表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
5/175

祝福

荷造りがすっかり終わったのは、夕食が済んでからだった。

「もういらないから」

と言うレイリアに、あれもこれもとアマリアが追加したせいだ。

一番いらないと思ったのは、アマリアの恋愛小説コレクションだ。

「姫様には絶対必要です!」

と言ってアマリアは譲らなかった。

恋愛小説より歴史物や冒険小説の方がいいと思ったが、アマリアのお説教が始まりそうだったので言わなかった。

母の輿入れでこの国に来たアマリアは、元々はオセアノ人だ。

オセアノについて何も知らない自分には、とても頼りになる相手だろう。

少々お説教が長いのがたまにキズだけど。


早目に休む様父から言われ、夕食後は自室へ戻った。

兄はと聞くと、まだ戻っていないという。

明日の朝には出発だ。

それまでに大好きな兄と、きちんと暫しの別れを言いたかった。

レイリアは寝間着にガウンを羽織って、自室のベランダへ出る。

バルコスで見る月は仄かに青い。

幻想的でとても美しい景色だ。

母がバルコスで一番好きだった景色。


「貴方達とも暫くお別れね」

そう呟くレイリアの周りに、ホタルの光の様な丸い光が無数集まって来た。

『レイリアお別れ?何処へ行く?』

光から声が聞こえる。

「オセアノへ。どれ位になるか分からないんだけど」

『寂しい。僕達レイリア大好き』

「私も寂しいわ。オセアノに貴方達は来られないの?」

『僕達はバルコスに馴染む妖精。オセアノにはオセアノの妖精がいる』

「縄張りがあるの?」

『縄張りじゃない。土地が馴染むんだ。レイリアは僕達の祝福があるから、オセアノでも妖精に会える』

「貴方達の仲間に会えるのね?」

『うん。必ず会える』

「楽しみにしているわ。それから、必ず帰って来るから待ってて」

『待ってる』

無数の光はそう言ってレイリアから離れ、空へ飛んで行くと消えてしまった。


レイリアを宿してから、母はよく月の女神を祀る神殿へお供えをしていた。

神殿のある場所は、バルコスで最も妖精が目撃される場所で、お供えは度々妖精達によって運び出されていたそうだ。

臨月を迎え、レイリアが産まれる頃になると、母はある夢を見た。

『これから産まれる子供は我々の友人となる。お供えのお礼に祝福を与えよう』

男とも女とも言えない、圧倒的な美しさの人が夢の中で語りかけ、母はとても幸せな気持ちになったのだと言っていた。

母は産まれたレイリアの瞳を見て、これが"祝福"なのだと知った。

"祝福"を持つレイリアは、子供の頃から妖精が見える。

のんびりしたバルコスの人々は、妖精を見る能力を持つ人が多いが、レイリアは妖精を呼ぶ事が出来た。

ベリー摘みはいつも妖精に場所を聞いていたし、森の中では道案内もしてくれる。

レイリアにとってはかけがえの無い友人達であった。


「レイリア」

いつの間にか、兄が後ろに立っている。

「お兄様!!」

レイリアは兄に飛び付いた。

「レイリアはいつまで経っても甘えん坊だね。明日はお嫁に行くというのに」

「仮の婚約者としてオセアノに世話になるだけだわ。王太子殿下には特に会う必要も無いんですもの」

「レイリア、父上は異議を唱える事が出来ないと言ったけど、僕は納得していない。王太子の条件は余りにも非人道的だ」

「私は気にしないからいいのよお兄様。それに、事態が落ち着いたら帰って来れるんでしょう?」

「‥それは‥そうなんだけど。いつになるかは分からない。だから僕はオセアノ国王へ使者を送った。今国王は東の外れの領地へ視察に出ていて、王都では王太子が国王の代理を務めている。だから今回の使者は、王太子が遣わしたのだと思う」

「うん?それが何か?」

「僕は王太子の条件は、国王の預かり知らぬ所で出された物だと思っている。オセアノ国王は人格者だと聞いているし、父上の友人でもある。友人の娘にあの様な条件を突き付けて従わせる事を、国王は良しとしない筈だ」

「けどねぇ、やっぱり意中の女性がいる方と仲良くするのは無理があるし、私も出来れば堅苦しい生活はしたくないから、これでいいんじゃないかと思うんだけど」

「レイリアが良くても僕が嫌なんだ!国と国の問題でお前には辛い思いをさせてしまう。不甲斐ない兄ですまない。だからせめて、お前の為に僕が出来る事をさせてくれ」

「私のお兄様は世界一だわ」

「レイリアは大概僕を贔屓目で見るね。いつかレイリアにとっての世界一は、誰かの物になるだろう」

「誰かなんてきっと現れない。私にとっての世界一はお兄様だけだもの」

「現れるさ。きっとね。明日は僕も国境まで着いて行くよ。さあ、明日は早い。もう休みなさい」

「お兄様が着いてきてくれるの!?急に楽しみになったわ!それじゃあすぐ寝るわね。おやすみなさいお兄様」

「おやすみレイリア」


レイリアがオセアノの王都へ到着するまで、およそ一週間はかかるだろう。

オセアノ国王がいる東の領地へは、今日から数えて約10日かかる。

国王にドミニクからの使者が着く前に、どうしたってレイリアの方が早く王都へ到着してしまう。

その間レイリアが酷い扱いを受けなければ良いが‥‥

ドミニクは一抹の不安を拭い切れず、ワインを呷って眠りに就いた。

読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ