お土産選びは?
ルイスは面倒見がいい。
レイリアがイザベラと市場へ出かけると聞くと
「僕も一緒に行く」
と言ってやっぱり着いて来た。
勿論目立たない様護衛も着いて来てはいるが、それだけでは心配なのだろう。
アマリアは少し嫌な予感がした。
レイリアは市場へ出かけるのが好きで、たまにバルコスへ遊びに来るルイスとも、何度か一緒に出かけていた。
しかしその度に、2人がドミニクや大公に買って来たお土産を思い出すと‥‥
アマリアは2人の買い物には目を光らせようと決心した。
この2人は市場で変な物ばかり買うのだ。
一度大公に買って来たお土産に、鼻の穴が笛になっている人の顔の置物という物を買って来た。
その置物の顔は妙にリアルで、貰った大公は複雑な顔をして、一度も鼻の穴の笛を鳴らす事は無かったのを覚えている。
「レイリア、君が忙しくて言う機会が無かったんだけど、あと数日後にドミニク兄さんが王都に着くんだ。だから今日は兄さんにお土産を買えたらと思ってさ、本当、イザベラ嬢の提案に感謝しているよ」
「お兄様が!?王都に!!うわ〜嬉し過ぎて飛び跳ねそう!やっぱりお兄様は世界一だわ!私の為に来てくれるんだもの!あ、でも本当にこのタイミングでのイザベラの提案には感謝ね!ありがとうイザベラ!」
イザベラは喜ぶレイリアを眺めながら、レイリアの頭を撫でていい子いい子している。
「ドミニク殿下はどんな方なの?レイリアに似ているのかしら?」
「似ているかしら?そう聞かれるとよく分からないんだけど、誰よりもステキなのよお兄様は」
「僕から見ると、兄妹だから顔立ちは似ているけど、何ていうか兄さんは‥‥とにかくカッコいい!甘いマスクにプラチナブロンドの見た目に、物腰の柔らかさや爽やかな雰囲気は、本当にレイリアと兄妹?って時々疑ってしまうよ」
「正真正銘の兄妹よ!むしろなんでルイスが従兄なのかの方が不思議ね!」
ウォッフン!
アマリアの咳払いにルイスとレイリアは黙った。
「ドミニク様がこちらへいらっしゃるなら、お2人は尚更言い付けを守らなければいけませんね。ひと言我慢する約束では?」
「「‥はい」」
「それからお土産は私が良いと言った物以外買わないで下さい。いいですか?」
「「えー!何で?」」
「はっきり言ってお土産を選ぶセンスがないからです!エンリケ様のネーミングセンスくらいセンスがありません!」
「「その例えは‥酷すぎる!!」」
イザベラも残念そうに言う。
「助け船を出したい所だけど、エンリケ並のセンスとなると‥何も言えないわ。そうだわ!私も一緒に選びましょう!どうかしら?」
「イザベラ様が一緒に選んでくれるなら、何の問題もありません。よろしくお願いします」
アマリアはそう言ってホッとした。
初めてオセアノの市場に来たレイリアは、その規模の凄さに、驚きの余り口をあんぐりと開けてしまった。
市場はとにかく広く、天候不良にも対応出来る様、アーケードになっている。
果物、鮮魚、野菜と並んで雑貨や衣類、カバンに靴‥‥とにかくありとあらゆる物が並んでいた。
規模に比例して買物客も多い。
王都でも有名なレストランや、小売店からも買い付けに来ていると、イザベラが説明してくれた。
「レイリアどうだいこれ?つけ髭だってさ。つけ眉毛なんてのもあるよ!」
「面白いわルイス!貴方面白い物を見付ける天才ね!」
つけ髭とつけ眉毛の何が面白いのか分からないイザベラは、微妙な顔をしている。
後ろで見ていたアマリアは、やれやれ始まったかと思い、さっさと次の店へ2人を促した。
ルイスはよっぽど気に入ったらしく、つけ髭とつけ眉毛を購入して、更に丸いフレームの伊達メガネまで購入していた。
「名付けて"君は誰?実は僕セット"だよ。早速やってみようか?」
そう言ってルイスが装着すると、レイリアは
「いいわねぇ!後は帽子を被れば完璧じゃない!ちょっとこれ被ってみてよ」
と言って目の前の店からチェックの鍔広帽子を渡した。
思わず笑ってしまいそうなルイスの風貌ではあったが、確かに"君は誰?実は僕"だった。
それを見て笑いを堪えたアマリアが
「ルイス様はお土産選びのセンスは絶望的ですが、ネーミングセンスはいい線いってます」
と珍しく褒めた。
これにはイザベラもうんうんと頷いて、レイリアと一緒に納得している。
調子に乗ったルイスは帽子も購入して被り、完全に"君は誰?実は僕"になった。
ドミニクへのお土産選びだったが、相変わらず変な物ばかり選ぶ2人に愛想をつかして、イザベラは1人真剣に選んでいた。
暫くすると護衛の1人がルイスを呼び、ルイスはその場を離れる事になった。
どうやら何かに気付いた様だが、レイリアとイザベラは気にせず2人で選ぶ事にした。
少し離れた場所へ連れて来られたルイスに、護衛が説明を始める。
「先程から見ていましたが、怪しい男がずっと姫君達の様子を伺いながら着いて来るんです。ただ、どうも素人丸出しで、バレバレなのが何ともお粗末なのですが」
「どの男だ?」
「あの古着屋でワザとらしく青い服を持って、服の陰から姫君を覗いているあの男です!」
ルイスは護衛の言った方を素知らぬふりでチラリと見た。
男の顔を見たルイスは、意外な人物であった事に驚いた。
「えっ?なんであのバカ(ミゲル)がこんな所に?」
「お知り合いですかルイス様?どこかの商人の荷運び人足で来た男の様ですが?」
「ああ。よ〜く知っているよ。でもお知り合いなどという良い物では無い。むしろとっちめてやりたいと思う間柄だ」
「では捕まえて牢にでも放り込みますか?」
「いや、それは後にしよう。あのバカ(ミゲル)の目的が何なのか、暫く泳がせて掴んだらそうしよう」
「分かりました。ではその様に」
ルイスは護衛と一緒にミゲルを見張る事にした。
しかしあいつはレイリアの素顔を見た事が無い筈だが‥‥どうして分かったんだ?
‥‥ああ!アマリアか!
アマリアが付き従う人物はレイリア以外いないもんな。
あのバカ(ミゲル)にしては良く気付いた。
いったい奴の目的は何なんだ?
どうせ碌な事じゃ無いだろう。
読んで頂いてありがとうございます。