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こじらせ王太子と約束の姫君  作者: 栗須まり
第1部
35/175

結構なお点前

ジョアンが兄上は生きていると言った。

そしてその事は秘密なのだと。

レイリアにはもう分かってしまった。

あの隠し扉の先の部屋で、確かに聞いた台詞の意味が。

「私の存在は誰にも知られてはならない」

ああ、そうか。

彼は‥‥エディは‥

いくら鈍感なレイリアでも、分からない筈がなかった。

エドゥアルド前王太子殿下なのだわ。


レイリアは首を回し、息を大きく吐くと、ジョアンの前にツカツカと歩み寄った。

「ジョアン、私を一発殴ってくれませんか?」

「えっ?」

「と、いってもこの格好では殴れませんよね。では、腕を思い切りツネって下さい」

「い、いやなぜそんな事を?」

「気合いを入れる為です。さあ!」

レイリアは袖を捲ってジョアンの前に腕を出した。

「どうしてもやらなきゃダメかい?レディの腕をツネる等、常識では考えられない」

「どうしても!です。私は非常識ですし、レディでもありませんから。貴女を蹴った女ですよ?遠慮はいりません。さあ!」

「うっ‥それでは‥!これでどうだい?」

ジョアンはチョンと軽くツネった。

「全然ダメ!ちょっと腕を出して下さい」

ジョアンは言われるまま腕を出す。

「もう!袖を捲らなきゃ意味無いでしょうに!さっさと捲る!」

「はい!」

ジョアンが袖を捲ると、レイリアは思い切り腕をツネった。

「いっ!!」

「どうですか?これくらいの強さでやるんですよ。さあ、私もツネって下さい!」

ジョアンも今度は思い切りツネった。

「ふー!結構なお点前でした。これで気合いが入ったわ!」

「レ、レイリア、これに何の意味が?」

「ああ、ごちゃごちゃ考えてもしょうがないんで、気合いを入れたのよ。もう言葉遣いにも気を使わないわ。ジョアン貴方はね、はっきり言って根暗だわ」

「ね、根暗!?」

「そう、根暗!くだらない事考え過ぎて、訳の分からない事し過ぎなの。どうせ私の事だって、結婚を迫る女をうまく利用しようと思っていたんでしょ?私に蹴られる前までは」

「うっ‥!図星だ‥」

「いくら兄上の為とはいえ、私を舐めてもらっちゃ困るわ。最初から正直に理由を話せば、こんな面倒な事にならなかったの!兄上兄上って、兄上しか見てないじゃないの。兄上の大安売り、いえ、大特価セールだわ!」

「大特価セールはよく分からないが、それは反省している。それでもやはり兄上は私にとっての一番なんだよ」


「ああ、やっぱりね。私にはよく分かるわ。貴方重度のブラコンね!?」

「ブ、ブラ‥!」

「私だってお兄様が世界一だもの。そんな私達は世間ではブラコンって呼ばれるのよ!だからある意味、私と貴方は似ているわ。私は根暗じゃないけどね」

「やっぱり私は根暗で決まりかい?」

「当たり前でしょ!名前でも変える?ネクランとか?」

「いや、勘弁してくれ。分かった、認めるよ。私は根暗だ」

「そう。素直な所が貴方のいい所だわ。兄上の教育の賜物かしら?」

「そう!そうなんだよ!兄上はこの面倒臭い私を、怒りもせず根気よく諭してくれるんだよ。最高の兄上なんだ」

「ブラコンも客観的に見るとイタイわねぇ。私も気を付けなきゃ」

「何の話だい?」

「いえ、とにかく、最優先事項は兄上エドゥアルド殿下の健康回復だと思うわ。貴方がやろうとしていた根回しは、もう私には意味がないし。私のやり方は出たとこ勝負ですから。要は陛下に文句のつけようが無い状態まで、健康を回復させてやればいいんでしょう?」

「そんな簡単な話じゃないんだよ。現に兄上はこの10年、ずっと毒に苦しめられてきたんだから。少女を見付けて薬を貰うか、マンソンの毒を手に入れて解毒剤を作るかの二択しかない。マンソンは、ほぼ無理だと言っていい。一族の中でも知っているのは限られている。となると残りは少女だが、未だに発見されていない」

「う〜ん、待つのは性に合わないけど、少女が見付かるまで根気良く待たなきゃダメなのね」

「そうなる。そしてその間に陛下が戻り、私に王位を継げと言うだろう。だから貴方には兄上を推して欲しい。なんなら兄上が生きていたならば、是非結婚したかったとでも言ってくれ」

「け、結婚!!エディ、いえ、エドゥアルド殿下と‥!?」

「なんならだよ。レイリアどうしたんだい?腕が赤いよ?」

「なんでもないわ。ちょっと熱いだけ。ええと、最終的にそう言うとして、少女が見付かったら私はどうなるの?エドゥアルド殿下と結婚って‥事にでもなったら、殿下は困るのでは?こんな乱暴なレディとは程遠い私なんて、私だったら嫌だわ」

「それは陛下とドミニク殿が決める事で、後は貴女の意思次第じゃないかな?それに兄上は、そんな事で嫌ったりしないよ。兄上は世界一心が広く、優しい人だからね」

「ああ、やっぱり見ててイタイわ。気を付けよう」

「えっ?」

「いえ、貴方を見て少し学べたって思っただけ。まあ、今日の所はこれで終わりしましょう。私にはレディ教育のスケジュールがびっしり入ってるし」

「ああ、引き止めて悪かったね。それにしても‥貴女は予測不可能な楽しい人だ。貴女の様な人に出会えて、私は嬉しいよ」

「あら?変な条件を付けて遠ざけようとしたのはどなたかしら?」

「本当にごめん!調子に乗った!」

「いいけど、この格好は当分継続するからそのつもりで!」

「そろそろ素顔を見せて貰いたいんだが」

「まだまだよ。少なくともお兄様が来るまでは継続よ。こんな格好お兄様には見せられないから」

「ああ、本当に酷い格好をさせてるね。私は」

「ジワジワくるでしょ?なら成功だわ。とにかく、今日はもう戻るわ。またここへ来ればいいの?」

「ここまで話したんだ。後は私が貴女と話を出来る様うまくやるよ。それじゃ頑張って!また後で」

「またねネクラン!」

レイリアは早足で神殿の入口へ戻って行った。

祭壇の前ではジョアンが

「そっち!?」

と呟いてクスクス笑っていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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