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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
36/175

人の一寸ミゲルの一尺

石造りの湿った通路を歩く、数人の足音が近付いてくる。

どこかで水漏れでもしているらしく、時折聞こえる水音が、一層不快感を煽る。

「くそっ!!シモンめ!!こんな場所に閉じ込めやがって!!庶子の癖に出過ぎた真似を!!くそっ!!」

ミゲルは鉄格子の中で悪態をついた。

シモンがミゲルの為に選んだ独房は、犯罪を犯した貴族が入る場所では無く、庶民が入るそれだった。


鉄格子の中には、穴の開いたマットレスが敷かれた粗末なベッドと、用を足すのも戸惑う程に汚いトイレがあった。

掛け布団に至っては、掛けると体中が痒くなるという代物で、最初の晩に掛けて酷い目に遭ったミゲルは、仕方なく使うのをやめた。

足音はどんどんミゲルの独房に近付いてくる。

「やっとか‥」

そうミゲルが思った通り、独房の前には3人の男達が立っていた。

その内の一人は、ミゲルが良く知る人物だ。


「義兄上にはご機嫌麗しく、健やかにお過ごしだった様ですね」

「どこがだ!!そう見えるならお前は眼科医の受診が必要だな!こんな所でどうやってご機嫌麗しく過ごせるというのだ!」

「おや、義兄上に必要な物は揃っている筈ですけどねぇ。義兄上は下が緩いようですから、これでも気を使ってトイレのある独房にしたんですよ」

「こんな汚いトイレのどこが気を使っただ!!使うのも憚られるわ!」

「使うのもって‥まさか義兄上またお漏らしを‥」

「するかっ!!くだらん事を言ってないで、とっととここから出せ!」

シモンはフーと大袈裟に溜息を吐いて、残念な物を見るような目でミゲルを見た。


「少しは心を入れ替えたかと思って来てみれば、なんの反省も見られないとは。これでは出してもまた何かしら問題を起こすでしょう。私としては一族の恥を野放しにするより、死ぬまでここに閉じ込めておきたいのですがねぇ。本当に残念だ」

「し、死ぬまでだと!?冗談じゃない!!」

「義兄上、ここから出たいですか?私は出したくないんですが」

「で、出たい!!物凄ーく出たい!!」

「でしたら頼み方があるのでは?義兄上の態度は人に物を頼む態度ではないので。出たいならきちんとお願いをするべきでしょう?お漏らしをしても大人なんですから。もう一度言います。お漏らしをしても‥」

「そこだけ二度も言わんでいい!!くっ!!シモン如きに頭を下げねばならんとは。この屈辱は忘れないぞ」

「どうやら義兄上にそんな気は無い様ですねぇ。さて、ご機嫌伺いも済んだので我々は戻るとしますか」

「待て待て待て!いや、待って下さい!お願いします!出して下さい!!」

「ハァー‥本当に残念な人だ。義兄上にはプライドも無いらしい。いいですか義兄上、よ〜く聞いて下さい。義兄上をここから出す為に、父上は本家の侯爵様に頭を下げられました。一族の中に投獄された者を出しては、権威が地に堕ちるからです。それは侯爵様も納得されて、ご助力頂けました。そして義兄上には条件を出されました。条件というよりはほぼ勘当ですがね」

「か、勘当‥!?」

「ええ。今後一切マンソンを名乗る事と、マンソンを頼る事を禁じると仰いました。つまり事実上の勘当ですね。まあ、はっきり言って義兄上はバカですから、マンソンの力無くしては一切れのパンも買えないでしょう。父上は最後の憐れみだと義兄上に家を用意して、そこでひっそりと暮らせと仰いました。不本意ですが私には義兄上を監視せよと。不本意ですが。仕方ないから物資の配給くらいはしてあげますよ。不本意ですが」

「お前の‥世話になるという事か‥最悪だ」

「最悪なのは私の方です。ですが次期当主としては我が家の恥を表に出すよりはマシなので、仕方なく受け入れますが。さて、義兄上と話すと疲れるので、そろそろ出すとしましょう。私は無職で庶民の義兄上と違って、忙しいのです」

ミゲルは肩をガックリ落として項垂れた。


シモンの横にいた看守は独房の鍵を開け、ミゲルをシモンに引き渡す。

ミゲルは大人しくシモンの後に付いて行ったが、心の中では別の事を考えていた。


今にみていろ!復讐してやる!

全てはあの女のせいだ。

弱小国の田舎者風情が!


急に大人しくなったミゲルを、シモンは不審に思ったが、面倒だからそのまま連れて行った。

読んで頂いてありがとうございます。

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