、貴方は受け入れるしかないのですから。詳しい事を知りたければ、陛下が戻られた時に聞いてみて下さい。それでは挨拶も済みましたし、僕はこれで失礼させて頂きます!」

ドミニクはジョアンに冷たく言い放つと

「エンリケ殿、取り急ぎ話したい事がある。場所を移そう!」

と言ってエンリケを連れて出て行った。


残されたジョアンは静かに王座から立ち上がり、しみじみと王座を眺めていた。

この椅子から逃れる為に支払った代償は大きい。

ドミニク殿の反応は当然の事なのだ。

それに、ドミニク殿の話ぶりからすると、私には取り決めに介入する余地は無いという事だ。

陛下はさぞや呆れておいでだろう。

だが、それでいい。

間も無く我が親愛なる兄上が、健康を取り戻せる筈だ。

兄上の為ならば、私はいくらでも憎まれ役を買って出よう。

そして兄上の隣にこそレイリアは相応しいのだから。

レイリアの「資格がある」という言葉を思い出すと、なぜかジョアンは胸が痛んだ。

でもその胸の痛みを打ち消して、ジョアンは1人執務室へと戻って行った。


ドミニクからの話を聞く為に、エンリケはホアキン翼に場所を変えた。

レイリアの午後の予定はホアキン翼でイザベラと過ごす事になっており、話が終わり次第ドミニクとレイリアを会わせようというエンリケの配慮があっての事だった。

小さな中庭の緑がよく見える応接室に、ドミニクは感嘆の声を漏らした。

「ここは素晴らしいなエンリケ殿。明るいし、緑が鮮やかだ」

うっとりとガラス越しに緑を眺めるドミニクを、エンリケもうっとりと眺めていた。


なんという眩しい横顔なんだ!?

それにこのトキメキは‥‥恋?

はっ!私とした事が、またもやポエムを作りそうになってしまった。

いや、もういっその事ネーミングをやめてポエマーに転向すべきなのか?

つまりそれほどに魅力を感じる方なのだ。


ドミニクがソファへ腰を下ろすと、ここへ来る途中エンリケが頼んだお茶が運ばれて来た。

運んで来た女官は頬を染めながら、ドミニクに淹れたお茶を渡す。

「わざわざすまないね。ありがとう」

ドミニクが微笑むと女官は失神しそうになり、エンリケの分を淹れ忘れて下がってしまった。

仕方なく自分でお茶を淹れるエンリケに、ドミニクは話を切り出した。


「エンリケ殿、実はここへ来る途中の宿で、怪しい2人組を見かけたんだ。その事を話しておこうと思ってね」

エンリケは予想外の話に目を丸くしている。

「怪しい2人組ですか?それはどの様な?」

「宿の食堂で従者と一緒に食事をしている時だった。周囲を警戒しながら、一番目立たない場所で食事をしている2人組が目に入ってね。なんというか、殺気を感じたんだ。そこで注意して見ていると、聞き覚えのある方言が男達の方から聞こえて、妙に胸騒ぎを覚えたよ」

「方言ですか?」

「そう。最初はどこで聞いたか思い出せなかった。だから宿の店員に頼んで、宿帳から2人組の出身地を調べて貰ったんだ。それがこれだ」

ドミニクはレナータという娘が書いた紙をエンリケに見せた。

「ご存知の通り、アルジェス地方では方言を使わない。だからこの2人組は出身地を偽っていた事になる。それに、ここへ来るまでの間に思い出したんだ。どこでその方言を聞いたのかを。いや、方言というよりは、若干の発音違いと言った方がいいだろう」

「発音違い?まるで他国の言語の様な言い方では‥‥まさか!」

「エンリケ殿の言うまさかは、多分僕がこれから言おうとしている事だと思う。僕がその方言というか言語を聞いたのは、国境付近の砦に集結した、ミドラスの兵達を偵察に行った時なんだ」


エンリケは信じがたい話にサッと血の気が引いて行くのを感じた。

ドミニクの予想通りなら、オセアノには既にミドラスから侵入者が入っているという事になる。

姫君を狙って来たというのか!?

だとしたら、早急に手を打たねば!

エンリケは拳を握り締め、頭をフル回転し始めた。

読んで頂いてありがとうございます。

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