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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
42/175

親睦と弱点

馬車に乗ってから暫く進むと、ジョアンが話しかけて来た。

「レイリアその帽子、以前のと少し違うな。屋外だから日焼け対策にはいい」

帽子?

いやそれどころじゃないんで。

「帽子は貴方の前では外さないと決めているんで。屋内でも同じ事よ」

一瞬シーンと沈黙が流れる。

「‥急にピクニック等に誘ったから、気分を害しているのか?もしそうだったら謝罪する。しかしもう、出発してしまった。すまないが最後まで付き合って貰うしかない」

「‥気分を害したとか、そういう訳じゃないわ。今は余裕が無いだけよ」

「いや、正直に言ってくれ。アレが原因ではないのか?」

「アレ?」

「アレだ。恥ずかしながらエンリケにはネーミングセンスの欠片も無い。それを"自信作"などと言って、変なタイトルの招待状を貴方に送ったのが原因か?」

ジョアンは真面目な顔で真剣に聞いてくる。

レイリアはおかしくなって、思わず笑い声を上げた。

「フフフ‥アレはアレで中々のセンスね。結構笑ったわ」

「そうか。アレが原因ではないのか。それなら良かった。だが今言った"中々のセンス"という言葉は、エンリケの前で言わないでくれ。調子に乗ると後が困る」

「今までどんな名作があったの?」

ジョアンは眉間に皺を寄せて、言いにくそうに口を開いた。

「そうだな‥先日の視察の際には、しおりを作り、タイトルに"視察しちゃうぞ大作戦!"という、何の捻りもないネーミングを付けていた。その前の孤児院完成祝賀会には"ワクドキ孤児院お待ちしてま〜す!"という垂れ幕を作って、関係者全員に複雑な顔をされていた」

「ブッククク‥エンリケ殿‥ククク‥ギャップ大賞なら優勝出来そうね」

ジョアンもレイリアと一緒に笑った。


「貴方が笑ってくれて本当に良かった。私は気の利いたジョーク一つまともに言えないから。兄上だったらもっとスマートに女性をもてなせるのだろうな」

「‥からかってばかりかもしれないわよ?ドキドキさせたりとか‥」

「まるで兄上を知っている様な口振りだな?兄上にドキドキするのは当然だ。あれほどに美しく優しく気高い人はいない。私などいつもドキドキしている」

そうなんだ!

ドキドキするのが当然なのね。

なら正常だわ。

「‥貴方に協力するかどうかって話だけど‥」

「してくれるのか!?」

「エドゥアルド殿下の健康回復の為の協力ならするわ。でも失脚については協力し兼ねる。それが正しい事だとは思えないから」

「なぜだ?」

「そこにエドゥアルド殿下の意思が感じられないからよ。貴方がやろうとしている事は、本当にエドゥアルド殿下も望んでいる事なの?私には貴方の罪悪感から来る贖罪にしか思えないわ」

「‥‥‥!」

「だからその、‥私も初恋の娘の消息を探す。これだけは協力すると約束するわ」

「初恋の娘?私は貴女に少女とだけ言ったと思ったが?それに先ほどから貴女の口振りはまるで‥私と兄上の会話を聞いていたかの様だが?」


しまった!

つい緊急事態とはいえ、盗み聞きしたせいで余計な事を‥!

「わ、私は凄〜く勘がいいのよ。勘がいい人選手権で優勝出来る位ね!」

「そんな選手権があるのか?」

「例えよ!とにかくそういう事なの」

「最近そういう例え方が流行っているのか?まあいい。私は諦めが悪いからな。それに、今日は貴女をもてなす日だ。帰るまでにはその帽子を取ってもいいと言って貰う位には、貴女と打ち解けないといけないからな」

「まあ、お手並み拝見ね」

ジョアンはニッコリと笑った。

あ、これは正に『王子様スマイル』ってヤツじゃない!

ルイスが見たら"奇跡だ!!"って大騒ぎしそうだわ。

うん。この笑顔は嫌いじゃない。


その後もジョアンは何かとレイリアに話しかけた。

一生懸命レイリアの好みを聞き出し、それに応えようとするジョアンには悪いのだが、レイリアにはもう、殆ど余裕が無くなっていた。

向かい側に座るジョアンの姿と、事故の前の母の幻影が重なり、フラッシュバックを起こしていたからだ。

レイリアは堪らず声を上げた。

「お願い!馬車を止めて!!」

「ど、どうしたのだレイリア?」

「お願い‥酔ったのよ‥頼むから馬車を!」

「分かった。おい!今すぐ馬車を止めろ!!」

ジョアンは御者の後ろの窓を叩き、馬車を緊急停止させた。

後ろから着いてきていた他の馬車も止まり、細い道は占領される。

王都を抜けた先の小さい集落に、突然豪華な馬車が3台も止まったせいで、民衆は何事かと集まって来た。


「おいミゲル!サボっているんじゃない!お前みたいな使えない奴をわざわざ使ってやってるんだ!サボってないでさっさと運べ!」

「私が頼んだ訳じゃない!」

「こっちだってシモン様の頼みじゃなきゃ、誰がお前なんか使うか!大切な商品をお前に運ばせるこっちの身にもなってみろ!」

「フン!そうは言っても通行止めだ。積んでも進めないじゃないか!」

「全く減らず口ばかり叩く奴だ。それにしてもあれはどこの馬車だ?3台も止まっていては進めないじゃないか」

この商人はシモンに頼まれて、ミゲルを荷運び人足として雇っていた。

昨日隣の都市ロウレスまで商品を仕入れに行き、ここでその一部を積み替えている所だ。

ロウレスから荷物を乗せてきた馬車だけでは量が多過ぎて、もう一台に分ける必要があったからだった。

商人は道を占領している3台の馬車を見に、民衆の波を掻き分け馬車に近付いた。

ミゲルもその後を着いて行く。

民衆の間からひょこっと顔を出したミゲルは、馬車から降りて来た人物達を見て、目を丸くした。


先頭の馬車の扉が開き、中からジョアンに肩を抱えられたレイリアが降りてくる。

アマリアが駆け寄り、大きな声で叫ぶ。

「姫様は馬車に弱いのです!長く乗る事は出来ないのです!」

エンリケやジョアンはレイリアが休める場所を用意している。

「‥へぇ‥‥あの女の弱点は馬車か。いい事を聞いた」

そう呟きながらミゲルはニヤリと笑い、荷運びの仕事に戻って行った。

読んで頂いてありがとうございます。

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