表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
38/175

好物と鉱物

「エド!調子が悪いんだって?大丈夫かい?」

ん?この声は‥‥

「心配しなくてもいい。いつもの事だよジョアン」

やっぱりジョアン!!

「心配するに決まっている!エド、兄上に何かあったらと思うと、私は‥‥」

「私を心配して仕事を抜け出して来たのかい?ダメだよジョアン、王太子がそんな事をしては。それに私は存在しない者だ。兄と呼んではいけない」

「兄上以外に私の家族はいない。だから兄上と呼ばせて欲しい」

「お前はもっと聞き分けが良かった筈だ。それにお前の家族は私だけじゃない。尤も陛下をそう思えないという事は知っている。だからお前は伴侶を見つけて家族を作りなさい。そして陛下の跡を継ぐのだ」

「それは兄上、エドの物だ!私には継ぐ資格などないのだから」

「まだそんな事を考えているのか?お前には十分資格がある。まあ、お前がよっぽどの事をしでかさない限りはだが。お前は思い詰めて暴走する傾向があるからね。まさかその様な事を考えていないだろうね?」

「‥‥‥」

「答えないという事は何か考えていたね?それが私の為だったとしても私は喜ばないよ」

「エド!」

「私の夢を覚えているかいジョアン?私は地質学者になりたかったんだ。もし奇跡が起きて体が元通り良くなったら、今度こそ私は夢を叶えたいと思う」

「‥そうやって、貴方はいつも私に譲ろうとするんだ。でもこればかりは私も諦めないよ。必ず貴方の初恋の娘を探し出して、貴方を元通りにしてみせる!そして家族を作って跡を継ぐのは貴方の方だ。貴方はもう伴侶を見付けているのだから」

「‥‥どうやってお前を説得したらいいんだろう?お前は言い出したら聞かない所があるからね。今日の所は諦めるしかないか。あまり調子も良くないし」

「ごめんエド!却って悪化させてしまった!」

「いや、大丈夫だ。もう戻りなさい。王太子が油を売っていては格好がつかない」

「分かった。また来るよ。‥‥エド、顔を見せてはくれないのかい?」


ジョアンの一言にレイリアはピクッと反応した。

カーテンを開けられたら、隠れているのがバレてしまう。

布団は明らかに一人分以上に膨らんでいるのだから。

「私の顔色を見たら、お前はもっと心配するだろう?だから私は見せたくないんだ」

エディの言葉にジョアンは一瞬黙り込んだ様だった。

「また私はエドに気を遣わせているんだね。ごめんエド‥もう戻るよ」

「そうしなさい。皆に迷惑をかけてはいけないよ」

エディがそう言うと扉を開けて、ジョアンは部屋から出て行った。


ジョアンが出て行ったので、レイリアはフーと息を吐いた。

そして今の自分の状態に気が付いて、顔から火が出そうになった。

わ、私、私、エディにしがみついているわ!

慌てて抜け出そうとしたが、エディにギュッと抱きしめられて身動きが取れない。

「エディ、離してくれる?もう大丈夫なんでしょう?」

「もう少しこのままでいて欲しい。ダメかい?」

「だ、ダメに決まっているでしょ!緊急事態とはいえ、こんなのダメだわ!」

だって私が耐えられないもの。


「残念。君を捕まえておきたかったんだけどね。そういう訳にもいかないか」

エディはそう言うとレイリアを離し、体を横にしてレイリアの方へ向きを変えた。

布団を捲ると真っ赤になったレイリアが顔を出し、その顔をエディが微笑みながら見つめている。

うう‥‥恥ずかしいわ。

多分茹でダコみたいになってる筈。

いいえ、茹でダコみたいだと思っている筈。


「リア、男性と二人きりの時にそんな可愛らしい顔をしてはいけないよ。私だって病人とはいえ、一人の男だ。そんな顔をされては抑えが利かなくなる」

「か、可愛らしいって、エディ貴方茹でダコが好きなの?」

「茹でダコ?」

「私絶対茹でダコみたいよ。あなたの好物は茹でダコなの?今度来る時用意して来ましょうか?」

レイリアが真剣にそう言うと、エディは思わず吹き出した。


「クックック‥‥君は本当、斜め上を行くなぁ」

「え?茹でダコが好物なんじゃないの?え?」

「嫌いではないよ。でももっと好きな物がある」

「え?もっと好きな物?それは何?用意出来るかしら?」

「用意しなくてもいい。既にあるからね。私はそれを見ているだけでいいんだ。さて、いつまでもこうしていたいのは山々だが、君はもう戻らなくては」

レイリアはハッとして、慌ててベッドから下りた。

ベッドの下からエディの隠したベール付きの帽子を取り出し、被る前にエディの方を向く。

「エディ、貴方はなぜ私をリアって呼ぶの?もしかしてジョアン‥殿下が言っていた、初恋の娘がその名前だったから、似ている私を同じ呼び名で呼ぶの?」

「‥‥何と言ったらいいかな。君をそう呼びたいんだ。それではダメかい?」

「ダメではないけど‥‥」

「けど?」

「いいわ。貴方はリアって呼んで。そう呼ぶのは貴方だけだわ」

「そう、私だけの特権だ。リア、やはりここへはもう来てはいけない。君を巻き込みたくはないんだ」

「あら、何度も言うけど決めるのは妖精よ」

「では妖精に頼まなければいけないね。どうしたものか‥」

悩むエディに近付いて、レイリアはエディの顔を両手で包み込む。

「えっとね、ちょっと、いえ、かなり恥ずかしいんだけど、祝福のお裾分けをするわ。そうすれば妖精は貴方を気にかけてくれるの。貴方に何かあったら、妖精は私に教えてくれる。それならいいでしょ?」

「仕方ない。いいと言うしかないんだね」

「目を瞑ってくれる?」

エディは言われた通り目を瞑った。

レイリアはエディの両頬と額にキスをして、最後に顎にキスをした。

「終わったわ。もう目を開けていいわよ」

エディはゆっくり目を開けると

「残念。最後は唇だった筈なのに」

と言って笑った。

「唇は貴方の大切な人の為の物よ。からかわないで。もう戻るわ」

恥ずかしくて逃げ出したいレイリアは、帽子を被り扉へ急ぐ。

「リア!」

「何?」

「私の好きな物はね、金緑石なんだ。それも特別な」

「‥特別な?」

「そう、特別な。キラキラと色を変えて、見ているだけで幸せな気持ちになる。‥‥参ったな、私は矛盾している。戻れと言って引き止めているんだから。来てくれてありがとうリア。もうこれで最後にしよう」

レイリアは返事をしないで扉を開け部屋を出た。


最後なんて言わなくてもいいじゃない。

そんな言葉、何だか‥悲しいわ。

ああ、でも、そうね、私は‥‥

エディの初恋の娘に似ているだけの存在なのだ。だから最後と言われても、仕方のない事なのだわ。

私は偽物で、本物は別にいる。

分かっている筈なのに、どうしてこんなに胸が痛いのだろう?


読んで頂いてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ