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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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一寸先の記憶喪失

出来上がったジャムを瓶に詰め、早速配りに行こうとしたら、アマリアに止められてしまった。

「姫様!そんな事をしている場合ではありませんよ!荷造りの方が一刻を争うんですから!大公様に確認したら、明日にはもうバルコスを発たなきゃいけないそうです!」

「ええっ!!さっき聞いて明日!?早っ!!」

「‥どうもミドラスとの国境付近に兵が集結しているらしいです。姫様の身の安全の為には、一刻も早くバルコスを発つのが得策なんですよ。朝からドミニク様は偵察に出かけておりますが」

どうりで今日は一度も兄の姿を見ていない。


「私が思っていたより、事態は深刻なようね」

「‥ええ。ですから姫様は荷造りに精を出して下さい。こちらが終わりましたらすぐ手伝いに行きますから」

「ハァ‥分かったわ」

レイリアは配ろうと思っていたジャムを、下働きのベレンに託し自室へ向かった。


元々あまりドレスを着て着飾るのが好きでは無い為、レイリアのドレスは数も少なく新品同様だ。

クローゼットの中のドレスをそのまま詰めるだけなので、意外と簡単に荷造りは進んだ。

「やっぱりドレスばっかりじゃ肩が凝るわね」

レイリアは普段着ている畑仕事用のくたびれたブラウスやスカートを、何着かこっそりドレスの下に詰めた。

アマリアにバレたら大目玉だ。

詰めた衣装箱にしっかり鍵をかけ、アマリアに開けられない様運び出し口へ積み重ねた。


宝飾品はあまり持っていない。

母親の形見のブローチや、兄と父から誕生日プレゼントに貰ったイヤリングとネックレスを入れて完了した。

あまり宝飾品を身に着けないレイリアだが、一つだけ常に身に着けているペンダントがある。

四角い銀の台座にはめ込まれた、深い青色のサファイアを金のチェーンに通したペンダントだ。

元々このサファイアは引っ掛けるタイプのピアスだったので、チェーンに通す部分を加工してある。

これはいつ誰に貰った物なのか、レイリアには分からない。


レイリアは子供の頃の記憶が一部分欠けている。

それは母親の死を目の当たりにした為だろう。

オセアノの辺境伯令嬢だった母は、何年かに一度里帰りをしていた。

10年前、レイリアが8歳の時、父と兄を残して母親の里帰りに同行し、数日滞在した後バルコスへ帰る途中の出来事だった。

母親の実家からバルコスに入るまでは道が悪い。

途中深い森を抜けて、馬車が一台通れる程度の崖沿いの道を進まなければならない。

天候によっては何日も足止めをくらう事もある。

しかしこの時は天候にも恵まれ、順調に進んでいた。

森を抜け、崖沿いの道に差し掛かった時だった。

見た事も無い程大きなグリズリーが突然現れたのだ。

馬車を引く2頭の馬は驚き、御者の制御も虚しく暴走し、そのまま崖の下へ転落してしまった。

レイリアが目を開けると、既に冷たくなった母が硬直した体でレイリアをしっかり抱きしめ、その腕の中から這い出る事は出来なかった。

2日後救助に来た父に発見されるまで、レイリアはただ震えながら母の遺体に抱きしめられていた。

それから3日間熱を出し、起き上がれる様になると、事故に遭う数日前の記憶が消えていた。

覚えているのは事故に遭った時から、救助される時までに体験した恐怖だけ。

祖父母の邸で過ごした数日間、自分がどう過ごしていたのか、全く思い出せなかった。

だから救助されて眼を覚ますまでずっと握りしめていたこのピアスを、どうして持っていたのか分からない。

握りしめていたからには、大切な物だったのだろう。

レイリアはそれからピアスを加工して、ペンダントにして肌身離さず身に着けている。

あれから怖くて祖父母の邸には一度も行っていない。

祖父母は気を遣って度々訪ねてくれる。

まあ、時々意地悪な従兄弟のルイスも一緒に着いて来るのだが。


乱暴に扉を開けて、アマリアが入って来た。

「姫様手伝いに来ました‥って、もう殆ど終わりじゃないですか!」

「私はあんまり持っていく物が無いのよ。それに公の場に出る事も無いし、ひっそり身を隠していればいいんですもの」

「ハァ‥十項目ですか。お転婆姫様がひっそり身を隠していられますかねぇ?私にはそっちの方が心配ですよ」

「少なくとも胸キュンよりは確実に出来るわ」

「何言ってるんですか!胸キュンは最優先事項です!こうなったら何としてでも胸キュンさせてみせますからね!」

「まあ頑張って。無駄だと思うけど」

こうなったアマリアは言っても聞かない。


慌ただしく準備を進めているが、明日にはもう出発だ。

"そう長い事離れている訳じゃないだろう。

収穫祭迄に戻って来れればいいのだけど"

レイリアはそんな風に気楽に考えて、暫く見れないバルコスの景色を、窓から眺めて目に焼き付けた。


読んで頂いてありがとうございます。

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