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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
46/175

惹かれる

執務室で急ぎの仕事を片付けたジョアンは、一人物思いに耽っていた。

まさかとは思ったが、エンリケが言った事は本当で、そして侍女殿の話では‥‥記憶を失くしているという。

やっと探し当てた娘がレイリアであった訳だが、これまで疑問に思っていた事の理由までもが明らかになった。

レイリアは兄上に会った後に事故に遭い、そして兄上の事もその数日前の事も、全て忘れているのだ。

だから少女の話をしても、まるで他人事の様に聞いていたのだな。

侍女殿の話では無理に思い出させようとしてはいけないという。

と、なると兄上の薬は‥‥手に入らないという事か‥‥

八方塞がりだ‥‥

ジョアンは一つ溜息を吐いた。


暫くするとコンコン!と扉を叩く音がして、エンリケが入って来た。

「ジョアン!姫君が意識を取り戻したそうだ!って、どうした?やけに暗いな?」

「色々と考え事をしていたのだ。‥暗いか。私はネクランだからな」

「この前から言っているそのネクランとは何だ?」

「気にするな。ニックネームの様な物だ」

「ニックネーム?まさかジョアン、ニックネーム大賞を狙っているのか?やめておいた方がいい。ネクランでは大賞は無理だ。あまりセンスを感じられない」

「そんな大賞があるのか?」

「ある!」

「あったのか。別に狙ってはいないし、センスについて君にとやかく言われたくはない」

「まあいい。そんな話をしに来たんじゃない。今日のピクニックでは随分と姫君と打ち解けていたではないか」

「‥姫君は少々規格外な所はあるが、優しく楽しい人だ。顔は見せなくとも好ましい人だとは思っていた」

「そして実際顔を見て、初恋の娘だと確信した。それで君は落ち込んでいる。違うか?」

「一部は合っている」

「そう気落ちするな。今日見た所、非常に良い雰囲気だったぞ。姫君も満更ではない様子だったし。やはりジョアン、君が押して押して押しまくるべきだな」

「私は姫君が探していた娘でない事を、心の底では望んでいた様なのだ。だから姫君の素顔を見た時、どういう訳か‥落胆した」

「それはそうだろう。蔑ろにした相手が初恋の娘だったのだから。いや、でもこうとも考えられるな。君は姫君を顔は見せなくとも好ましいと言っていた」

「そうだ。私が素のままで話が出来る人だと思う」

「私が思うに、君は姫君に惹かれていたのではないか?初恋の娘よりも強く」

「何だと?バカな!そんな事は無い!」

「いやジョアン、君は気付いていないだけだ。もう君の中では初恋は終わっていて、姫君に惹かれ始めていたのだ。ところが実は姫君が初恋の娘で、また同じ相手に惹かれたのかと君は落胆したのだよ」

「違う。私は姫君に惹かれてなどいない」

「意地を張るなジョアン。君が姫君に惹かれている事は間違いない。そうでなければあの様に自然に笑いかける事はないだろう?君が女性に対して、あの様に笑ったのは初めてだ」

「‥私の笑顔が嫌いじゃないと言ったのだ。だから私は姫君の前では笑顔でいると約束した」

「他の誰に言われても、今迄君は絶対に笑顔を見せようとはしなかった。それが答えだ」

「違う。もてなしの一環だ」

「認めたくないなら仕方がない。まあ私に任せておけ。色々と考えてあるからな。お近付き大作戦!を」

「また捻りのないネーミングだな。今後姫君に出す招待状の類いに、君の考えたタイトルを付けるのは禁止する!」

「なぜだ!タイトルが無ければ台無しではないか!」

「タイトルがある事が台無しなのだ。付けたいならネーミングセンス大賞を受賞してからにしろ。それならば許可を出しても良い」

「くっ!仕方がない。帰って一捻りしてくるとしよう。それでは急ぎ私は帰る」

「ああ」


ジョアンはまた一人執務室で考えた。

私がレイリアに惹かれているだって?

違う!そんな事はあってはならないのだ。

レイリアが兄上の初恋の娘なら、喜ぶべき事ではないか。

兄上も娘が見付かったと知れば、少しは元気も出るだろう。

それなのに私はなぜ、こんなに落胆しているのだ?

そしてなぜかレイリアを、兄上に会わせたくないと思ってしまうのだ‥‥

いや、こんな事より薬の方が問題だ。

何か良い手立ては無い物だろうか‥

読んで頂いてありがとうございます。

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