招待状
レイリアが夕食を終えると、エンリケから使いがやって来た。
何かの招待状を渡されてアマリアが受け取る。
「姫様エンリケ様から招待状が届きました」
「招待状?何の招待状かしら?夜会とかそういう堅苦しい物だったら困るから、念の為ルイスを呼んでくれる?」
「そうですね、それが正解です。姫様一人じゃボロが出ますから。いえ、ボロと言うよりボロボロですね」
「言い返せないのが悔しいわ」
アマリアはすぐにルイスへ使いを出し、ルイスは急いでやって来た。
しかしやって来たルイスは服も髪型も乱れている。
「どうしたのルイス?貴方の方がボロボロじゃない?」
「方って何だい?方って」
「面倒くさいから気にしないで。どうしてそんな乱れてるのよ?いつも紳士の嗜みとか言って、嫌味なくらい髪型には気を使っているじゃないの」
「なんとなく引っかかる物言いだけど、ちょっと大変な目に遭ったんだ。危うく別の扉を開けられる所だったよ」
「何それ?別の扉?」
「それは後で話す。で、招待状だって?何の招待状だい?」
「まだ開けてないわ。ルイスが来てからにしようと思って」
「それなら早く開けてみなよ。急ぎの物なら困るだろ?準備とか」
ルイスに言われてレイリアは、エンリケからの招待状をペーパーナイフで開けてみた。
「ククッ‥何このネーミングセンス!ドキッ!ピクニックでおもてなししちゃうぞ〜!への招待ですって」
レイリアは開けた途端飛び込んで来た招待状のタイトルに、思わず笑ってしまった。
エンリケはジョアンに言われて幾らか変えた様だ。
「エンリケ様といえば、ネーミングセンス大賞の出資者になっておられるのですが、センスが無さ過ぎて審査員から降ろされたそうですよ」
「何そのよく分からない大賞は?」
「さあ?私にもよく分かりません。とにかくエンリケ様が力を入れているイベントだとか」
「アマリア、やけに詳しいのね?」
「姫様がレディ教育を受けている間私は暇‥いえ、情報収集をしていますので、主にゴシップに明るくなりました」
「今暇って聞こえたわよ?ねえルイス、聞こえたわよね?」
「すまん!ちょっとショックから立ち直れなくて、放心状態だった」
「やっぱりルイスの話を先にしましょうか。何があったの?」
ルイスは青くなりながら、重い口を開いた。
「僕は殿下の想い人について調べていたんだが、余りにも手掛かりがないので別の方向から調べてみる事にしたんだ」
「別のってどんな方向?」
「相手が女性とは限らないんじゃないかと思ってさ。だから男性を調べてみる事にしたんだ」
「えっ!?」
レイリアは一瞬血の気が引いた。
男性って‥まさかエディの存在にルイスは気付いて‥‥
「いや、だからさ、殿下は女性嫌いだって話だから、男色家の線を睨んだんだ。それで男色家と噂のある第一小隊の隊長の所へ、そっちの人達の特徴を聞きに行ったんだ。そうしたら‥‥試してみないかと‥」
アマリアは頰を膨らませて笑いを堪えている。
レイリアはホッと安心したが、ルイスの勘は少々ズレてはいるがあながち間違いではないと思った。
「なんだ!そんな事だったの。安心したわ」
「そんな事って、危うく別の扉を開けられそうになったんだぞ!合意の上ならまだしも、お婿に行けない体になる所だったんだ!」
「お婿って、貴方はお嫁さんを貰う方でしょうが」
「物の例えだよ。とにかく危なかった。夢に出そうだ」
ルイスはまだ青い顔をしている。
変な所で勘のいいルイスには、これに懲りて暫く想い人の調査をやめてくれればいいのにと、レイリアは思った。
エディの存在は知られてはならない。
「ところでピクニックだって?おもてなし?」
「何ですか?その何かの招致活動みたいなフレーズは?」
「どうも殿下直々に私をもてなすみたいよ。罪滅ぼしの一環なんでしょうけど」
「となると、断る事は出来ないな」
「そうですね。ただ、問題が一つ。姫様が馬車に乗るしかないという事です。距離にもよりますが、姫様に耐えられるかどうかが問題なのです」
ルイスとレイリアは顔を見合わせた。
「どうしようルイス!断れないし!」
「殿下直々となると、僕が無理矢理着いて行く訳にもいかないし。どうしたものか‥」
「姫様は酔い易いと言いましょう!そして細目に休憩を入れるしかありません」
「やっぱりそうするしかないか‥」
3人は悩んだが、結局他に良い案は見付からなかった。
そんな事を知らないエンリケは、ドキッ!ピクニックでおもてなししちゃうぞ〜!というタイトルを、我ながらセンスの良いネーミングだと満足げに頷いていた。
読んで頂いてありがとうございます。