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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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我慢しないと?

頭と背中を摩られ、胸元から聞こえてくる鼓動を聞いているうちに、レイリアの気持ちは落ち着いてきた。

ふと気付けば、エディの胸元はビショビショに濡れている。

‥‥あれ?これって、涙だけじゃない気がするわ!

うう‥どうしよう!

こっそりエディの顔を盗み見ようとするが、少し目線を上げただけでは、エディの顎しか見られなかった。

レイリアが思うよりずっとエディは背が高かったのだ。

多分ジョアンよりいくらか高い。


気付かれないうちに証拠隠滅よ!

レイリアはそっとポケットからハンカチを取り出し、エディの胸元を拭いてから鼻をかんだ。

レイリアがそんな事をしていると、抱きしめているエディの体が小刻みに震え出し、頭の上からクスクスと笑い声が漏れてくる。

「リア、そんな気を使わなくても私は気にしないよ」

「だって!正直に言うけど、多分涙だけじゃないから‥‥。汚くてごめんなさい!」

「リアの何が汚いって言うんだい?私にとっては全てが愛おしいよ」

「愛おしいって!!‥‥エディ、貴方変だわ?急に現れてそんな口説き文句みたいな事言って。それに‥‥そうだわ!説明してちょうだい!どうしてイザベラと一緒に現れたの?そう、その前に、もう落ち着いたから離して!」

「離さないよ。私は少しも変じゃない。やっと私にも希望が見えてきたんだ。もう我慢する気はないからね」

「何を言っているの?」

「リア、聞いて。さっきジョアンから聞いたんだ。君に使われそうになった薬は、マンソンの薬だったんだよ。つまり、私に使われたのと同じ薬だ」

「えっ!?」

信じられない事をエディは言った。

「ミゲルとかいう元マンソンの男は、睡眠薬だと思い込み、侯爵の書斎から薬を盗み出したそうだ。詳しくは明日君の従兄から聞くといい」

「‥‥まさか‥!マンソンの薬って事は‥‥エディ!」

「そう。この体を治す機会が巡って来たという事だ。君の顔も見たかったし、自分の口から君に伝えたかった。だから無理を承知でイザベラに頼み込んだんだよ。イザベラはポンバル家の一員として、最初から私の存在を知る者なんだ。君を守る為に私が彼女を呼び寄せた。後はイザベラから聞いてくれ。彼女も友達には自分の口で話したいだろう」


「‥‥私を守るって‥?なぜ?」

「私の好きな物は金緑石だからだよ、リア」

「貴方の言う事は、時々難しくて分からないわ。地質学者は鉱物を好むって事?」

エディはハァーと溜息を吐き、レイリアの額に自分の額をくっつけた。

「君にはもっとハッキリ言わないと伝わらないか。リア、私は絶対にこの体を治す。そうしたら君に話したい事があるんだ。聞いてくれるかい?」

「わ、分かったわ。それってこの距離で言わないといけない事?」

ち、近い!近過ぎるわ!

「君の命が危険に晒されたんだ。こうして君の体温を感じさせてくれ。それに私は焦っている。ライバルに差をつけないと攫われる可能性があるからね」

「ライバル?何の話?」

「私の知らない強敵もいるって事さ。だからこれ位は印象付けさせて」

そう言うとエディは額を離して、レイリアの頰にチュッと音を立てて口付けた。

「なっ!?エディ!!」

レイリアは真っ赤になって口付けられた頰を押さえる。

エディは満足そうに微笑むと、レイリアをギュッと抱きしめ直した。

「ちょ、ちょっとエディ!今日の貴方はやっぱり変よ!」

「ちっとも変じゃないさ。元々私は独占欲が強いんだ。それに今日つくづく思ったよ。もし君が薬を飲んで死んでいたら、私は一生悔やみ続けただろうって。だからもう我慢しない。本当に君が無事で良かった!」

そう言われるとレイリアは何も言えず、エディの腕の中に大人しく収まっていた。


どれくらいそうしていただろう?

時間にしたらほんの数分の出来事だったのかもしれない。

でもレイリアには時間が止まっているかの様に感じられた。

コンコン!とノックの音が聞こえる。

エディがパッとレイリアを離し、まるで何事もなかったかの様に自然に言った。

「残念!時間切れだ」

エディは来た時と同様に、フードを深く被り顔を隠す。


扉が開いて、どことなく疲れた顔のイザベラと、イキイキした顔のアマリアが入って来た。

「お話は済んだかしら?そろそろ戻らないといけないのよ」

イザベラが言うとエディは無言で頷いた。

「レイリア、明日少し時間を貰える?きちんとお話をさせて欲しいの」

「ええ。都合のいい時間を連絡するわね」

「良かった!貴女とはお友達でいたいから、正直に向き合いたいの。それじゃあ明日待ってるわ」

イザベラはエディに目配せをして出て行った。

エディはイザベラの後を追う前に、レイリアの手をギュッと握って名残惜しそうに出て行った。


「おや?姫様何だか顔が赤いですね?それに少し目が赤い気が。あの男に何かされましたか?」

「え?ううん、何もないわ。お話を聞いて貰っただけ。ほら、元気でしょ?」

アマリアはジーッとレイリアを見てから言った。

「まあ、確かに元気になったみたいですけど」

「ア、アマリアはどんな話をしていたの?」

「そりゃあ胸キュンについてですよ。イザベラ様も恋愛初心者ですからね。胸キュンを知らないと始まりません!」

「その、胸キュンと胸がズキンとしたりドキドキしたりするのは違うの?」

「おや?姫様にしてはいい質問ですね。ざっくり言うと、胸キュンは恋に落ちる前のトキメキですかね。きっかけというか。ズキンとかドキドキは、恋に落ちてから経験する痛みとか、喜びですよ。まあ、私の持論ですが」

「‥恋に落ちる?」

「ええ。もしズキンとかドキドキを特定の相手に感じたら、それは恋に落ちたと言って間違いないでしょう」

アマリアの言葉にレイリアは動揺した。

待って、それじゃあまるで私は‥‥

「姫様?どうしましたか?」

アマリアの声にハッとして我に帰る。

「ううん、どうもしないわ。入浴の準備をしてくれる?」

「そうですね。今日は色々ありましたから、ゆっくり入浴して疲れを癒して下さい。では、すぐ準備して来ます」

アマリアは準備の為浴室へ向かった。


レイリアはさっきから気にかかっている事を考えてみる。

アマリアの言う通りであるならば、まるで、まるで私は‥‥!

恋に落ちたって事みたいじゃない!

‥‥いいえ、気のせいかもしれないわ。

次に会った時同じだったら、認めたくないけど、認めざるを得ないわね。

とにかく次に確かめてみなくちゃ!

結局なるようにしかならないと開き直ったレイリアは、この日はもう考えるのをやめた。

読んで頂いてありがとうございます。

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