資格がある
場所が牧場なだけあって、新鮮なミルクや乳製品をたっぷり使った料理の数々は、どれも全て美味しかった。
それも一流のシェフが作った物なら尚更だ。
"サンドイッチで十分"などと言っていたが、レイリアは迷わず撤回した。
勿論サンドイッチも出て来たが、中に挟まったハムやチーズは今まで食べた物の中で一番美味しく感じた。
詳しく聞いてみると、品種改良により加工に適した品種や、食用に適した品種が沢山この牧場で産み出されているという。
ここはオセアノの畜産試験場としても成り立っていた。
バルコスにはこの様な場所は無かったので、レイリアには新鮮な驚きがあった。
しかも発案者はジョアンだという。
レイリアは初めてジョアンを尊敬した。
「貴方があの牧場の発案者だと聞いたけど、どうやって思い付いたの?」
馬の背に揺られながら、隣に並ぶジョアンに聞いてみる。
ジョアンは約束通り帰りは馬を用意してくれた。
レイリア達の乗って来た馬車には、エンリケが一人で乗っている。
「そうだなぁ‥以前王宮の料理長に、オセアノの各地方の郷土料理を、日替わりで作って貰った事があった。その時地方によっては育つ物、育たない物を聞いて、どうせならその地方に適した家畜や野菜に改良して、皆が同じ物を食べられる様にしたいと思った。それがきっかけかな」
「ああ、そういう風に考えたの。貴方やっぱり思った通りだわ」
「え?」
「きちんと相応しい事をしているわ。つまり、資格があるって事よ。もし私が協力したら、貴方が考えて国民の為に始めた事が、無駄になってしまうと思わないかしら?」
「それなら大丈夫だ。兄‥いや、彼ならもっと良い方法を考える。私などよりよっぽど効率良くな」
「貴方も大概頑固ねぇ‥」
「何と言われても、これだけは譲れない」
これ以上言っても無駄だと思ったので、レイリアはこの話をまた別の機会にしようと思った。
帰りは馬なので何の問題も無いと思っていた。
しかし突然雨が降り出して、段々激しくなってくると、馬では移動が不可能になった。
仕方なくまた馬車に乗る事になったのだが、王宮までの距離と時間を考えると不安になる。
明らかにレイリアの許容範囲を超えた時間がかかるからだ。
ジョアンは心配してくれているが、王都に近付くに連れて激しくなる雨の中、レイリアには馬車を止めてくれとは言えなかった。
「レイリア、大丈夫か?」
「‥‥大丈夫‥」
ジョアンが見る限り、明らかに大丈夫と言える状態ではない。
レイリア自身もまた、段々体中から血の気が引いていくのが分かった。
ジョアンはレイリアの隣に移動して、レイリアを自分に寄りかからせた。
「遠慮なく寄りかかるといい。少しはマシだろう。王宮まではもう少しだ。頑張れ!」
「‥‥あり‥がとう‥」
呼吸が苦しい‥
返事をするのも無理かもしれない‥
「頑張れレイリア!レイリア?」
ジョアンはレイリアに呼びかける。
目の前が真っ暗になり、ジョアンの声が遠くに聞こえる。
「レイリア!しっかりしろレイリア!」
遂にジョアンの声が聞こえなくなると、レイリアはそのまま意識を無くした。
ジョアンはレイリアを寝かせようとして、レイリアの体をゆっくり横に倒した。
すると顎のリボンが外れ、スルリと帽子は床に落ち、それを見たジョアンは言葉を失った。
目の前には淡いプラチナブロンドの、少しピンクがかった髪。
長く濃い睫毛に縁取られた瞳は閉じられ、スッと通った鼻筋に形の良い薄い唇は、見た事も無い程美しい。
「レイリア‥貴方は‥やはり‥‥!」
ジョアンは歓喜とも落胆ともつかない、不思議な感情に襲われた。
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