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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
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再訪と微熱

アマリアが苦労して作り上げた帽子とベールの改良型は使い心地抜群で、読み書きに支障を来す事は無かった。

鍔が少し狭い帽子の周りにベールを縫い付けて、目とベールまでの距離を広げたのだ。

ベールは少し短めにして、口元だけが見える様になっている。

着脱が容易に出来るようになった代わりに、外れ易いという問題があったので、アマリアは内側にリボンを縫い付け、顎の下で結ぶ様工夫した。


「姫君、もっと朗読は滑らかに。詩という物は言葉の美しさが心に響くのです」

古典詩の講師ボルダロ教授は、人の良さそうな笑顔を浮かべて、注意すべき点はビシッと指摘してくる。

レディ教育を受け始めて、レイリアは早くも心が折れそうだった。

午前中に受けた講義は王国史、外交儀礼、礼儀作法で、今までだったら聞いただけで逃げ出すような科目だ。

他にも音楽やダンス、朗読、地理といった内容のメニューが用意されていて、息をつく暇もない程忙しかった。


講師陣は優秀だとエンリケが太鼓判を押しただけある。

どの講師も教え方は丁寧で、非の打ち所がない。

おまけに笑顔で注意するので、逆らったり反抗したりという気にはなれない。

どうりでアマリアが付いて来ない訳だわ。

これじゃあ逃げ出す事も出来ないし。

舌を噛みそうになりながら、レイリアは言われた通り"滑らかに"を心掛けた。


やっと古典詩の講義が終わると、ボルダロ教授はレイリアにご褒美をくれた。

「姫君は頑張っておられる。ですが詰め込み過ぎは良くありません。私から言っておきますので、この後の講義はお休みにして、ゆっくり休んで下さい。但し、復習は必要ですぞ」

思わず両手を挙げて踊り出しそうになったが、教授には丁寧にお礼を言って、束の間の休息を楽しむ事にした。


レイリアが

「中庭を散策して頭を整理したいから、誰も付いて来ないで欲しい」

とお願いしたら、女官達はあっさり許してくれた。

久しぶりに本当に一人の時間を過ごしている。

バルコスを発ってから、常に誰かが側にいた。

王宮へ来てからは尚更一人になるのが難しく、少々ストレスも溜まっている。

歩きながら四阿へ向かうと、エディの事を思い出した。

そういえばあの妖精は、どうして私をエディの所へ連れて行ったのだろう?

試しに呼んで聞いてみようか。


「出て来てここの子。この前来たレイリアよ」

『レイリアすぐそば。僕はここにいる』

レイリアが呼ぶと妖精はすぐに姿を現した。

「あら、あなたはこの中庭に住んでるの?」

妖精はコクコクと頷いて、レイリアの周りを飛び回る。

「ねえ、どうして私を連れて行ったの?」

答える代わりに妖精はレイリアの袖を引っ張って、また連れて行こうとする。

これは妖精の導きであって、私はそれに従うだけだわ。

行って文句を言われても、導きなら仕方ないわよね。


回廊は相変わらず人の気配がしない。

二度目となると慣れたもので、サッと隠し扉を潜り、エディのいる部屋の扉を開けた。

今日は天蓋のカーテンは全て開けられている。

エディはベッドの上でクッションに寄りかかりながら、本を読んでいた。

突然入って来たレイリアにエディは驚いた顔をしたが、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。

「参ったな‥ここへ来てはダメだと言ったのに、君に会えた事が嬉しいんだから。‥相変わらず顔を隠しているんだね」


ま、眩しいわ!

この笑顔、破壊力抜群だわ!

「えっとね、言いつけを破ったのではないの。妖精がね」

「うん。妖精がまた君を連れて来てくれたんだね。その妖精には私の気持ちが分かるのかな?」

中庭より光が弱くなった妖精が、エディの周りをクルクルと回るとパッと消えた。

「そうみたい。貴方の周りを飛び回っていたわ。もう消えてしまったけど。貴方は妖精が見えないのに好かれているのね。どうしてかしら?」

「さあ?それは‥どうしてだか分からないよ。それより、顔を見せてくれないのかい?」

「あ、これね、改良して簡単に着脱出来る様になったのよ。ほら!」

レイリアは得意げにリボンを解いて、ベール付きの帽子を脱いで見せた。

エディはその様子を見ながら微笑んでいる。


「金緑石」

「え?」

「君の瞳の事だよ。金緑石は光の加減で色が変わるんだ」

「ああ、これは祝福なんですって。珍しいらしいわ」

「うん。やっぱり君だ」

「何が?」

「いや、この本にも金緑石は載っている。説明しようか?」

「ええ。どんな石か興味があるわ」

「それじゃあこっちへ来てくれるかい?今日はあまり調子が良くなくてね。君の側にすら行けないんだ」

エディはベッド脇の小さな丸イスを指して、レイリアを座らせた。


「今日はあまり調子が良くない」という事は、毒の影響なのだろう。

この前来た時より顔色が悪い。

「健康を回復させてやれば‥」などとジョアンに言ったが、そんな簡単な問題じゃないと言うジョアンの言葉通りなのだ。

こんな風に10年間、この人は苦しみ続けて来たのだわ。

何とかしてあげたいけど、今は何もしてあげられない。

レイリアはそう思うと、胸が痛くなった。


「金緑石は微量に鉱物を含み、その為太陽光の下では青緑に、蝋燭の光の下では赤色に変化するんだよ。君の瞳はもっと色を変えるけどね。ほら、これが金緑石の色付きの絵だよ」

「へー!エディって教授みたいね。今日古典詩のボルダロ教授の講義を受けたけど、なんかそんな感じに説明してくれたわ」

「講義?」

「ええ。私があまりにもレディらしくないから、従兄弟と侍女の陰謀で毎日みっちりレディ教育を受けてるの。心が折れそうだわ。苦手なのよ、ああいう事は」

「どうりで疲れた顔をしている」

そう言ってエディはレイリアの頰に手を添えた。

触れられた所からカッと熱くなり、顔全体に広がっていく。

変だわ!?

なんでこんなに顔が熱いのよ!?

「リア、どうしたんだい?熱でもあるのかい?顔が赤いよ?」

「な、何でもないの。気にしないで」

「いや、ダメだ。熱を測ろう」

エディはそう言うと顔を近付け、レイリアの額に自分の額をくっつけた。

目の前にはエディの綺麗な顔。

閉じられた瞼には長い睫毛が縁取り、スッと通った形の良い鼻はレイリアの鼻とくっつきそうだった。

ち、近い!!

近過ぎる!!

これは耐えられないヤツだわ!


レイリアはパッとエディから顔を放した。

「わ、私より、エディの方が顔色が悪いわ。私に出来る事はない?」

エディは躊躇いがちに微笑んで、左右に首を振る。

「今は特には‥‥ああそうだ!リアのキスなら少しは調子が良くなるかもしれない」

「へっ!?キ、キス?キスって言った?」

「うん。リアがキスしてくれたら少しは楽になるかもね」

「キスって‥えっ!?そんなキスって!!そんな事!?ええっ!!」

狼狽えるレイリアを見て、エディはクスクスと笑う。

「からかったわねエディ!一瞬本気にしたわ!」

「からかってないよ。リアがあんまり可愛らしい反応するから、本気でそうしてくれたらいいのにと思ったんだ。でも君はしてくれないんだろ?」

「しないわ!一応レディですから!修行中の身だけど‥‥」

エディはまたクスクスと笑う。

レイリアはプゥっと頰を膨らませたが、エディにつられて一緒に笑い出した。

何だろう?

エディの側って‥何かが違う。

何だか分からないけど、嬉しい?様な‥

なんとなく胸の辺りがモヤモヤしてくる。

レイリアがそんな事を考えていると、突然扉をノックする音が聞こえた。


声を出す変わりに、どうしよう!とエディに目で訴える。

エディは頷き、天蓋のカーテンを閉めると、レイリアの帽子をベッドの下へ隠し、レイリアを自分の横へ寝かせて布団を被せた。

エディからの返事が無いので、もう一度ノックが聞こえる。

「入りなさい」

エディがそう言うと、誰かが入って来る気配がした。

突然の来訪者にドキドキしながら、レイリアは布団の中で必死にエディにしがみ付いた。


読んで頂いてありがとうございます。

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