表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
57/175

まさかの男

ルイスはレイリアとイザベラに大まかな説明をしてから、一足先に王宮へ戻った。

戻ってすぐにエンリケの元へ行き、一連の出来事を話すと、エンリケは証拠となる薬を調べる為、薬学博士に調査を依頼した。

「ブラガンサ殿、貴方が一緒にいた事は幸運だった。とにかく姫君達が無事でなによりです。まさかまたミゲルが騒ぎを起こすとは!」

「僕もミゲルを見た時、まさか!と思いましたよ。従妹殿の後を尾けて、何かよからぬ事を企んでいるのではと様子を伺っていたら、まさか一服盛ろうとするとは思いもしませんでした。本当にアイツはまさかの宝庫ですね」

「ほぅ!ブラガンサ殿、貴方は中々うまい事を言う。今の"まさかの宝庫"は頂いても?」

「はあ、どうぞ。使う機会がありますかね?」

「もちろんです!締め切りが近いので助かりました。良かったら一緒にエントリーを‥‥いや、強敵現わる!になりそうだな。この話は無かった事に」

「‥何の話ですか?それはそうと、殿下と話せますかね?取り調べについて相談したいのですが」

「大丈夫です。すぐこちらへ来て頂けるそうです。姫君の一大事だと伝えたら、血相変えて予定をこなしていましたからね。時にブラガンサ殿、姫君は殿下に対して印象が変わったとか、何か仰っていませんでしたか?」

「いいえ、特に何も。数日中にドミニク兄上が来る事で頭がいっぱいの様子でした。殿下のでの字もありませんでしたよ」

「‥そうですか。やはりまだ押しが足りないか」

「何の話です?」

「いえ、こちらの事。ドミニク殿下がお着きになるとして、多分陛下も今週中には戻られると思います。そうなると今回の殿下の行いについての処分や、今後の姫君との関係性が本決まりとなる筈です。我々もまだどうなるかは分かりませんが、今出来る事は解決してしまわないといけません。ですから早急にミゲルの件は片をつけてしまいましょう」

「そうですね。アイツが何を思い行動したのか、早急に取り調べて処分を下して頂かないと!」

エンリケは頷き、ルイスと2人でジョアンの訪れを待った。


バァン!と、勢いよく扉が開くと、肩で息をするジョアンが飛び込んで来た。

エンリケが言うように"血相変えて"走って来たらしい。

髪は乱れ呼吸が荒い。

「ブラガンサ殿、状況を詳しく説明してくれ!」

入って早々口を開くジョアンの勢いに驚きながらも、ルイスは事細かにその時の状況を話す。

「‥‥僕は偶然市場で変装していましたから、至近距離で近付いてもミゲルに気付かれませんでした。そのお陰で証拠物件となる薬を手に入れる事が出来たのです。薬は既にエンリケ殿が薬学博士に調査を依頼しました」

ルイスが話している間に息を整えたジョアンは、手櫛で髪の乱れを直してエンリケに問いかける。

「薬学博士に依頼したのは良い判断だが、アントニオ博士だな?どの位の時間で結果が出るのだ?」

「殿下の言う通りアントニオ博士です。詳しい成分の分析には数日かかると思いますが、博士なら薬の種類をすぐ突き止める筈です。例えば睡眠薬であるとか、毒であるとか。オセアノ一の薬学の権威ですからね」

「ああ。助手が必要ならすぐ手配せよ。とにかく早く薬を分析するのだ。ブラガンサ殿、ミゲルはどこに収監されているのだ?」

「ロウレスの地下牢です」

「そうか。直ちに向かおう!一緒に行ってくれるか?」

「もちろんです!殿下自らが取り調べを?」

「ミゲルの家と薬の関係性が気になってな。それに、私が尋ねて拒否する事は出来ない。エンリケ、私とブラガンサ殿はミゲルの取り調べに向かう。こっちは任せるぞ!」

「はい。お任せ下さい。それはそうとブラガンサ殿、変装とはどの様な格好をしたのですか?」

「ああ、悪ふざけの延長でつけ髭とつけ眉毛を少々。後はメガネに帽子ですかね。名付けて"君は誰?実は僕"です」

「くっ‥!そのネーミングセンス‥‥完敗だ。危ない所だった。ブラガンサ殿をエントリーしては、私の受賞への道が絶たれる。思い留まって良かった」

ジョアンは呆れた顔をしてエンリケに言った。

「まだ諦めていなかったのか?だが今は心底どうでもいい!行くぞブラガンサ殿!」

「はい殿下!」


さっさと部屋を出て行くジョアンの後を、急いでルイスは追った。

扉の手前でエンリケを振り返って、ルイスは一言言葉をかけた。

「では"まさかの男のおかしな事件簿"とタイトルをつけて下さいね。それでは姫君達の事、よろしくお願いします!」

後に残されたエンリケは、肩を落として呟いた。

「‥‥タイトルまでも‥!完敗だ‥‥」

だがエンリケはへこたれない。

すぐに気持ちを切り替えて、アントニオ博士の元へ向かった。


博士の研究室はジョアンにより王宮内に設けられている。

エンリケはその理由を知らないが、今回研究室が近くにあるという事が、幸運であったとつくづく思った。

博士の研究室はエルナン翼の隣に位置する、ジョルジェ三世が造ったジョルジェ翼の一角にある。エンリケが研究室へ入ると、博士が焦った顔で走り寄って来た。

「エンリケ殿!殿下は、殿下はどちらでしょう?至急報告したい重要な話があります!」

「どうしたんですか博士?殿下は薬の持ち主を取り調べに向かい不在ですよ。私は殿下の指示で、博士に助手が必要か確認に参ったのです」

「助手!?ええ、至急5人程優秀な人材を手配して下さい!この薬は大変な物なのです!」

「大変な物と仰るという事は、まさか‥毒の類いですか?」

「‥そうです。しかも使用量によってはすぐに命を落とす可能性のある物です。今ちょっとした実験で水槽の鱒に使ってみましたら、少量だと時々泳ぎが鈍るくらいですが、多目だと即死するという結果が出ました。これは大変危険な薬です。おそらく、神経か筋肉のどちらかに作用していると思われます」

「なんと!まさか、まさかあのミゲルがその様な物を持っているとは!分かりました。至急助手を手配致しましょう。博士は引き続き調査をお願いします」

「分かりました。殿下の為にも全力を尽くします!」

エンリケは急いで助手を手配する為、研究室を後にした。

まさか‥あのミゲルが‥‥?

エンリケの頭の中では"まさかの男のおかしな事件簿"というタイトルがぐるぐる回っていた。

読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ