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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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人による悪意

ジョアンとルイスが出て暫く後、レイリアとイザベラは王宮へ戻って来た。

エンリケは2人をホアキン翼の応接室へ連れて行き、市場で起こった事件の詳細を説明する。

「先程分かった事ですが、ミゲルが姫君に使おうとした薬は毒である事が判明しました」

「「「毒!?」」」

「ええ。それも使用量を誤ると即死に繋がるという、非常に危険な代物です。ブラガンサ殿のお手柄で事なきを得ましたが、もしブラガンサ殿がいなかったらと思うとゾッとしますよ。本当にブラガンサ殿がいてくれて助かりました」

さすがにレイリアもこれには驚いた。

イザベラは責任を感じて自分のせいだと言って聞かないが、市場へ行きたいと言ったのはレイリアだからと、何とかなだめて落ち着かせた。


「姫様、暫く外出は控えて下さい。もしまた同じ事が起きでもしたら、私は大公様に顔向け出来ません」

「‥‥分かったわ。アマリアの言う通りにする」

珍しく素直なレイリアをアマリアは不思議に思った。

「やけに聞き分けがいいですね?いくら姫様と言えども、毒と聞けばさすがにショックでしたか?」

「そうかもしれないわね。‥‥エンリケ殿、もう戻って休んでもいいかしら?」

「これは失礼を!姫君のお心を思えばすぐ休ませるべきでしたのに、気遣いが出来ず申し訳ありません。後でリラックス効果のあるお茶でも運ばせますので、どうぞお戻り下さい」

レイリアは立ち上がり、イザベラに今日のお礼を言ってから部屋へ下がって行った。

イザベラは明らかに元気のないレイリアに責任を感じ、任せろと言った手前エドゥアルドに報告しなければならないと思った。


「姫様、お茶が入りましたよ。飲んで落ち着いて下さい」

エンリケから運ばれて来たお茶をアマリアが淹れてくれた。

「ありがとう。あ、アマリア、今日はこちらで夕食を摂るからと伝えてくれる?」

「分かりました。‥姫様、本当に元気を出して下さいね。姫様の元気がないと物足りないというか、張り合いがないです」

「普段大人しくしろって言ってるのに?」

「大人しくと元気がないは違いますよ。普段言っているのは、元気だけど大人しくです。今はただの元気がないです。分かりましたか?」

「分かった様な?気がする。うん。分かったからもう説明はいいわ」

アマリアはそれ以上何も言わずに、そっとしておいてくれた。


レイリアは確かにショックを受けていた。

例え犯人がミゲルであったとしても、もしレイリアがジュースを口にしていたら、運んで来た何の罪も無い店員まで犯人となってしまう。

そしてもし自分が口にしていたらと思うと‥‥

実際エディは‥一度死んだのだ。

人の悪意による死。

いくら武術の心得があっても、防ぎようがない。

レイリアはその事に気付いて、激しく落ち込んでいた。


夕食を済ませてから暫くすると、イザベラが訪ねて来た。

それも1人ではなく、黒い長衣のフード付きローブを着た背の高い男性を伴って。

男性は深々とフードを被り、口元くらいしか顔が見えない。

イザベラの説明では、この男性は有名なカウンセラーで、落ち込むレイリアの相談相手として適しているから連れて来たという。

「アマリア、この人はきっとレイリアの力になれるわ。私達は席を外しましょう。そうだわ!その間貴女の恋愛観について聞かせて頂くというのはどうかしら?私は今日ホアキン翼に部屋を用意して貰ったのよ。そこで話しましょう」

「イザベラ様がそう仰るなら、私は従うしかありません。それにしても本当に大丈夫ですかこの人?」

「腕は確かよ。私が保証するわ。レイリアも安心して何でも話してね。さ、行きましょうアマリア!」

「わ、分かりました。ちょっと待って下さい」

アマリアは強引に引っ張られて、イザベラに連れて行かれてしまった。


レイリアはカウンセラーと2人だけにされてしまい、どうしたものかと考えた。

「え〜と、何をどうすれば良いかしら?ほんの少し落ち込んだだけなのよ。相談する程ではないから、貴方は必要がないと思うんだけど」

するとカウンセラーは無言でレイリアに近付き、屈んで顔を覗き込んだ。

レイリアは一瞬怯んだが治療の一つなのかと思い、カウンセラーのする事をただ見守っていた。

暫くジッと見つめて、カウンセラーは口を開く。

「君が命を狙われたと聞いて、顔を見るまで安心出来なかった。それにショックを受けたと聞いて、居ても立っても居られなくなった」

「えっ?」

カウンセラーはフードを取って顔を見せた。

赤毛に深い青色の瞳のエディの顔が目の前にある。

「な、なんで?」

「どうしても君の無事を確認したくて来てしまったんだよ。大丈夫かい?」

レイリアは胸がズキンと痛くなり、目頭が熱くなるのを感じた。

ツーと熱い物が頬を伝う。

視界が歪んでエディの顔がぼんやりとしか見えない。

「リア?」

「‥‥さ、最後だって、これが‥最後だって言ったじゃない‥‥!勝手に‥拒絶して、勝手に現れて‥‥勝手過ぎるわ!」

エディはレイリアを引き寄せると、自分の胸に押し付け抱きしめた。

「ごめんリア、ごめんね。‥‥本当に私は勝手だな。こんな風に君を泣かせてしまうんだから」

レイリアは押し付けられた胸元の布地をギュッと握り、肩を震わせながら声を殺して泣いた。

その間エディはずっとレイリアの頭と背中を黙って摩っていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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