〜しちゃう大作戦
レイリアが落ち着くと、一行はまた馬車を走らせた。
やはり馬車の中にはジョアンと2人なのだが、ジョアンは終始レイリアの体調を気遣ってくれる様になった。
五分おきに「大丈夫か?」と聞かれると、レイリアもいい加減ジョアンが可哀そうになって来る。
「貴方は心配性ね。耐えられなくなったら自分から言うので大丈夫よ」
そう言ってもジョアンは心配そうな顔を崩そうとしない。
「ピクニックなどと言い出さなければ良かったのだ。私は貴方を苦しめてばかりだ」
落ち込むジョアンにレイリアは声をかける。
「貴方のせいでも、誰のせいでもないの。私の持病というか、ちょっとしたトラウマが原因だから」
「私にそんな言葉をかけるなど、貴方は優しい人なのだな。神殿で話した時も思ったのだが、貴方は優しくて楽しい人だ」
ジョアンは申し訳なさそうに微笑んだ。
「私だって貴方と話してみるまでは、いけ好かない傲慢な王太子殿下だと思っていたし、実際酷い目に遭わされたわ。でもまあ、人って話してみないと分からない物ね。少なくとも貴方の笑顔は嫌いじゃないわ」
それを聞いたジョアンはニッコリと笑って
「それなら貴方の前では笑顔を心掛けよう」
と言ってレイリアの右手を取り、手の甲にキスをした。
ひゃ〜!
兄弟して同じ事を!
ジョアンの『王子様スマイル』も中々の破壊力があるわ。
「ジョアン、あの、右手の甲にキスというのは、何か意味があるの?」
「ああ、これは王族が心を許した相手に贈る、親愛の証だ。オセアノ王家ではこれを対等な相手に贈る。そうだな‥例えば伴侶になる相手とか」
「は、伴侶!?」
「何を焦っているのだ?元々貴方は私の結婚相手だったのだぞ。それに貴方には全てを話した。今私が最も心を許している相手と言える」
「そ、そう。そうね。秘密を共有する相手って意味ね。そういう事よね」
「さっきのはそういう意味だ。時と場合によっては意味合いも違ってくるが。何なら私も貴方の講師として加わろうか?王族には細かいしきたりが沢山あるからな」
「今以上に増えたら死んでしまうわ。今日だってサボれるから喜んでピクニックに参加したのだし」
「それなら貴方がサボれる様、私も考えるとしよう」
そう言ってまたニッコリと笑った。
それからすぐ、レイリア達一行は目的地に着いた。
着いた場所は牧場で、青々と茂った牧草が広い放牧地に広がる、開放的な美しい場所だった。
シェフ達が料理を用意する間、ジョアンの提案でレイリアは乗馬をする事にした。
馬車の中で聞いたレイリアの好きな事を、ジョアンはしっかり覚えているのだとレイリアは思った。
「驚いたな。貴方の乗馬の腕前は中々の物だ」
「必要に駆られてよ。ほら、馬車に弱いじゃない?普段は殆ど馬に乗って移動しているの」
「では帰りは馬にしよう。私もそうするから」
「でもそうすると一台空の馬車になるわ。勿体ないじゃない?」
「エンリケ一人乗せておけばいい。次回のネーミングセンス大賞に応募するネタを考えると言っていたからちょうどいい」
「それも見てみたい気も‥」
「やめた方がいい!センスのなさは私が太鼓判を押すぞ!エンリケは大抵"大作戦"と"〜しちゃう"を使うのだ」
真面目に話すジョアンに、レイリアは思わず笑い出す。
ジョアンもつられて声を出して笑った。
楽しそうに乗馬をする二人を遠くから眺めるエンリケは、笑いのネタが自分だとは知らずに
「乗馬で仲良くしちゃう大作戦!は成功だな」
と頷きながら微笑んでいた。
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