ドキッ!目的地不明!?
ハア〜‥‥!
どうしてこんな状況に追い込まれたのだろう。
レイリアは馬車に揺られながら大きな溜息を吐いた。
向かい側の座席にはジョアンが座っている。
そしてレイリアの隣にはアマリアの姿はない。
つまりこの馬車の中はジョアンと二人きりという事だ。
本来ならアマリアも同伴させる予定だった。
それが出来なかったのは、エンリケの余計な気遣いのせいだ。
レイリア達は時間通り、エンリケに指定された南門へやって来た。
馬車は3台用意されており、その前にはジョアンとエンリケ、護衛騎士達、3人の侍女とシェフが2人立っていた。
「姫様、王太子殿下ともなれば、ピクニックにシェフまで連れて行くんですね。それにピクニックなのに3台も馬車が用意してありますよ」
アマリアがコソッとレイリアに言う。
「ちょっと大袈裟よねー。たかがピクニックにシェフが必要かしら?サンドイッチで十分でしょう?」
アマリアもコクコクと頷く。
やって来たレイリア達を見ると、エンリケが満面の笑みで迎えた。
「姫君、急なご招待にも関わらず、ご参加下さった事を感謝致します。本日は殿下が真心を込めておもてなしをさせて頂きますので、どうぞごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
挨拶を終えると、エンリケはマントを翻し、優雅に配下の礼をとった。
「こちらこそご招待頂き、ありがとうございます。オセアノでは観光をしておりませんので、楽しみにしておりました」
レイリアも挨拶を返す。
社交辞令とはいえ、実際オセアノに来てから王宮と王家の森以外どこにも行っていないので、少しだけ楽しみではあった。
但し、馬車に乗らなければではあるが。
「ところで、目的地まではどの位の時間がかかりますか?」
するとエンリケは得意げに、満面の笑みを浮かべながら
「姫君、タイトルは"ドキッ!"ですから、目的地は着いてのお楽しみという事で。お時間等も分からない方がより楽しめると思いますよ」
と言ってレイリアに答えた。
するとジョアンは驚いた顔をして、エンリケに言った。
「まさかエンリケ、あのネーミングで姫君に招待状を送ったのか?あのネーミングではセンスを疑われると忠告した筈だが?」
横でアマリアがうんうんと頷いている。
「いくらか変更はしましたよ。姫君に送ったのは自信作ですから、問題ありません」
自信作だったんだ‥
レイリアとアマリアは笑いを堪えて、肩を小刻みに震わせている。
ジョアンは片手で顔を覆いながら
「登録すら叶わないレベルだろうに」
と、ボソッと呟いた。
「それでは出発致しましょう!侍女殿はこちらの馬車へどうぞ!」
「「ええっ!!」」
レイリアとアマリアは顔を見合わせて声を上げた。
「あの、私がいないと姫様のお世話をする者がおりませんが?」
ナイス!アマリア!
アマリアが一緒にいないと万が一発作が起きた時困るわ。
「大丈夫です。今日は殿下が姫君をおもてなしする日ですから、殿下が責任を持ってお世話を致しますよ。侍女殿も姫君もご心配無く。殿下はやれば出来る子ですから」
エンリケはキッパリと言い切った。
「姫様‥どうしましょう?」
アマリアは不安気にレイリアの袖を引っ張る。
「ルイスはどうしたのかしら?見送りに来て何かあれば助け船を出すって言ってたのに‥」
ルイスは昨夜帰り際にそう言っていたのだ。
だが朝から姿を現さない。
「さあさあ!姫君はこちらの馬車へ。殿下、姫君のお手をお取り下さい。本日は第一小隊に護衛を任せておりますので、安全面でも万全ですよ」
ん?第一小隊?
それが原因か!!
ルイス〜!
私と自分の身の安全を天秤にかけたわね!
ジョアンは言われるままに、レイリアの手を取って馬車へ連れて行く。
レイリアは従うしかなく、アマリアと離れて馬車に乗るしかなかった。
それにしても、どうしてエンリケは急にピクニックで親睦を深めようなどと考えたのだろう?
チラリと横目で第一小隊を見ると、1人だけ違う色のマントを身に付けた、がっしりとした体格の濃い目の顔に髭を生やした男性が目に入る。
多分あれが隊長だろう。
あれは‥夢に見るわよねぇ。
レイリアは心の中で"ルイス、お気の毒様"などと思いながら、ジョアンの向かい側の座席に座った。
馬車はゆっくり走り出し、レイリアにとっては拷問の様な時間が流れ出した。
読んで頂いてありがとうございます。