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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
56/175

君は誰?実は僕

慎重に慎重に‥。

チャンスを伺うのだ。

気付かれたら元も子もないのだからな。

ミゲルは興奮しながらも、レイリア達から目を離さなかった。


相変わらずシモンから、商人の荷運び人足として働きに出されているミゲルは、文句を言いながらも今日の仕入先である市場へ駆り出されていた。

ミゲルの雇い主である商人は、シモンの母親の親戚であり、布類を取り扱う問屋を営んでいる。

時々地方から特産品の織物を大量に仕入れては、貴族や富裕層御用達の衣料品店へ卸して売上を上げていた。

今日はオリヴァイス織という細かい花柄が特徴の布地を、市場へ買い付けに来たのだ。

最近このオリヴァイス織は、男性の服の裏地に使われるのが流行して売れ行きが良い。

見えにくい場所にこそ遊び心を!というのがコンセプトらしい。


ミゲルが仲間と一緒に荷物を積んでいると、他の商人の荷運び人足達が何やら騒ぎ出した。

「おい見たか?あっちにスゲェ美人が2人いるぞ!どうも身分のある方々らしいが、こんな所であんな美人が拝めるなんて今日はついてるなぁ!」

「そんな美人がいるのか?じゃあ俺もちょっと拝んで来るよ。代わりにこれを頼んでもいいかい?」

「おお!滅多に拝める代物じゃない!行って来いよ!」

この会話を耳にしたミゲルは、いてもたってもいられなくなった。

美人だって?

見たい!どうしても見たい!!

私は美人に目がないのだ!


「痛っ!あ痛たたたた‥!」

「なんだミゲル?何が痛いって?」

商人が訝しげな顔でミゲルに聞く。

「急に腹が痛くなった。少しトイレに行ってもいいか?」

「本当か?またサボろうとして仮病を使ってるんじゃないか?それにいい加減その偉そうな言葉遣いを直せ!行ってもいいですか?だ」

「チッ!行ってもいいですか?」

「今舌打ちが聞こえたが?まあいい。シモン様からお前は下が緩いと聞いている。お漏らしされでもしたら堪らんからな。とっとと行って来い!」

「‥行ってくる」

そう言ってミゲルはさっき男達が言っていた方角へ向かった。


ザワザワと行き交う人混みを掻き分けて、目的の美人を探すと、すぐに見付ける事が出来た。

皆んなが美人を見に集まり、遠巻きながらも人垣が出来ていたからだ。

ヒョイと覗いたミゲルの目に飛び込んで来たのは、1人は良く知る人物で、もう1人は見た事のない人物だった。

イザベラ嬢か。

成る程滅多に拝める代物では無い。

ポンバル家の者とはいえ、私は美人は尊重する主義だからな。

オセアノの赤いバラと謳われた美人なら、騒ぎになるのも当然の事だ。

しかしもう1人のあの可憐な美女は誰だ?

見た事もない髪の色に、大きな瞳はキラキラと輝いて、まるで宝石の様じゃないか!

あんな美女なら私が知らない訳は無いというのにどこの令嬢なんだ?

ミゲルはレイリアに見惚れてポーッとなっていた。

暫く眺めていると、レイリアに近付くアマリアが目に入る。

なんだ!?

あの侍女は‥‥!!

忘れ様にも忘れられないあの侍女!

まさか!まさかあの侍女が付き従う人物はたった1人だけの筈だ!!

あの可憐な美女は、バルコスの‥‥!?

あの女なのか!!

ミゲルは衝撃を受けた。

憎っくきあの女があの様な可憐な美女だったなんて!

しかし同時に別の考えが浮かんだ。

欲しい!

なんとかしてあの女が欲しい!

仕返しをするつもりだったが、手に入れて自分の物にするというのもアリだな。

幸い薬は肌身離さず持ち歩いている。

しかし問題は使用量だ。

シモンめ!

医者か薬屋を紹介しろと言ったら

「義兄上にはどんな薬も効きませんよ。ほら、バカにつける薬は無いって言うじやないですか」

などと抜かして教えもしない!

どうする?

いや、きっと機会は来る!

あの女だって人混みを歩けば喉が乾く筈だ。

そのうちどこかで飲み物を頼むだろう。

その飲み物にどうにかして薬を入れるのだ。

この際使用量など適当でいい。

眠気を感じて馬車に戻ろうとしたら、乗った所で馬車ごと奪ってしまえ!

どこかに護衛はいるだろうが、馬車に乗るのは女性だけの筈。

いくらあの女が強くとも、薬で眠気を感じた状態では反撃出来まい。

ましてはやあの女の弱点は馬車だ。

フフフ‥全く私は強運の持ち主だな。

ミゲルはレイリア達に一定の距離を保ちながら後を追った。

ルイスに着けられているなどとは思いもしなかったのだろう。


やっとイザベラの見立てで買い物を済ませたレイリアは、ミゲルの予想通りスイーツと果物のジュースで人気の店に入って行った。

店の裏口からそっと忍び込んだミゲルは、まず女性店員に声をかける。

「すまない店員さん、私はあのピンク色の髪のお嬢様の使用人だ。お嬢様には持病があって、薬を飲まなきゃいけないんだが、苦いのを嫌がられて飲んでくれないんだ。だからお嬢様には内緒で薬を飲ませたいんだが、協力して貰えないだろうか?」

人の良さそうな店員は、まんまとミゲルの口車に乗せられ、快く引き受けてくれた。

やった思惑通りだ!

さすが私は強運の持ち主だ!

これは間違いなく、神が与えてくれた幸運だ!

ミゲルは興奮しながらも、懐を探り薬を用意した。


店員がオーダーを取り戻って来ると、レイリアの頼んだジュースをミゲルの前に準備してくれた。

イチゴとバナナの果肉が粗く刻まれた、女性に人気のミックスジュースだという。

ミゲルはこの後の事を想像してゴクリと唾を飲み込むと、用意した薬の包みを開いて中身をジュースに入れようとした。

と、その時だった。

誰かに手首を掴まれ、手元の薬を取り上げられる。

驚いたミゲルは手首を掴んだ相手を見た。

手首を掴んだ相手は、見るからに屈強な体格の、武術の心得がありそうな男だった。

そして薬を取り上げたのは、仕立ての良いフロックコートとは対照的な、変な丸メガネと不自然な鼻の下の髭に、太い眉毛の男。

チェックの鍔広帽子が余計にアンバランスに見える。

「な、何をする!私はお嬢様に薬を‥‥」

「お嬢様?薬?一体何をしようと企んでいるんだ?お前など使用人に雇った覚えはないが?」

「く、薬を返せ!誰なんだお前は?」

「ふぅん。意外とバレない物だな。お前の行動はバレバレだったぞ。ミゲル」

「私を知っているのか?お前は誰だ?」

「誰だと聞かれたらこう答えよう。"実は僕"だ!」

ルイスはつけ髭とつけ眉毛に丸メガネと帽子を外した。

「殿下の執務室以来だなお漏らしミゲルよ。もう私を忘れたのか?それなら教えてやるよ。お前が薬を盛るつもりだった姫君の従兄、ルイス・ブラガンサだ!」

ルイスが言い放つと、真っ青になったミゲルはガタガタと震え出した。

ミゲルの手首を掴んでいた護衛は、後ろ手に縛り上げ、頭を床に抑え付けた。

店員は慌てて市場の警備員を呼び、やって来た警備員にザワつく客達で、暫く店内は大騒ぎになった。

レイリアとイザベラも何事かと訪ねたが、とにかく早く馬車へ戻る様にと言うルイスの意見に従った。


ルイスは現場の指揮を取り的確に指示を出している。

「こいつを拘束しろ!それからロウレスの地下牢へ放り込め!取り調べは殿下に報告してからだ!」

市場の警備員と護衛は頷き、ミゲルを引っ張ってロウレス地区へ向かった。

ルイスはミゲルから取り上げた薬の包みを丁寧に包み直すと、無くさない様大事に懐にしまった。


一体レイリアに何を飲ませようとしたんだ?

戻ったら証拠物件として、直ちに調べさせよう。

しかし"君は誰?実は僕セット"は案外使えたな。

いっその事これをドミニク兄さんのお土産にした方がいいんじゃないか?

読んで頂いてありがとうございます。

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